第352話 あー夏休み1
ラッティーが付属校の試験に合格し、無事入学手続きを終え、制服なども取り揃えホッとしたところで、俺は肩の荷が下りたような気がして一気に
シャーリーも期末試験を終えて、夏休みに突入している。
シャーリーに期末試験のあと、できを聞いたところまずまずのできだったようで、2年生になってもAクラスは維持できるとのことだった。
俺とすれば、ちゃんと卒業してくれさえすればそれ以上は望んでいないのでほどほどに頑張ってくれればいいと思っているのだが、優等生のエメルダさんと別のクラスにはなりたくないといって頑張っているそうだ。何事も目標があればそこに向かって行くことも可能なのだろう。
俺みたいに目標も何もない実質無職の人間から見るとシャーリーといいラッティーといい輝いて見える。
騎士団にはすでに『ボルツン・ワン、3号艇』が納入されており、毎日国中を飛び回っているそうだ。2号艇も王都、キルン間の定期運航を始めて久しい。
王都キルン間の鉄道敷設については、王宮からの許可も下りたようで、現在測量作業を行っている。敷設作業開始の目途が立てば、商業ギルドの指定する場所にレールなどを置いていくことになっている。こちらの方は5年を目途に開通を目指そうという計画らしいので、まだまだ先の話だ。
冒険者学校にはすでに20名の新入生が入学しており、現在は、体力作り中だ。採寸の終わった防具は製作中で、メイスは人数分、四輪車は予備を含め追加で4台アスカがすでに作成している。
一期生の四人娘も助手として学校に泊まり込んでいる。彼女たちは今まで二階の生徒用の部屋で寝泊まりしていたのだが、そちらは新入生に明け渡し、一階の空き部屋に引っ越している。もちろん引っ越す前には寝具や家具などは据え付け済みだ。
ということで冒険者学校の方は順調だ。三期生のために校舎の増築をフォレスタルさんにお願いしており、二カ月ほどで工事は完了するそうだ。これで、一期40名態勢が完成する。
一般の冒険者に戻った1期生8名はたった三カ月の訓練でGランクからBランクに昇進した冒険者としてすでに王都の冒険者ギルドでかなり話題になっているようだ。そのせいか、まだ募集もしていない3期生についての問い合わせがギルドに殺到しているそうだ。
俺にとっての心配事は、俺の部屋に鎮座するフーさまの額の数字が知らぬ間に6になっていることだ。俺の把握している信者は、ラッティーとイエロー四人娘の五人だ。いったい誰が新たな犠牲者だ!
いったい誰だろうと、自室の机の後ろの椅子に座って考えていたら、扉がノックされた。
「どうぞ」
そしたら、部屋の扉が開いて、シャーリーが入ってきた。
「ショウタさん部屋にいたんだ。すこしだけお邪魔します」
そう言って、シャーリーがフーに向かって二礼
「失礼しました」
と言って部屋を出ていった。
おいおい、身近にいたよ。考えてみれば、信者ナンバーワンのラッティーと同じ部屋にいるシャーリーが
見てはいけないものを見てしまったような
「マスター、ぼうっとしてても仕方ありませんから、シャーリーとラッティーにダンスを教えませんか?」
「そうだったな。またすっかり忘れていた。思い出させてくれてありがとう」
また、大事なことを忘れてしまっていたようだ。最近目が
「マスター、何をバカなことを言っているんですか。マスターの物忘れについては分かりませんが、両目の視力は相当なものと思います」
「どうして、アスカに俺の視力のことがわかるんだ?」
あっ! いつぞや、ミニマップだけでなく、視界も共有しているとか言っていたがあれは冗談ではなかったのか? あんなものやそんなものに俺の目線が行っていたのをアスカに悟られていた! マズい。マズいぞ。
「いえ、そんなことはありません。ただ言ってみただけです」
まあいいや。どっちにせよ後の祭りだと開き直ってしまえばそれまでだ。
「そういえば、私はマスターの記憶を再構成して映像として誰にでもフィードバックできることを覚えていますか?」
「あったなVRmmOだろ?」
「はいそうです」
「それが?」
「ただ言ってみただけです」
うーん。なんだか
「シャーリーとラッティーのダンスの話です」
そうだった、そうだった。やはり、俺の記憶力は低下しているらしい。待てよ、元からこうなら、低下とは言わないか。だけど、元からこうなら俺は認知症だったのか? まあ、『幸せは忘却の先にある』とも言うしな。
「そうだったんですか?」
「いや、今思いついただけだ。それで何の話だったっけ?」
「マスター、今のはわざとでしたよね」
ばれたようだ。
「冗談を言っただけだ。だけど、ダンスの訓練なら、アスカがダンス教師をする間、俺は見ているだけでいいんだろ?」
「私もマスターと一緒に二度ほどダンスパーティーに出ましたのでマスターの
俺の必殺技が一点豪華主義で悪かったな。必殺技は唯一無二でなにが悪い? ちょっと意味が違うかもしれないが、オンリーワンは全員ナンバーワンなんだぞ。
「唯一無二とか言ってタンゴ一点張りですと今後の貴族としてのお付き合いに支障が出るかも知れませんので、マスターもせめてあと二種類くらいはダンスを覚えてみませんか?」
「そういうアスカだって、俺以外とは踊ってないだろ? 貴族の付き合いなどあろうが無かろうが俺たちにはあまり関係ないんじゃないか?」
「私たち二人だけならそれでもいいのでしょうが、シャーリーとラッティーの保護者としては問題が出るかも知れません」
そう言われると俺も弱い。二人のために俺にできることは何でもやろうと決めているからだ。アスカ、そこを持ちだすのはちょっと
「わかった。努力はしてみる」
「それでしたら、今日の夕方、食事前からでも始めましょう。シャーリーとラッティーには伝えておきます」
仕方ない、ダンスの練習をするしかないな。
練習を始める夕方までなにもすることもないし、最近温室に顔を出していないので様子を見てみるか。気温も上がっているからかなり室温も上がっているはずだ。
思いたったので、すぐに温室の中を覗こうと、居間から移動して温室の扉を開けたら、むっとした熱気に襲われてしまった。温室の中は、居間より10度以上室温があるように感じる。いや、10度どころかもっと高そうだ。温室の上の方に並んだ小窓は熱気を
温室の中では、知らぬ間に所狭しと並べられたかなり大きな鉢やプランターに色とりどりの花を咲かせた木や草が植えられていた。これで、キーとかギャーとかのけたたましい鳴き声が響いてくればまさにジャングルだ。
しかし、一体誰の趣味でここまでのジャングルができ上ったんだ?
俺が温室の中でそのジャングルっぽさに見とれていたらアスカがやって来て、
「マスター、どうです? この温室は?」
「どうとは?」
「かなり苦労してここまで育てた植物ですが、こんなに元気に育つとは思ってもいませんでした」
このジャングルはアスカさんの力作だったようです。
アスカがこういった作業をいつしていたのか全く気付かなかった俺もたいがいだが、ここまでのジャングルを作るのは並大抵じゃないだろう。よく見ると確かに鉢やプランターはどこかの石からアスカが切り出したものだと言われればそんな気もする。しかし、植物の
ジャングルも面白いが、今度は冬になって気温が下がってくるとみんな枯れそうな気がするのだが、どうだろう。
そうだ、その時は石油も見つけたことだし、石油ストーブを作って暖房すればいいか。
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