第338話 お帰りなさい1


 前日の受爵じゅしゃくとダンスパーティーから、一夜明けて、今日はエメルダさんを連れてセントラルに帰る日だ。


 騎士団訓練場から9時出発の予定で、往きの時と同じくエメルダさんとパトリシアさんの二人が乗客だ。


 朝の支度したくを終えてくつろいでいたら、朝食が部屋に届けられた。朝食のワゴンに続いて、ラッティーの着ていた普段着と、エメルダさんがラッティーくらいの時に来ていた衣装が、台車で衣装箱に三箱も届けられてしまった。靴や小物なども別に一箱分あった。俺がいくらでも収納できるということを知っているから、あるだけラッティーにくれたのかもしれない。運び込まれた箱をありがたく収納しておいた。


 そのとき、衣装を台車に乗せて届けてくれた侍女の人に、


「もし、エメルダさんがセントラルに持っていきたいものがあるようなら、いくら大きかろうと多かろうとわたしが収納してしまいますから、遠慮なく持ってきてください」


 そう言っておいた。



 そろそろいい時間かなと思っていたら、案内の女性の人がやって来たので、その人について騎士団の訓練場まで歩いていく。天気は晴天。雲一つない青空だ。


 練習場では、入り口から騎士を中心とした騎士団の兵隊さんたちが左右に整列しており、その真ん中を歩かされてしまった。その先に立っていた王族の人たちや役人の人たちに簡単に挨拶あいさつして出発。


「エメルダをよろしくおねがいします」


 国王陛下と王妃殿下に頼まれてしまったのだが、この意味合いは、単に飛空艇でエメルダさんを送ることってことじゃないよな。俺としても何かあれば当然力になるつもりなので、


「お任せください」と返事をしておいた。


 その後、エメルダさんの荷物を収納し、『スカイ・レイ』を排出。エメルダさんたちの荷物として、侍女の人が台車で、往きの時と同じくスーツケースほどの二つの荷物と飛行中の食事としてサンドイッチの入った大きなバスケット、それに飲み物の入った水筒を数本持ってきていたのでそれを収納しておいた。結局特別なものは特になかったようだ。


 しばらくご両親やおばあさんと会えなくなるエメルダさんもとりあえず別れの挨拶あいさつを済ませたようなので、


「それでは、出発します」


 そう言って、みんなで『スカイ・レイ』に乗り込んだ。



 今や副操縦士のラッティーは何も言わなくても副操縦士席にまっしぐらだ。


 エメルダさんと侍女のパトリシアさんがアスカの後ろの左側の座席に並んで座ったので俺はラッティーの後ろに座った。


 出発前に、キャノピーから外を見ると、兵隊さんたちが一斉に槍を真上に突きあげた。そろった動きは気持ちがいい。ここで『スカイ・レイ』がぐずぐずしていると兵隊さんたちも腕が疲れるからさっさと離陸しなければいけない。


 心配するほどもなく、すぐに床の下が振動を始め、


「『スカイ・レイ』発進準備完了!」


「『スカイ・レイ』発進!」


「『スカイ・レイ』発進します」


 この二人、いまや息もぴったりだ。俺は立場たちばと一緒に座席も無くなってしまった。




 上昇した『スカイ・レイ』は、一度エメルダさんたちのために王都ブレトの上空を一周して、セントラルのある南に向かい飛行を開始した。遠ざかっていくブレトの街をルマーニの二人はずっとキャノピーに顔を寄せて眺めていたが、10分ほどで街は見えなくなったようだ。


 9時の出発だったので、セントラルの屋敷への帰還予定は6時間後の15時。



 帰りは、晴天の中順調に『スカイ・レイ』は飛行を続けた。



 昼時ひるどきには、ルマーニで用意してもらったサンドイッチをみんなでいただいた。食後のお茶を飲みながらくつろいでいたら、


「前方、飛行型のモンスター、その数八、おそらくワイバーンです」


「なんだか、ここのところよくワイバーンによく出くわすな」


「前回もこのあたりで遭遇しましたから、近くにワイバーンの大規模な巣があるのか、このあたりに移動して来たのか」


「下は主要街道だし、近くに巣があると厄介やっかいだな。一応ミニマップにも捉えたからさっさと駆除くじょしてしまおう」


 目視では漏れもありうるので、ミニマップに映っている赤い点を見ながら魔石奪取からの収納を発動する。魔石を抜いて収納したワイバーンはアスカの報告してくれた数通り八匹。この近くに巣があるのか。右手にしに見える山並みの方からやって来たのか。


『ワイバーン』というの俺たちの会話の中の言葉にエメルダさんたちが少し緊張したようだ。ラッティーはそろそろ慣れて来たようでそんなには驚いていない。


 見た目的みためてきには前方のゴマ粒が消えて無くなっただけなので全くといっていいほど迫力に欠ける。


「あのう、もう、ワイバーンがたおしちゃったんですか?」


「まあ、一応。いま八匹のワイバーンを斃してそのまま収納しました」


 前回は二人とも見ていなかったし、俺が口だけで言っても信じてもらえそうにはないが、『スカイ・レイ』の中でワイバーンを出すわけにもいかないので、仕方がない。


 そこを察したのかアスカが、


「相変わらずマスターの超遠距離攻撃はすごいですね。私などは足元にも及びません」


 ちょっと言い過ぎのような気もするが、アスカの射程外、かつモンスターに限定すればそれほど嘘ではない。自分で言っててもかなり狭い範囲限定ではあるな。


 アスカの今の言葉で明らかにエメルダさんとパトリシアさんの俺を見る目が変わった。何か複雑ではあるが、そこを気にし始めたら負けだ。


 念のためミニマップを拡大してもワイバーンの気配はないようなので、山の方から流れてきた可能性の方が高いのかもしれない。


 今は、エメルダさんたちを連れ帰るのが仕事なので、これ以上ワイバーンについてはどうしようもない。街道を行く馬車や人になにがしかの被害がでるようなら、冒険者ギルドなり、国の騎士団が対応するだろう。


「冒険者ギルドも騎士団も、飛行型のモンスターが相手では、手に余りそうな気もしますが」


「そうかもしれないな。そしたら、また俺たちに冒険者ギルドから依頼が来るかもな」


「可能性は高そうです」


 たしかに、可能性は高そうだ。


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