第344話 石炭ゴーレム、ベイビー・コア


 王都の真ん中にいきなり巨木が現れたため、王都内で話題になり、かなりの人がうちの敷地の前までやってきて見上げていた。しかも、昼間は、その木の周りを不思議な生き物が走り回っている。さらに見物人の数が増えてしまった。北側の敷地の周りにはかなり密に杭を打ったので、中に入り込むような連中はいないが日中はそれなりに騒がしい。


 ブラッキーとホワイティーは神経が細くはないようで、杭の間から覗いている人たちのことは気にせず原っぱの中を走り回っている。たまに木に登ろうとしているがまだ登れないようだ。





 冒険者学校の方は、そろそろ『鉄のダンジョン』に石炭ゴーレムを登場させようと思い、アスカと一緒に生徒たちの実習に一度付き合った。


 あらかじめペラには、今日から石炭ゴーレム二体と、ヘマタイトゴーレム一体のグループが現れるということを伝えて、一足早く『鉄のダンジョン』の中に俺とアスカは入って行った。


 ダンジョンに入ってすぐ、


「今日から、石炭ゴーレム二体と、ヘマタイトゴーレム一体のグループで1層を回らせるようにしてくれ」


 と指示しておいた。



 どういった仕組みになっているのか分からないが、ミニマップ上、単独で動いていた赤い点が、気付けば三つの赤い点の塊となって動いている。コアのヤツ仕事が早いな。


「そういえば、訓練用の練習区画の方はどうなっている?」


『現在、4区画作成済みで、5区画目を作成中です』


 4区画ということはちょうど1平方キロか。それだけでも十分広いが、二期生が実習を始めるころまでには、10区画程度までは余裕で拡張できそうだ。


「それじゃあ、今日も3000ほど魔力を吸い上げてくれるか?」


『ありがとうございます。……、3万DPダンジョンポイントが増えました。現在のDPは36816です』


『コア親和度しんわどが最大値となりました。今後魔力MP1に対してDPが20増加します』


 コア親和度がどういったものなのかはっきりとは分からないが、俺とコアのきずなのようなものと思っておけば良さそうだ。しかし、1対10でも相当すごいと思ったが、1対20となるととてつもないな。


「マスター、コアにとって、マスターが最初のダンジョンマスターだったから破格はかく好待遇こうたいぐうなのかもしれませんね」


 要は俺が、コアにとっての初めての人ってわけか? そんなのがあるのか?


「そういうことでしたら、マスターのファン1号かもしれませんね」


 ありがたいことではあるが、ファン1号は人間の方が良かった。


『さらに、DP10000を消費して、コア・シードを作成可能です。コア・シードを一度作成すると次のシードが作成可能になるまで約100年必要です』


 コア・シード? なんだ?


『コア・シードは地下に埋めておくと、1年後ダンジョン・コアに成長し、周囲にダンジョンを作り始めます。埋めた場所の地質状況などから、ダンジョンの初期の特徴が決定されます。また、生まれたてのダンジョンにはダンジョンマスターは存在しません。最初に、コアに接触した者がダンジョンマスターとなります』


 DP10000ならいまあるDPで足りている。コア・シードに問題があるようなら埋めなければいいだけだ。


『コア・シードを作成しますか?』


「コア・シードを作ってくれ」


『作成に3時間ほどかかりますので、お待ちください』


 そのくらいの時間はかかるよな。おそらく今の時刻は9時前だから正午にはコア・シードが手に入るのか。



 そろそろ、生徒たちもダンジョンに入ってくるころだ。ここのところ、冒険者学校に顔を出していなかったので生徒たちがどれくらい冒険者らしくなってきたのか楽しみではある。


 おっと、そんなことを考えていたら、生徒たちが黒い渦の中から現れ始めた。


 最初に入ってくるのは、ペラかと思ったが、3名の生徒が黒い渦の中から現れた。三人とも、メイスを油断なく構え周囲を警戒している。ダンジョンの中で俺たち二人を見つけてあからさまに緊張したようだが、俺とアスカであると分かり、緊張を解いたようだ。何にせよ、緊張しても慌てることなく、動きがきびきびしていた。たしかに、もういっぱしの冒険者といってもいい気がする。


 そして各パーティーの残りの三人が四輪車を押しながら、黒い渦の中から現れ、最後にペラが現れた。


「各パーティーはそれぞれ周囲を警戒しながら、散開してモンスターをたおせ。先ほどみんなに伝えたように、今日から、新しく、石炭コールゴーレムが登場する。各人かくじん気を引き締めて行け」


「はい!」


 もはや軍隊並みの統制だ。実際こういった戦闘を想定したパーティー運用は軍隊形式の方が効率がいいのだろう。


 三パーティーが四輪車とともに、別々の通路を進んでいくようだ。ペラは第1パーティーにくっ付いて行ってしまった。俺とアスカは第2パーティーの後についていくことにした。前回一番錬度れんどが高かった女子四人組の第3パーティーには誰も付かないが、そもそも俺とアスカは余分なので、今さらだ。


 ミニマップを見ながら進んでいく。早くも、第1パーティーは接敵せってきしたようだ。と思ったら、赤い3点が消えてしまった。


 あれ?


