第345話 ヤシマ線開通式


 コア・シードを気持ちだけではあるが大事に収納し、『鉄のダンジョン』を後にした。丸いボールのダンジョン・コアであれ、したわれているとなると何となく気分がいい。


「マスター、フーもマスターを慕っているようですが」


 そっちの方は、……、まあいいや。


 次に作ることができるのが百年後だということは、俺にとってのコア・シードは今回ので最後ということだから、どこにコア・シードを埋めるかはよーく考えなくてはいけないな。



 ダンジョンを後にして坑道の出入り口の少し先に板で簡単に囲ったゴーレム置き場からゴーレムの成れの果ての鉄鉱石と石炭を全て収納しておいた。


 昼食時に学校の方にお邪魔するのも前回のように生徒たちに気を使わせてしまうので、ペラには用意していた追加の金貨の袋を手渡し、俺とアスカはこのまま帰るむねを告げ、そのまま冒険者ギルドに回ることにした。



 冒険者ギルドに向かう途中、おなかいてきたので、収納から串焼きを取り出して走りながら食べてやった。以前は走りながら食べるのはみっともないとアスカに止められたが、街中まちなかではないせいか今回は何も言われなかった。なので、アスカにも串焼きを二本渡してやったら、


「一本でいいです」


 と言われてしまった。アスカなら走っても手に持ったものが揺れることはないし誰も見ていないのだから、両手に一本ずつ串焼きを持って走ってもいい思うが、なにか本人に思うところがあるのか?


 走りながら串焼きを食べていたら、指先にタレがついてしまった。それをめながら走っていたら、


「伯爵閣下が指を舐め舐め走っていると、少し目立つような気がします」


 周りに誰もいないのに目立つも何もないだろうに。


 とはいえ、確かに幼児ではないのだから、指を舐めるのはみっともないので、ハンカチで拭いてやった。拭き終わったハンカチをアスカに渡し、


「ちょっと汚れているけれど、裏側で拭けば大丈夫だから」


「私はマスターのように指先が汚れているわけではありませんが、ありがとうございます」


 そう言って、俺の渡したハンカチを折り畳んで自分のポケットに入れてしまった。


 いつものように一言多いアスカさんだが、その方が俺もやりやすいのは確かだ。


 こうやっていつも二人で駆けているが、アスカは最初の時から見た目は変わらず18歳のまま。俺は今は17歳。第三者が俺とアスカを見ればほとんど同い年おないどしに見えると思う。そう考えるとちょっと不思議な気がしてきた。


 あれ? 来年には俺とアスカは18歳、再来年には俺が19でアスカは18。そして、その後は? あれれ? ずっと未来のことは今は考えないようにしよう。



 冒険者ギルドに入るとすぐにスミスさんを見つけたので、石炭ゴーレムの話をしようとしたら、


「ショウタさん、いえコダマ閣下、伯爵にご陞爵しょうしゃくおめでとうございます」


 と、先にお祝いを言われてしまった。秘密にしているわけではないが、冒険者ギルドではAランク冒険者のショウタということにしているので、少々気恥きはずかしい。


「ありがとうございます。今までと変わらず、Aランク冒険者のショウタということでお願いします」


 そういったおいた。スミスさんは笑いながらうなずいていた。



 あたらめて、石炭ゴーレムの話をしたら、前回と同じようにギルドの裏手にまわって、ギルドの鍛冶場の横にある資材置き場に連れていかれた。そこにサンプルの石炭ゴーレムと大量の鉄鉱石ゴーレムの残骸を置いておいた。それと、石炭ゴーレムの魔石もスミスさんに渡しておいた。鉄鉱石の方は計量後、代金が俺の商業ギルドの口座に振り込まれることになっている。


 30分ほど待っていれば石炭ゴーレムの取引価格のが出せるというので、ギルドの小会議室で出されたお茶を飲みながらアスカと待っていると、ちょうど30分でスミスさんが戻ってきた。


 結論として、


 石炭ゴーレムの素材価値は小金貨1枚。魔石も小金貨1枚。一体当たりの基準の重さは300キロということになった。運賃の方は、6体分で小金貨1枚だ。


 明日にでもペラに伝えてやろう。しかし、生徒たちが卒業して一般の冒険者として活動をはじめたら、そのいちじるしい成長が他の冒険者たちに認識されるだろうから、ちょっとした騒動になりそうだ。





 その翌週。ヤシマ線の開通式がセントラル南駅で執り行われた。俺とアスカは来賓らいひんとして呼ばれ、俺も一言だけ挨拶あいさつした。そして拍手のうちに一番列車が警笛代わりの鐘を鳴らしながら空の貨車を十両引いてヤシマ駅に走っていった。


 機関車の運転手は、商業ギルドの人物だ。半日ほどアスカが実地でこの人物ともう一名運転を教えている。物覚えの良い人たちだったようですぐに運転のコツなどはつかんだという話だ。


 ギルドの方でもアスカの渡した図面で、貨車まではなんとか自作できるようになったそうだが、機関車にはまだ時間がかかりそうだということで、こちらでヤシマ線用の予備として2号機関車を一両、保線用の用具、機材と一緒に提供しており、機関車はセントラル南駅内の引き込み線の中に停めている。


 機関車の商業ギルドでの製作もなんとか目途は立っているそうなので、これ以上アスカの手が必要になることもないだろう。


 そういった背景の中、準備万端でヤシマ線は開業できたわけである。2時間後、先ほど出発した機関車が、積み荷を満載した貨車を引いて戻ってきて、貨車を空の十両と取り換えてまたヤシマに向かうという流れである。


 開通式は、とどこおりなく終了したので、われわれ来賓は、商業ギルドが用意した馬車に乗って、『ナイツオブダイヤモンド』に移動しお決まりの宴会ということになった。


 俺とアスカはリストさんと同じテーブルを囲んでいるので、当然話をするのだが、やはり、商業ギルドとしては、キルン方向にレールを伸ばしたいようだ。


「わかりました。工事などは商業ギルドで行っていただけるのなら、キルンまで約500キロ。レールとその付属品などを提供しましょう」


「そう言っていただきありがとうございます。測量や用地のこともありますので、まだ先の話ですがそのときはよろしくお願いします」


 いつものように簡単に引き受けてしまったが、すでにレールも接続金具などの鋼鉄製の敷設用資材も用意はできているので、安請け合いやすうけあいというほどでもないだろう。


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