第326話 フライス盤


 『万能薬』製造もベルガーさんが作ってくれた魔力放出器を使うことで、ヨシュアたちに任せることができるようになった。


 昨日の午後から二人に簡単な説明をして、また二時間ほどかけて『万能薬』を60本ほど作ってしまった。20本ほどはヨシュアに渡して、俺が不在時に、『万能薬』が必要な緊急事態が起こったら遠慮えんりょなく使うように言っておいた。



 そして今日は、アスカはフライス盤を作ってみるそうだ。


「最初は小型の歯車などを作るフライス盤を作ろうかと考えていましたが、今日は時間もありますし、扱いは少し難しくなりますが汎用型はんようがたの物を作ってみましょう」


 そもそも俺にはフライス盤がどういったものなのかは、金属を複雑な形に削る機械であるということぐらいしか分かっていないのだが、アスカ的には、いろいろあるのだろう。




 二人で造船建屋へ。


 最近は『シャーリン』を収納したままなので、造船建屋はここのところ作業場となっている。


 すぐにアスカのいう材料を並べておいてやった。前回の旋盤せんばんの時と比べ、今回は結構な量である。


 南北100メートル、東西50メートル、5000平方メートル。国からの借地とはいえ、約1500坪の土地を王都に持っているわけなので相当なものなのだが、『スカイ・レイ』の離着陸に30メートル四方は必要なので、確かに屋敷の敷地が手狭になってきた。


 それはさておき、アスカはさっそく作業を始め、なんだかんだと二時間くらいかけてフライス盤を完成させてしまった。前回の旋盤は横長の机程度の大きさで、枠組みわくぐみなども簡単なものだったが、今回のフライス盤はかなりしっかりした作りで、大型のキャビネットほどの大きさがありかなり重そうだ。ステータスだけは高い俺が押せば動かせるとは思うが、一般人ではびくともしないと思う。


 アスカは旋盤を作っている間に、小物として多数の切削金具も並列作業で作成しており、それらが本体脇にずらっと並べて置いてある。


「今回は汎用機ですし、ある程度の大物も扱えるよう大き目の物を作りました。本格的に設置する場合は、三和土たたきにボルトを埋め込み、本体を水平に固定してしまう必要がありますが、今回は様子を見るだけですので、そこまでは必要ないでしょう」


 だそうです。


「さっそく試運転をしてみましょう。

 まず材料の金属塊を作業台の上に乗せ、このハンドルを回して固定具バイスでしっかり固定します。なお、材料を挟み込むバイスの締め付け板は作業台の面と正確に90度、垂直になっています。今回の材料は余っていますスチールゴーレムの頭部を使ってみましょう」


 何もゴーレムの頭を使わなくてもと思うが、ゴーレムの頭の形がひっくり返したバケツのような円筒なので使いやすそうではある。


 作業台の上に置かれたゴーレムの頭がバイスの締め付け板でしっかり固定されたところで、


「この作業台は四つのハンドルが付いており、三つのハンドルで上下、左右、前後に動かせるようになっており、最後の四つ目のハンドルで作業台自体が中心軸の周りを360度回転できるようになっています。回転軸の中心は、上からでは見えませんので作業台に印が付けており、材料の位置が中心軸の位置からどれだけ離れているか分かるよう作業台には目盛りを刻んでいます」


 なるほど、回転させるなら、真ん中に材料がこないとマズそうだものな。


「今回は、この頭から六面を切り取って立方体を作って見ましょう。一面は私が胴体から頭を切り離すときに綺麗きれいに切り取っていますので、あと五面です。

 使用する切削金具ですが、付属の丸鋸まるのこで直接切断することもできますが、今回はこの先端の広がった筒状の切削金具を使います。

 これを動力回転軸のこの部分にこのようにはめ込み固定します」


 ゴツめの円盤が先についている太めの軸の金具をアスカは何種類か用意していたようだ。アスカは、その中の一つをフライス盤の垂直方向の回転軸に取り付けた。あと、変わった刃先のかなり大きな丸鋸も何種類か作っている。どうせ先端の刃先はアダマンタイトなのだろうから、鋼鉄くらいスッパスパに削っていくのだろう。


「回転部は、この長めのレバーを上から下に引き下げることで、下に移動し、押し上げれば上に戻ります。切削状況を見ながらレバーをゆっくり操作する必要がありますが、今回の材料はただの鋼鉄なので、簡単に削ることができますからそこまで神経を使う必要はありません。適当でいいです」


「それでは、スイッチを入れます」


 切削金具が、音を立てて高速で回転し始め、回転部を上下させるレバーをアスカが軽く押し下げていった。


 最初だけ火花が少し散ったが、シューと簡単にゴーレムの頭頂部が簡単に削れていった。


「この位置で、切削金具の位置を固定したあとは、作業台を前後、左右に動かして、上に乗っているゴーレムの頭頂部を削り切ります。一度に削ることができる厚さは、切削金具の先端の肉厚の円盤の厚さまでです。それ以上深く削る場合は、今の作業を繰り返します」


 すぐに、頭頂部は削り切られて、ピカピカの表面ができ上った。


「これで高さ30センチの金属塊ができ上りました。削りかすは、装置下部に置いた、この箱型のバケツに落ちるようになっています」


「次は、いったんバイスを緩め、材料を横方向に寝かせて、先ほど削った面と、底の面を前後からもう一度バイスで固定します。材料の金属塊がほぼ円柱でしたので、寝かせる方向ははあまり気にしなくて大丈夫です」


「固定し終わったら先ほどと同じように上面を削っていきます」


「でき上ったら、上下さかさまにして、また同じように固定して、上面を削り取ります」


「後の二面も同じように削ってやり、最終的に一番短い辺の長さにそろえるよう削ってやれば鋼でできたこのようなサイコロができ上ります」


 銀色に輝くピカピカの鋼鉄の大型サイコロができた。一辺20センチの立方体とすると?


「約63キロになりますので、一般人では持ち手が付いていませんから簡単には持ち上げられないと思います。落とすとそれなりに危険です」



 一度四角いバケツに入った削りかすを片付けて、


「基本的には、こういった感じで、金属を削り出していきます」


「今まで、叩いたり、削ったりしていたのだろうから、サイコロ型を作ることもそんなに簡単じゃなかったろうけど、サイコロ型だけだとそこまでニーズはないんじゃないか?」


「これだけですと、置物おきものにもなりませんが、これを切断して、厚みもそれ相応にある正方形の金属板を作ることができます」


 正方形の金属板がどの程度有用なのかは分からないが、アスカ的には、何かの役には立つのだろう。


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