第330話 こ、これは!


 雷雨で足止めされた上、大型の落雷を『スカイ・レイ』が受けてしまい、修理が必要となってしまった。修理自体は不本意ながら・・・・・・運よく代替部品を持っていたため簡単に終了した。



 そのあと中断していた昼食の続きを済ませたあたりで雨も小降りになってきたようだ。もうしばらくすれば雨も上がりそうだし離陸してもよさそうだ。


「マスター、それでは一度外に出て、『スカイ・レイ』の外部に異常ないか確認してきます」


「アスカ、まだ雨が降っているから、かさを持っていった方がいいぞ」


 屋敷にいるみんなで外出した時のためと思って購入しておいた傘を一本アスカに渡した。傘の骨は木製だし、傘に張られているのは、マントの布のようなものなので、折り畳んでも結構かさばるが、小雨程度なら問題ない。


「ありがとうございます。行ってきます」


 後ろのタラップを下してアスカが外に出ていった。


 タラップは扉代わりでもあるのだが、アスカがタラップを下してすぐに、何だか油の臭いのようなものが漂ってきた。


 しばらくしてアスカが確認を終えて帰って来たのだが、


「マスター、『スカイ・レイ』には異常はありませんでしたが、近くで異臭いしゅうがしています。油の臭いと思いますが、石油の可能性もあります」


 石油? 石油ということは原油か? 原油の臭いなど嗅いだことはないが、原油の臭いと言われればそんな臭いがする。ちょっと確認してみるか。ひょっとして、ひょっとするかもしれないものな。「石油王に俺はなる!」とかね。



 俺も傘を用意し、ラッティーを一人残しておくのもかわいそうなので、ラッティーにも傘を渡し二人でタラップから外に出る。


 外に出ると、当たり前だが地面がぬかるんでいる。俺とアスカはいつものブーツなので平気だが、ラッティーの履いているのはサンダルだったので、俺がおんぶしてやることにした。


「ラッティー、ほら、地面がぬかるんでるからおんぶしてやろう」


「えへへへ」


 ラッティーの傘は仕舞しまって、俺の傘をラッティーに持ってもらった。



 ラッティーを背負って、フーンと鼻で思い切り息をして臭いを嗅いでみる。


 ガソリンぽい臭いがする。やっぱり石油の臭いだ。


「ショウタさん、あっちの方から臭う」


 ラッティーが、少し前の方を指さす。


 こういっては可哀かわいそうだが、さすがにラッティーは元野生児だけあって嗅覚が優れているようだ。あらゆるものが超高性能のアスカを越えているとは恐れ入った。


「マスター、私は物理特化ですから」


 嗅覚は化学系統になるのかな。まあ、アスカさん、小さな子供相手にそんなことくらいでムキになったらいけないよ。少しくらい負けるところがあってもいいんじゃないかな。


 待てよ、これはアスカ史上初めての敗北ということか?


 フフ、フファファファ! すごいぞラッティー、偉いぞラッティー!


 そういうことで、ラッティーが背中から指さす方向に50メートルほど歩いていくと、大きくて深めの水たまりの上に、うす茶色をした油膜が張って、ブクブクと水面に泡と一緒にこげ茶色の油が湧き出ていた。


「雷に打たれてできた穴でしょうか? 確かに少量ですがガスと一緒に石油が自噴じふんしているようです。油の色はやや薄いようですから、軽質油けいしつゆを多く含んだ原油と思われます」


「軽質油とは?」


「ガソリンやナフサ、灯油といった透明に近い石油の成分になります。ガソリンは常温では気体ですので、非常に危険です。軽質油の多い原油が地表近くに賦存ふそんすることはあまりないことでしょうが、油層の上面に粘度の高い粘土層でもあったのかもしれません」


「放っておいて大丈夫かな?」


「ここなら、風で飛ばされますし、人も近づきそうではありませんから大丈夫でしょう」


「ならよかった。一次は『石油王』になれるかもと思ったけれど、大したことがないならいいや」


「いえ、地下にどれほどの量の石油が眠っているのかは調べてみないと何とも言えません」


「でも、調べようはないだろ?」


「簡単ですが、私が、地下の地層を確認してみます」


 そういったアスカが右の手先を下に向けた。見るとその右手の人差し指、中指、薬指が伸びて地面に突き刺さっている。


 すぐに、指を元の長さに戻したアスカは、


「地表より30メートル下からわずかにガス層がありその下から油層が始まっていました。指を三本融合させて地下100メートルまで調べてみましたが、そこまででは油層は途切れていませんでした」


「それって、かなり大量の石油があるってこと?」


「面積的にどこまで広がっているのか分かりませんが、100メートル四方と言うことはないでしょうから、かなりの量ではないでしょうか。問題は、現時点では、石油をどうにかしてくみ上げたとしても、需要が何もないというところでしょうか」


「俺のいた世界では、発電や自動車用が主な用途だったんだろうから、ここだと暖房用に使うくらいだろうな」


「アデレードは温暖なため、冬でもそれほど寒くなりません。寒い地方ならニーズは高そうですが、すぐには、使うことも売ることも今のところは難しいと思います」


「ということは、あせる必要はないということか」


「アデレート王国では、人の住んでいない土地は基本的に国有地と考えてよいようで、このあたりも民家などはありませんから国有地と思います。今後石油の利用も視野に入れて、このあたり一帯をあらかじめ国に申請して買っておくのもいいかもしれません。ここの位置は正確に把握していますので申請には問題ないと思います」


「あのう、石油って?」


 石油は一般的でない世界なら、ラッティーが知るはずないものな。


「ここもそうなんだけど、地面の中に油がまっていることがあるんだ。その油を石油といって、火を点けることができてよく燃えるんだけど、普通の油じゃないんで食用にはできない油だ」


「地面の中の油。燃えるけれど、食用じゃないということは、口に入れることができない。うーん」


 ラッティーの頭を悩ませたようだ。今まで油といえば植物油や獣脂しか見たことがなければそんなものかもしれない。


「でも、お腹がすいたら少しくらい舐めてもいいよね?」


「いやー、お腹を悪くするだけでなく。内臓もおかしくなって病気になると思うぞ。いくら『エリクシール』や『万能薬』があってもそれは嫌だろう?」


「そうなんだ。それじゃあ舐められないね」


「ラッティー、私は飲んでも平気だぞ」


 ここで、何を思ったのかドヤ顔で石油を飲むことができると宣言するアスカさん。


 先ほどラッティーに臭いの元を先に見つけられたのがよほど悔しかったようだ。石油を飲めても何の自慢にもならないだろうが。


 と思っていたのだが、首を回して背中のラッティーを振り向くと、アスカを尊敬のまなざしで見ている。


「この石油はいまのところそんなに役には立たないが、これの利用法が広まれば量が量だけに相当な価値があると思うぞ」


「そうなんだ。ということは、やっぱりフーのおかげなのかな?」


 うーん。確かにこれはその可能性もないではないような気がしないでもない。


「マスター、認めましょう」


 石油のニーズがないので『石油王』には成れないようだが、世が世なれば確かに俺は『石油王』に成れていたわけだ。まさに「フーん、そうなんだ」だな。








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