「接敵と同時に撃破したようです」


 石炭ゴーレムは鉄鉱石ゴーレムと比べればもろいのだろうが、ここまで簡単に撃破されるとは予想外だ。


 おっと、俺たちの前を行く第2パーティーもゴーレムのグループを見つけたようだ。四輪車をその場に置いて、メイスを構えて、四人そろって一気に走り出した。


 ド、ド、ド、ドン!


 四つの音が重なるように響いたと思ったら、石炭ゴーレム二体と鉄鉱石ゴーレム一体が床に転がっていた。


 そのあとすぐに、一人が四輪車を取りに引き返し、残った三人はゴーレムを砕き始めた。


 砕きながら魔石を回収し、大き目の塊は手で、小さいものはペラの用意したスコップできれいにすくって四輪車の中に積み込んで行く。


「マスター、粉々になった鉄鉱石と石炭が混ざり合ってしまいましたね」


 あっちゃー! これは今後の課題だ。俺が居れば、全部をいったん収納して別々に排出できると思うが、俺がいないとどうしようもない。今回はこのまま進めるとしても次回からは石炭ゴーレムは石炭ゴーレムで徘徊させるようにしないとマズいな。


 少しずつ改善点も見えてくる。



 今三体のゴーレムを斃しただけで四輪車はいっぱいになったため、第2パーティーの生徒たちは四人がかりで四輪車を押したり引いたりして出入り口の方に向かって帰って行った。


 非常に効率が悪いのだが、こればかりはどうしようもない。しかし、生徒たちは実際相当強くなっている。


「アスカ、今の戦闘を見てどう思う?」


「だいぶ良くなってきたようです。戦闘力に限れば冒険者ではBランク程度の力はあると思います」


 冒険者は戦闘能力だけでは測れない経験からくるノウハウなどで裏打ちされていないと思わぬところで失敗することもあるだろうが、戦闘力だけでもBランクということは、ここいらでは、トップクラスと言うことだ。いいのか、たった二カ月ちょっとの訓練でここまで強くなってしまって!?


 いったん俺たちも出入り口まで戻ってくると、第1パーティーを見ていたペラもそこに立っており、第3パーティーも四輪車に石炭と鉄鉱石を積んで戻ってきた。


 10分ほど出入り口近くで待っていたら、空になった四輪車を持って生徒たちがパーティーごとに戻ってき始めた。


「石炭と鉄鉱石を分けることができなかったため、一緒に鉄鉱石置き場に置いておきました」


 生徒の一人がペラに報告した。


「ご苦労。引き続き訓練を続行せよ」


「はい!」


 そういえば、石炭ゴーレムの価格交渉をするのを忘れていたから、後で一体見本を採っておかなくちゃな。アスカ覚えていてくれ。


「はい、マスター」



 そういった感じで結局各パーティー、時間までに5往復したようだ。


「俺たちは少し用があるから、ペラたちは先に上がってくれ」


「はい、マスター」


 生徒たちがダンジョンから引き揚げ、ペラが最後にダンジョンを後にした。




「マスター、石炭ゴーレムのサンプルを忘れないうちに採ってしまいましょう」


 やはり忘れるところだった。サンキュ、アスカ。


 ミニマップで見て一番近い、三体グループを魔石奪取からの収納でたおしてサンプルを手に入れた。


 そろそろ、コア・シードができたころだろう。


「コア、コア・シードはできたか?」


『生まれて、いまは私の隣に浮いています。シードをそちらに送ります。大事に育ててください』


 ほう、コアにも感情があるようだな。


 目の前に、ゴルフボール大の真っ白い玉が現れた。これがコア・シードか。早速さっそく収納しておこう。


「マスター、コア・シードは、ベビー・コアとでも言いましょうか、この『鉄のダンジョン』のコアとマスターの間に生まれた子供のようですね」


 うへ!? 俺の最初の子どもがゴルフボールなのか。最近なぜか人外に好かれているような気がするが、気がするだけだよな。






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