第333話 ブレト3、いつか見た光景


 買い物中の俺たちは、まずは屋敷にいる連中に土産みやげになるような小物を買おうと雑貨屋を探して三人で手をつないで商店街を歩いている。


「マスター、こうやって三人で手を繋いで歩いていると、親子のようですね」


「親子? アスカがお母さんで、俺とラッティーが子どもってことか? それはないだろう」


 いつもアスカのことを俺の保護者とは言っているが、アスカが俺のお母さんということはないだろう。


「ショウタさん、その返しはどうかと思う」


 ラッティーが何だか訳知りわけしり顔で、俺を見上げる。


 どういうこと?


 ああ、そういうことか。ラッティーはアスカの子どもになりたかったということだな。実の母親と別れたきり会っていないから、母親が欲しいという気持ちも分からないではない。ということは、父親であるアトレアの王さまとにアスカと再婚してもらいたいってことなのか? エライことラッティーも思い付くな。


「マスター、もうそれ以上妙なことを思い付くとさすがに呆れますよ」


 えっ? ラッティーじゃなくてこの俺が思い付いちゃったの?


「その話はもういいです。そこのお店が雑貨屋のようです」


 ラッティーが可哀そうな人を見るような目で俺を見上げるのだが、どったの?



 アスカに言われて入った店は確かに雑貨屋なのだが女性用の小物屋こものやのようだった。時間帯に関係ない店のせいか、夕方の今の時間でも店の中には客はそんなにはいなかったが当然みんな女性だった。


「こういったものを俺が見ても全然分からないからアスカとラッティーで適当に見繕みつくろってくれ」


 買い物は二人に任せて、いつものように俺はそそくさとその店から退散することにした。


 少数とは言え、女性客が俺を見る目が怖い!


 ちょっと、自意識過剰か。本当は別に怖くはないが、気にはなる。



 十分ほど店の外で待っていたら、やっと二人が出てきてくれた。


 今回もお金をアスカに渡すのを忘れてさっさと店を出てきてしまったが、問題なかったようだ。アスカがどれくらいの現金を持っているのかは分からないが、一体どうなっているんだろう?


 アスカもお金が無くなれば言ってくるだろうから、心配することもないか。こういうところが、アスカに対して優しくないところかもしれないな。反省しよ。


「アスカ、お金を渡すのを忘れていたけれども、大丈夫だったようだな?」


「全く問題ありません」


 謎だ。


「マスター、女性用には、刺繍ししゅうの入ったハンカチを見繕みつくろいました。男性用には、良いものがありませんでしたので、お酒でも後で買っておきましょう。それと、面白いものがあったのでそれも買っておきました」


 アスカからそんなには大きくない袋を渡された。それを収納して、


「面白い物?」


「はい、マスター用に買っておきました」


「俺用?」なんだろう?


「見てみますか?」


 さきほどの袋とは別にアスカが持っていた小さな包みを渡された。


 包みを開けてみると、黒い人形が一体。


 これは一体? あっ! これって、


「はい、ダークン人形だそうです。幸運のお守りだそうです」


 フーの人形だった。お守りも何も、本体が俺の部屋にいるんだが。


 肌身はだみ離さず持っておけとでもいうのだろうか? わざわざ俺のために買ってくれたものなのでありがたく収納ではなくポケットの中に入れておいた。


「アスカ、ありがと」


「いえ、それは、ラッティーが見つけてマスターにと買ったものですから」


「そうだったんだ。

 ラッティー、ありがと」


「えへへ」


「それじゃあ、次は酒屋でも探すか?」


「酒屋はすぐ先にあるそうです」


 アスカの先導で三人が通りをいく人をけながら歩いていく。


 30メートルも歩かないうちに酒屋は見つかった。中に入り、銘柄などは俺には分からないため、うちの男性陣三人のために、適当に容器の形のいいものを五種類、各々三本づつ買ってやった。一人五本になるから飲み過ぎには注意する必要があるかもしれないが、あの三人が酔っているところを見たことは今までないし、キュアポイズンもあるので大丈夫だろう。


 一応これで義理ぎりは果たせたので、次は厨房用のお土産みやげだ。乾燥果物は甘いので女性に喜ばれるようだが、俺も大好きだ。干しブドウなどはよく食べるが、さて、ここルマーニではどういったものがあるのだろう?


 果物くだもの屋も、酒屋を出てほんの少し歩いただけで見つかった。


 店先には、プラム、りんご、桃、洋梨、ぶどうといった、俺も良く知っている果物から、何だか分からない、ブドウのような房ではなくバラバラになった黒っぽい粒々や赤っぽい粒々などかごの上に置かれて並んでいた。


 乾燥果物は、店内に置いてあり、どれもおいしそうだったので、この店でかなりの量買いこんでしまった。


「これだけ買っても人数が人数だからすぐになくなってしまうだろうな」


「お土産の一環ですから、十分でしょう」


 そんな話をしていたら、何だか通りが騒がしくなって来た。


「何かあったのかな?」


 しばらく立ち止まって様子ようすを見ていたら、若い男が通りをかけてこちらの方にやって来る。その後を官憲かんけんと思られる二人組が追いかけてちょうど俺たちの目の前で若い男は捕まってしまった。男の手には、バッグが握られていた。官憲たちの声を聞くと、どうもひったくりの現行犯で捕まったようだ。


 うなだれた男は官憲かんけんに引っ立てられて通りをやって来た方に帰って行った。


 それを見ていたラッティーが、


「わたしは、本当に運が良かったんだ……」


 そうぽつりと言った。そう言ったラッティーの顔は少し青ざめていた。


 運で片付けることがいいのか悪いのかは俺には分からない。ラッティーの心の中で折り合いが付けばそれでいい。


「これって、フーの幸運をわたしが先取りしちゃったのかもしれない。お屋敷に戻ったらフーにお礼を言わなくちゃ」


「ラッティー、さっき、石像にちゃんと手を合わせて頭を下げただろ。だから、フーもちゃんと分かってると思うぞ」


「そうだよね。それでも、帰ったらちゃんとお礼を言っておく」


 うーん。ラッティーの気持ちの整理は付いたようだが、フー信者ができてしまった。これはこれで良くはない気がするのだが、はたしてどんなものだろう。


 そういえば、フーは『常闇とこやみの女神』とかいうアブなそうな神さまの着ていた鎧とか言ってたな。なんだかそんなのの信者が増えてしまうと、そのうち邪神復活ってことはないよな?




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