第331話 ブレト


 エメルダさんを『スカイ・レイ』でルマーニにまで迎えに行く途中、石油を見つけてしまった。なんだかありえないようなことが起こってしまったわけだ。


 アスカは、それから30分ほどかけて、最初の地点を中心に100メートルおきに指先を地下に伸ばして簡易地質調査を1キロ四方でおこなった。



 アスカが調査をしているあいだ、石油をどうやってくみ上げるのか考えてみた。


 テレビなどでは、やぐらの上から大きな振り子を振っている油田の映像見たことがあるが、櫓と振り子がポンプだという。どういった仕組みなのか分からないが、ああいったものを作ってくみ上げる必要があるのだとするとすると、そうとう大掛かりな仕掛しかけが必要になる。それに、運搬も考えなければいけない。ちょっとやそっとでどうこうできそうもないということはなんとなく分かった。



 地質調査の結果は、


「調べた1キロ四方では、油層ゆそうの深さなど最初とほとんど変わりがありませんでした。このぶんですと相当の石油がこの地下に眠っていることになります」


 大発見ではある。そうではあるのだが、仕掛けは大規模になりそうだし、現状使い道があまりなさそうなので、そこまでうれしいわけではない。


「石油をみ上げると言っても大掛かりな仕組みが必要そうだから、開発はまだまだ先になりそうだな」


「マスターが油層を適当な大きさでいったん収納して、ドラゴンから血を抜き出した要領ようりょうで油を油層から抽出するのかと思っていました」


「あっ! その手があったか。思いつかなかった」


 アスカのいう通りだ。ただ、意識しても地面の中の油層を意識できないので、百メーター立方といった具合でいったん根こそぎ収納する必要があるな。それなら簡単にできるが、大穴が空いてしまう。埋め戻しをしっかりするのか。穴の壁が崩れる前に

埋め戻すとかいろいろノウハウは必要と思うが、アスカのいう方法で石油を抽出することはなんとかできそうだ。


「よし、小規模に試してみるか。30センチ径で深さ100メートル。まずはこれを収納して」


 よし、うまく収納できた。


 そして、石油を抽出。出てこい、出でてこい石油さん。


 よーし、うまくいった。1.5立方メートルほどの石油が抽出できた。


 残った100メートルの棒を元の場所に戻しておく。ちょっと引っ掛かりがあったようだがうまく戻せたようだ。穴のあった場所もすぐには分からない。そのうち少しはくぼむかもしれないが、大したことはないだろう。


「アスカ、うまくいった。これなら、簡単だ」


 アスカの提案で、採油法は心配する必要が無くなった。そうしたら、今度は原油から各種油分の分離だな。これも収納の中で簡単にできるかもしれない。ただ、俺が石油の種類をガソリンと灯油と重油くらいしか知らないことと、実際それらがどう違うのか理解していないので、今は分離できそうもない。そのうち何とかなるとは思う。


 ここにいてもこれ以上できることもないので、


「それじゃあ、雨もんだし、出発するか?」


「はい」




『スカイ・レイ』の点検はすでに終了しているのですぐに発進だ。雷雨からの雷騒動と石油発見で、1時間ちょっと時間をとられた感じだ。


「『スカイ・レイ』発進!」


「『スカイ・レイ』発進します」


 ラッティーとアスカの息が合ってきているような気もする。何だか俺の定位置は、ラッティーの座る副操縦士席の後ろの一般座席になってしまったようだ。まあ、それでラッティーが楽しいなら仕方ない。実際、俺もラッティーも操縦には役に立っていないという点では同列だからな。


「雲がまだありますので、高度300メートルで北進します。魔導加速器の出力を念のため80パーセントほどに絞りますので、ルマーニ到着は4時ごろになる予定です」


 今回アスカの言葉に『何事もなければ・・・・・・・』が付かず、妙なフラグは回避されたようだ。



 その後『スカイ・レイ』は雲の下を飛んで街道上空をルマーニを目指して北上していった。



 街道の上空300メートルをエイ型の飛空艇が飛んでいくものだから、街道を行く人たちや馬車の御者などがこちらを見上げているのがキャノピー越しによく見える。見上げている人たちも、最初雲の下を飛ぶ『スカイ・レイ』を見て驚きはしたのだろうが、かなりのスピードで上空を通り過ぎるので、恐怖を感じるほどではないだろう。現に道行く人や馬車の動きが乱れた様子は見受けられない。



