第334話 ブレト4
商店街で買い物をしていたら、ひったくりだか、置き引きだか分からないが、犯人と思われる若い男が目の前で
ラッティーには少し考えさせられる事件だったようで心配したが、何となく本人のなかで自己完結してしまった。
その事件のあと、商店街で食材を探したところ、薬草各種と書かれた看板のかかったかなり間口の狭い店があった。
「すぐに戻りますから、店の前でお待ちください」
アスカが店の中に一人で入っていった。
俺とラッティーで店の外で待っていたら、すぐに中から出てきたアスカが、
「マスター、見つけました」
アスカが手渡してくれた小袋の中にはやや緑がかった
「これは?」
手に取って匂いを嗅いでみる。あれ?
「まさか、ワサビ?」
「乾燥していますがワサビと思います。店にあるだけ買いましたがそれだけしかありませんでした」
これだけあれば、すりおろして、水で戻せばそれなりの量になるだろう。乾燥ワサビがあるということは生のものもあるのだろうが、
「基本的に、山で見つけたワサビを乾燥させたものしか出回っていないようです」
そこは仕方がないな。それでも大収穫である。
「日も暮れかかっているからそろそろ宿屋に戻ろうか」
「はい」「はい」
また三人で手を繋いで宿屋に戻ってきた。フロントで鍵をもらい部屋に入る。
基本的に
一階の食堂では何を食べても料金はかからないと言われていたので、ラッティーは張り切っていたが、食事量もすこしずつ増えてきたと言ってもまだ子どものラッティーではそんなに食べられるものでもない。俺もそれほど食が太い方ではないためほどほどに注文したが、俺の左に座った
結局二時間近く食堂にいて、部屋に帰ったころには、ラッティーも眠くなっていたようですぐに寝間着に着がえて大きなダブルベッドの真ん中で寝てしまった。寝間着といってもまだ子どもなので、下着の上に貫頭衣のようなものを着ただけである。
俺も着替えてすぐに寝たのは言うまでもない。アスカさんは、いつものように着替えるでもなくラッティーの横に座っていたようだ。
翌朝。
「おはよう」「おはようございます」「おはよう」
午前中は市内観光だ。食事を早めに済ませて、部屋を出て一階のフロントへ。
「またのお越しをお待ちしています」
フロントの女性に鍵を返して俺たちは宿屋を後にした。
街を見物するといっても、現代日本のようにそれっぽいものが整備されているわけでもないし、ましてや、ラッティーにそうそう何キロも歩かせるわけにもいかないので、結局、目に付いた屋台の串焼きやジュースなどを買ってブラブラ散歩しながら王城の方に歩いていくことになった。
予定では、王城には午後から行くことにしていたが、少々早くとも問題はないだろうと、正門にまわることにした。
城壁で囲まれた王城の正門は、俺たちが街に入ってずっと歩いていた大通りをそのまま進んで、右に折れたところから始まる50メートルほどの坂道の上にあった。
見た目要塞化されたような王城ではあるし、さすがに、ラッティーのアトレアのようにほとんど無防備な王宮と言う訳ではなく、門衛の人が門の左右に三名ずつ立っていた。
だれが一番偉い人だか分からないので、適当に、
「アデレード王国からやってきました、ショウタ・コダマと申します」
「同じく、アスカ・エンダーです」
「アトレアから来ました、リリムです」
「エメルダ殿下にお取次ぎ願えませんでしょうか?」
実際、見たこともないような女、子どもを連れた若造が、王女殿下にいきなり会わせろとか言ってくれば、いいとこ正気を疑われ、悪くすればこのまま捕まってしまいそうな状況なのだが、運よく門衛の人に俺たちのことは伝わっていたようだ。
「アデレード王国のコダマ子爵閣下とエンダー子爵閣下、それに、アトレアのリリム殿下。こちらにどうぞ、案内の者が参りますまで、いましばらくお待ちください。
いそいで椅子を三脚お持ちしろ! おまえは急いで城に知らせてこい」
数名が椅子を用意するため、門の横の番やのようなところに駆け込み、一人は城の方に駆けて行った。
おそらく、俺たちは、前回同様騎士団の訓練場に飛空艇で現れると思っていたのだろうが、正門から現れたものだから、いらぬ世話をかけてしまったようだ。
すぐに、椅子が運ばれ地面の上に置かれたのだが、座ってしまうと三人揃って妙な感じになってしまうので、椅子は遠慮して迎えの来るのをそのまま待つことにした。
そんなに待たず、エメルダさんの侍女のパトリシアさんが息せき切ってやって来た。この人は良く走っている。
「訓練場の方でお待ちしておりましたので、失礼いたしました」
われわれが勝手に正門の方にやって来ただけなので
「こちらこそ、正門に突然現れて申し訳ありません。少し早くこちらに到着して
「そうでしたか。ひとまずお部屋の方にご案内いたします」
パトリシアさんの後を付いて王城の中に入り、廊下を歩いていたら、前方からエメルダさんがやって来た。
「少し早く到着しましたので、街を見て回っていました」
「遠いところありがとうございます。私がいうのも変ですが、あまり見るものはなかったでしょう?」
正直に言っていいことと悪いことがあるからここは返事はしないでおくしかないな。
「ここブレトはアデレート王国のセントラルと比べればずいぶん
うちのラッティーといいエメルダさんといい王女殿下はずいぶんと意識が高い。ラッティーはすったもんだはあったが、両国ともいい子に恵まれたというところか。そういえば、アデレートでもリリアナ殿下の意識も相当高いしな。ある意味すごいことだな。こういうのを意識高い系とでもいうのか? いやそれとはまた違うな。
よく考えたら、それぞれ違う国の王女殿下を三人も知人に持っている俺も相当にすごい。しかもひとりは俺が後見人のような者になっているわけだし。世が世なれば、ハーレム路線まっしぐらなのだが、いかんせん世は世でなかったようだ。
「マスター、ここでそれを望んでも
「?」
「
そうでしたか。分かりました。
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