第342話 陞爵(しょうしゃく)式
[まえがき]
今回は、なろう版旧作の短編集S01とほぼ同じ内容になっています。
◇◇◇◇◇◇◇◇
騎士団に『ボルツR2型3号艇』を納入するということと、これまでの王国への功績により、俺は子爵から
騎士団からの操縦士見習いを指導したし、整備士見習いたちの方もボルツさんが半人前以上には鍛えたことも評価されたらしい。
操縦方法の指導はアスカが受け持ったのだが、そこらへんは、みんな俺の功績と見なされたようだ。北の砦への物資運搬も何回か請け負ったしな。
3号艇の胴体部分の両側にはアデレード王国の楯の前で交差する2本の剣の紋章を黒く描いている。騎士団では紋章を金色で描きたかったようだが、濃い砂色の外板の地の上に金色では目立たなかったので黒い紋章となった。
ボルツさんが一人で式のための着付けなどの準備ができるとも思えなかったので、叙爵・陞爵式の前日にはボルツさんをうちに呼んで、一泊してもらい式当日着付けなどをうちの者に手伝わせたうえで、うちの馬車で王宮に向かうことにした。
式用に
そして今日。
ボルツさんは、明日の叙爵式を控え、その日のために急いで
「ショウタさん。この格好、変に見えへんよな?」
「ボルツさん、あの屋敷に住んでただけあって、お嬢さまだったんですね。良くお似合いです」
ちょっと失礼だったか。作業服を脱いで、化粧をして、口紅まで塗ったボルツさんは
ボルツさんは小柄な体系のため、アスカが叙爵したときのようなスラックスは似合わないということで、ドレスを新調したようだ。ドレスは
「アスカ、どうだ?」
「
こら、見違えるなら、俺と同じ馬子にも衣裳って言ってることと同じだろう。
「ボルツさま、本当にお美しい」ハート姉妹がうっとりと、ボルツさんを見つめている。
「みんなありがと。
顔を赤らめたボルツさんが隣の部屋に引っ込んだ。そのボルツさんに、
「お手伝いします」ハート姉妹が付いていった。
翌日、俺達は、王宮からの迎えは断り、サージェントさんが御者をするうちの馬車で王宮に向かった。今日のアスカは招待状をもらっての貴族枠での出席である。せっかくアスカに小さくしてもらったフー人形であるが、机の上に置いていたら知らぬ間に、首から下げれるように、背中の紐通しに紐が通されていた。おそらく、フー教のちびっ子伝道師の仕業だろうから、仕方ないけれど、今は下着のシャツの上になるように首からぶら下げている。
三人の乗る馬車の中で、
「どないしよ。緊張してきてもうた」
「ボルツさん心配無用です。私も隣にいるわけですから。それにまさかの時のため
「
「いや、奇策ではなく秘策です」やっぱり奇策でいいのか?
「で、その秘策ちゅうのはどないなもんや?」
「ボルツさん、叙爵の時、緊張しすぎてもうだめだと思ったこの薬を歯で噛み潰して飲み込んでください」
そういって、一粒の丸薬を渡す。
「式が始まる前に口に入れておくのを忘れないでくださいね」
「飲み込むとどおなるん?」
「緊張が無くなり、知らないうちに式を乗り越えていると思います」
「乗り越える?」
「まあ、『ボルツン・ワン』に乗ったつもりで、任せておいてください」
「???」
王宮の車寄せで馬車を降り、出入り口から中に入ると、案内の侍女の人が待っていた。この時点でボルツさんは、両手と両足のコントロールがおぼつかなくなったようで、左右の手足が同時に動くようになってしまった。アスカは別の人に連れられ、先に式場の方に行ってしまった。
アスカがこの時点でいなくなることは想定外だったのだが、何とかボルツさんは、案内の人について控室に到着することができた。
「ショウタさん、わたしはもうあかん。もろうた薬飲んでもええか?」
「もう少し、式場に入るまで
「スッスッハー、スッスッハー」
「少しは、落ち着きましたか? そろそろ薬を準備しておきましょう」
「……」
青い顔のボルツさんが渡しておいた薬を1粒口に含んだ。
「せっかくの式ですから、薬はなるべく
前回同様、式の5分前に迎えが来た。式場の前まで迎えの人に連れられやってきたのだが、大きくて立派な扉が開かれたところで、ガリッとボルツさんが薬を噛み砕く音がした。
そのまま薬の効果で立ったまま眠ってしまったボルツさんは歩みを止めて、前のめりに倒れそうになったのだが、急にシャキッと起き上がり自力?で式場の広間に入ることができた。
前回の俺は、アスカの言う通りに体を動かしての、
『ボルツマリオネット作戦』スタートだ! 式場に入る前でボルツさんが早くも薬を飲み込んでしまった時には慌てたが、何とか式場の中にいたアスカが気付いてくれたらしい。
まず、先にボルツさんが男爵に叙爵され、俺がその後陞爵されるようだ。
「タチアナ・ボルツさま、前にお進みください」
ゆっくり、前に進み出るボルツさん。一歩、二歩、三歩。ここでハプニングが起きてしまった。慣れないヒールを履いた足が何かに
式場に集まった人たちの驚きの声が上がる。俺も驚いた。
「タチアナ・ボルツ、その方の作りし飛空艇による王国への貢献は見事である。よってその功に報いるため、そなたを男爵に叙する」
「タチアナ・ボルツ男爵、立ち上がってください」
立ち上がったボルツさんの胸に勲章が国王陛下から付けられボルツさんは無事?男爵に叙爵された。ボルツさんの白目を見て陛下は一瞬ビックリしたようだがさすがは王さま、何事もなかったように落ち着いていた。
俺の方は2度目なので、問題なく伯爵に陞爵したさ。
……
今は式が無事終わり、控室に戻ってきている。アスカもボルツさんを控室に連れ戻す操作をする必要があるので、一緒についてきた。
「アスカ、式の時、ボルツさんが前転したけど、どうしたんだ? お前がミスをするはずないからワザとだよな?」
「あれで、ボルツさんは王宮の人気者になったはずです」
そうかもしれないし、そうなんだろうけど、もう少しやりようがあったろうに。それに本人もそんなこと望んでないと思うよ。
でも、後でこのことをボルツさんが他の人から聞いたら、少しはあがり症が改善されるかも知れない。いや、やっぱりそれは無いかな。
控室の椅子に座って気持ちよさそうに寝ているボルツさん。いい夢を見ているようだ。
そのあと、うちに帰り宴会だ。ボルツ工房の2人、アルマさんにフレデリカさん、商業ギルドのリストさんに秘書のポーラさん。ボルツ工房で修行を積んだ見習い整備士の面々。『ボルツR2型2号艇』で訓練中の見習い操縦士の面々も今日は訓練を切り上げ集まってくれた。
「それでは、みんなありがとう。ボルツさんもおめでとうございます。乾杯!」
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