 途中一度、二人に飲み物を渡しただけで、何事もなく飛行は続いた。そのうち晴れ間ものぞき始め、『スカイ・レイ』も徐々に高度を上げているようだ。


「『スカイ・レイ』巡航高度1000、時速250キロで北進中」


 なんとかいつもの状態で飛行できているようだ。



「アスカ、あとどのくらいでブレトに到着しそうだ?」


「1時間ほどで到着します。到着予定時刻は3時50分です。着陸はどのあたりにしますか?」


「前回空から見たブレトの街はそれなりに広かったし、街の外壁はなかったようだから、どこか街から見えづらい丘の上のようなところがあればいいな。今回はラッティーをおんぶだかお姫さま抱っこして走ればいいから、着陸するのは街から少しくらい離れていても大丈夫だ」


「どちらかというと、お姫さま抱っこがいい」


 うちのお姫さまは抱っこが良いそうです。道の上なら俺が抱っこして走ってもそんなに揺れないだろうが、着陸するところは道のないとことだろうからアスカが抱っこするしかないな。


「ブレトは王城を中心に半径5キロ程度の広がりを持った街でしたから、王城から10キロ程度の距離で適当な場所を見つけて着陸します」


「任せた」



 飛空艇は何事もなく、ブレトに到着。


 すぐにアスカが着陸場所を見つけ、着陸することができた。



 『スカイ・レイ』が着陸したのはブレトの手前の低めの丘の上で、ふもとには集落もあったが、そろそろ、飛空艇も認知されてきているようで、物珍ものめずらしさでこちらを眺めている人が何人かいたが大騒ぎはされなかった。


 そこからアスカがラッティーをお姫さま抱っこして15分ほど走ったところ、ブレトにつながる街道に出た。そこからは、ラッティーをおろして、ラッティーの歩く速さでブレトにの街に向かう。


「人がいたから、ちょっと恥ずかしかった」とラッティー。


 それはそうだ。とはいえ、ここの人に顔を覚えられたとしても、この先会うこともないだろうから、大丈夫だろ。まさに、日本人の『旅の恥はかき捨て』的発想だ。


 街道ではアスカと俺の間にラッティーと三人で横並びに歩いて行った。


 ブレトの街には、はっきりした形での門はなかったが、それらしいところに、数名の兵隊さんみたいな人が道の左右に立っていた。何か手続きでもあるのかと思ったが、特に何もなくそのまま素通すどおりできた。


 いままで街に入るときに、呼び止められたり手続きが必要だったことは一度もなかったと思うのでそういったものなのだろう。


 このルマーニ自体は大きな国ではないようだが、それでもブレトは王都であるだけに街に入ると人通りが多くなってきた。


 街の中心である王城からこのあたりはそれなりに離れているため、民家が密集して建っているわけではないが、そこそこ大きな建物がちらほら見える。俺とラッティーがこうやってきょろきょろと観光客気分で歩いているあいだにも、アスカはいつものように情報収集しているのだろう。


 街道から続いた今歩いている通りは、まっすぐ王城に続いているようで、歩いていると遠くの少し高くなった土地に建てられた王城が見えてきた。


「このまままっすぐ行けば王城だろうけどその前に繁華街に出るのかな?」


「そのようです。宿屋もこの通りに面して数軒立ち並んでいるようです」


 情報収集ご苦労さま。もう一時間も街中まちなかを歩いていたら、アスカ製タウンマップができそうだ。


 俺もアスカも移動で疲れるようなことはないが、ラッティーはまだ子供なので、気を利かせて、


「ラッティー、歩くのが疲れたのならおんぶしてやろうか?」


「恥ずかしいから、いい」


 子供なんだから、そんなこと気にしなくてもいいんだよ。まったく自意識が強いな。女の子は成長が早いというし、王女さまだとこんなものなのか。


 とはいえ、見た目は全くのお子さまのラッティーだ。最初に見つけようと思っている宿屋までまだ1、2キロは歩くと思うので、スタミナポーションを一本出して、


「飲んでおけ」


「?」


「スタミナポーション」


「ありがとう」ラッティーは俺の渡したポーションを素直に受け取って飲み干した。空き瓶は収納しておいた。


「マスターは、私以外には優しいですね」


「前から言っているように、アスカは俺の保護者だし、俺はラッティーの保護者だからな」


 俺の保護者が良く分からないことを言う。


「アスカ、俺とアスカは一心同体。魂で繋がっているじゃないか」


「そうでしたか?」


「そうなんだよ」


 なに? そうじゃなかったの?


「そうでしたね」


 ああ、よかった。これからはアスカにも意識して優しくしよう。まあ、方法は追々おいおいだな。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る