第339話 お帰りなさい2


 一度前方で見つけたワイバーンの群れをたおしただけで、何事もなく順調に飛行は続き、予定の午後3時に屋敷の草原くさはらに『スカイ・レイ』は着陸した。


 すぐに、屋敷から中にいた連中が迎えに出てくれ、その中でもシャーリーは一番に駆けてきた。


「みんな、お帰りなさーい。

 エメルダさーん!」


「あら、シャーリーさん、ありがとう。

 ショウタさん、いえコダマ子爵殿、エンダー子爵殿、私の国への送り迎え、祖母の病気回復、誠にありがとうございました」


 エメルダさんがかしこまって深々と頭をさげ、一緒に侍女のパトリシアさんも頭を下げた。


 こういうのは苦手なので、


「頭を上げてください。いつもヒマにしているわれわれですし、薬のことも丁度ちょうど持っていたものを試しただけでしたから。

 そうだ、二人とも、今日はうちに泊まっていきませんか? エメルダさんは明日シャーリーと一緒に登校すればいいじゃありませんか?」


「よろしいんですか?」


「エメルダさんが学校を休んでいた一週間のことをシャーリーに教えてもらえばちょうどいいでしょう。

 なあ、シャーリー?」


「エメルダさん、是非ぜひそうしてください。うちは食事もおいしいし、楽しいですよ」


「それでしたら、お言葉に甘えて。

 パトリシアもいいわよね?」


「はい。お嬢さま」


 そういうことで、エメルダさんたちは今日はうちに泊まることになった。夕食の仕込み中でここにはいなかったゴーメイさんたちには、ミラが伝えておくと駆けて行った。


「それじゃあ、シャーリーは二人を適当な客室に案内してくれるか? 俺の預かっている二人の荷物はいったん玄関に置いておくから。そういえばシャーリー、制服の予備って持ってるよな?」


「持ってます。エメルダさんなら私の服で大丈夫と思います」


「それじゃあ何も問題はないな」


 シャーリーの制服ではエメルダさんが着ると胸元が少しきつくなるかもしれない。ここで見比べて確認するわけにもいかないが、たぶんおそらくきっと大丈夫だろう。


「明日は特別何か必要でもないので、大丈夫だと思います。お弁当を二人分ゴーメイさんに頼んでおくくらいかな」


「そっちは忘れずにな」


 付属校の方は問題なし。



「わたしは、ショウタさんの部屋に行ってフーにお礼を言ってくる」


 ラッティーはフーのことが気になっているようで駆けて行った。


 他のみんなも屋敷に入って、俺はエメルダさんたちの荷物を玄関に置いて、アスカと連れだってブラッキーとホワイティーのいる馬小屋にまわった。シルバーとウーマは草原くさはらでのんびりしていたから今はヒナたちしか馬小屋にいないはずだ。


 馬小屋の扉を開けたことで俺たちに気づいたヒナたちが「ピーー、ピーー」と鳴き始めた。これまでの鳴き声と比べ声が大きいし低くなった気がする。


 近くに寄ってみると、羽毛からちゃんとした羽根が生え始めている。胸からくちばしにかけては白っぽい羽根で、翼の羽根はこげ茶のようだ。大きさもこの二日で目に見えて大きくなった。


 ヒナたちに収納から取り出したドラゴンのスライス肉をやりながら、


「思っていた以上に成長が早いな」


「まだ話せないようですから子どもです」


「まだ子どもというのは分かるけど、羽根も生え変わり始めてるし、胴体の方もしっかりしてきてるぞ。早めに小屋を作った方がいいかもな」


「材料さえあれば、簡単に作れますからいつでもいいでしょう」


「材木ならまだたくさんあるぞ」


「それなら、明日にでも作ってしまいましょうか?」


「場所をどこにするかな? ここの敷地もいよいよ狭くなってきたな」


「考えておきます」




 エサをやり終えて屋敷に戻ったら、玄関に置いていたエメルダさんたちの荷物は片付けられていた。ちょっと悪いことをしたな。少し反省。


 一度俺も自分の部屋に帰って、フーの様子を見てみるとしよう。



 部屋に入ると、フーはちゃんと出発した時と同じ場所に立っていた。幾分拍子抜けしてしまったのだが、俺はフーに何かを期待していたのかもしれない。


 それでも、何だか雰囲気ふんいきが違っているような気がする。フーをよく見ると、額の上に数字の『1』と見える白い模様が浮かんでいた。何だこれ? 今までそんな模様はなかったはずだけど。


 一緒に俺についてきたアスカに、


「いままで、こんな模様はなかったよな?」


「はい。模様はありませんでした。数字の1に見えますが、ひょっとして、……」


「なんだよ?」


「フーの信者、いえ、『常闇とこやみの女神』の信者数では?」


「それはないだろ。だって、ブレトの街には石像があったくらいなんだし、少なくとも複数の信者がいるんじゃないか?」


「そうですね。ということは、フーそのもの信者かも。現に1名だけ心当たりがあります」


「心当たり?」


「ラッティーです」


「あー、そういえばそうだったな。ありうるな」


 うーん。どうなんだろ? この模様というか数字が2になったりしたら何か起きそうでそれはそれで嫌だな。


『みんなも、ちゃんとフーにお参りしてたほうがいいって……』


 部屋の外でラッティーがなにやらしゃべっている。


 すぐに部屋の扉が開いて、ラッティーが入ってきた。後ろには四人娘たちがいる。


「ショウタさんいたんだ。みんなにフーのご利益りやくを説明したので、ついでにお参りするの」


 なんだか、ラッティーが宗教勧誘を始めてしまった。これはいいのか?


 見ていると、ラッティーが先頭に立って、フーに向かい二回礼をして、後ろの四人が同じように二回礼をした。


 そして、拍手かしわでを二回。


 それから、礼を一回。


 きれいな形での二礼二拍手はくしゅ一礼をした。


「これで、みんなにもすごーいご利益りやくがきっとあるから。期待してて」


 宗教勧誘そのものである。ラッティーは自分の国に帰って女王さまになったら国教にしそうだ。


「マスター、大変です」


「?」


「フーのひたいの数字が5になっています」


 ほんとだ。額の上に白く5の数字が浮き出てる。今フーにお参りしたのがラッティーを含めてちょうど5人。四人娘たちも信者になってしまったのか? というより、俺のこの部屋がご本尊さまの安置所になっている。何とかしてくれよ。


「マスター、こうなったらフーのおやしろも必要ですね」


 そんなー。




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