第325話 魔力放出器と『万能薬』

[まえがき]

ここまで、読んでいただきありがとうございます。

2020年11月14日、250万PV、5万♡達成しました。ありがとうございます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌日。


 朝の日課を終えて、朝食後、アスカと居間でベルガーさんからの荷物の届くのを待っていたら、10時ごろ、業者の人がやって来て、小さな木箱に入った荷物を置いていった。この世界にも宅配業者がいるようだ。この時間に到着するとは、一体何時ごろ業者に手渡したのか分からないが、製造から消費者に製品が半日ちょっとで届けられるというのは、現代日本でも不可能ではないだろうか。


 それはさておき、さっそく箱の中身を見てみると、中には、特殊粘土の板材に刻み込まれて焼き上げられた実用魔法陣が四つ入っていた。作った人には言えないけれど、見た目は陶器でできた模様入りの四角い鍋敷きだ。これを例の魔道具屋で昨日仕入れた魔素貯留器に魔素用配線コードでつなげて様子を見てみよう。


 ちなみに昨日訪れたいつもの魔道具屋には大型の魔素貯留器がなかったため、店にあった物を全部。十個ほど買って来た。十個の魔素貯留器を順に並列につなげていけば十段階で魔素の魔法陣への流入量がコントロールできるはずだ。実験が成功したら、より大きな魔素貯留器を特注品になるようでも注文しようと思っている。


 と言うことで、魔素貯留器を十個束にしたものを入れたケースと、つまみを回すと順に魔素貯留器が並列につながっていくスイッチボックスをアスカがすぐに作ってくれた。そして、蒸留器を四方向から囲むような衝立ついたてを木の板で作り、そこに、四枚の魔法陣を貼り付け、一応装置は完成した。衝立を木の板で作ったのは、電気の絶縁物の方が魔素の漏れが少なくていいかな? 程度の考えである。そもそも陶器の板に刻み込まれた魔法陣なのだからそこらはあまり考える必要はなかったと後で気付いた。



 実験しようとやって来た錬金部屋では、今はまだ午前中なので、ヨシュアとマリアが錬金釜を使ってのいつもの作業中だった。二人ふたりはうちの大黒柱なので、


「ご苦労さま。俺たちは少し実験をしようと思うので、気にせず二人は作業を続けてくれ」


 一応二人にことわって、邪魔じゃまにならないよう、錬金部屋の隅のあたりで実験することにした。




 作業台の上に場所をとる魔素貯留器ケースとスイッチボックスを並べ、少し離して、上級錬金板を置いて、その上に蒸留器、蒸留器の周りには今回の衝立をセットして配線コードを並列でつなげ準備完了。


 あとは、蒸留器の中にドラゴンの血を入れて、スイッチを回すだけのはずだ。十個の魔素貯留器は全部新品なので満タンになっている。


「準備も完了したようだし、そろそろ実験をはじめるか」


「はい、マスター」


 2リットル入りの大瓶にドラゴンの血をいっぱいにしてアスカに渡す。アスカがそれをいったんビーカーにとり、蒸留器の下の部分にその三分の二ほどになるよう注いだ。300ccでポーション瓶だと六本分相当。うまく実験が成功するようならポーション4本分の200ccの『万能薬』ができる計算だ。


「それでは、スイッチオン!」


 そう言って、スイッチボックスに付いたつまみを1の目盛りに合うところまで回してみた。


「これだとまだ反応はないな。それでも魔法陣からはちゃんと魔力が漏れ出ているのが分かる。それじゃあ、第2目盛り」


 漏れ出た魔力は不思議なことに勝手にドラゴンの血の入った蒸留器に吸い込まれていっている。絶縁体のはずのガラスは魔力には影響はないようだ。今まで何度も魔力で蒸留しているんだから、よく考えなくても当たり前だった。


 すぐに、蒸留器の下の部分に入ったドラゴンの血の表面から湯気がうっすら出てきた。


 これなら思惑おもわく通りいけそうだ。事前には魔力はいくらかはどこかに流れ出てロスすると思っていたので、思惑以上だ。


「良さそうだぞ、それでは第3目盛り」


 湯気の出が良くなってきた。魔法陣から漏れ出ている魔力もだいぶ濃くなったようだ。それと同時に、蒸留器の冷却管の先から、ポツリポツリと、その下に置いたビーカーに万能薬とおぼしきしずくれてきた。ほんの少量だが虹色にみえる。間違いなく『万能薬』だ。


「なかなかいいぞ、それでは第4目盛り」


 さらに、湯気がよく湧き出てきた。先日俺が直接魔力を込めた時と同じような具合に見える。これ以上目盛りを進めてしまうと、ドラゴンの血の内部から泡が出ていわゆる沸騰ふっとう状態になってしまいそうなのでここらでめておこう。


「マスター、この第4目盛りで、『万能薬』の生成速度が前回マスターが作った時と同じ2分でポーション1瓶分、50cc程度になっています」


 俺の感触かんしょく通りだった。


 これは実験なので、ぎりぎりまでめてみてもいいのか?


 しかし、魔法陣に負荷ふかがかかりすぎてもまずいし、どうなんだろう? おそらくだが、この魔法陣は一つ当たり魔素貯留器一つ分の魔素の流入を想定してベルガーさんは作っているのだろうから、やはりこれ以上はやめておくか。


 後はここにある魔素貯留器にある魔素で、どれだけドラゴンの血を蒸留できるかだな。


「アスカ、魔素貯留器の魔素の減り具合は一律なのかな?」


「現在接続中の四個の魔所貯留器の魔素の減り方は同じようです」


「いったん四個が空になるまで、蒸留を続けて貯留器の容量を確認しよう」


「了解しました。あとの六本についてはどうしますか?」


「いま繋げているものが空になるまで蒸留をしてみて、魔素貯留器1個で『万能薬』が何本できるか確認するだけでいいから、今日は使わなくてもいいだろう」


 こうして話しているあいだにも、蒸留は進んで、蒸留器の中のドラゴンの血はかなり減っている。アスカがビーカーに入ったドラゴンの血をすでに一度継ぎ足している。


 瓶詰め機も準備して、『万能薬』がだいぶ溜まったビーカーを空のビーカーと交換して、アスカが手際よくポーション瓶に『万能薬』を詰めていき、瓶詰め機で封をしていく。


 結局、2時間ほどで魔素貯留器4本は空になり、万能薬は60本ほどでき上った。


 かなり効率がいいようだ。


 ヨシュアたちも作業が終わったようで、少し前から俺たちの横に来て蒸留器の先からビーカーに垂れる『万能薬』を眺めていた。


 人手おれのてかいすることなく、普通に水を蒸留するように『万能薬』ができていることにかなり驚いていた。


 空になった魔素貯留器については俺が1本当たり10秒ほどかけて魔素をゆっくり補充したらいっぱいになったようだ。


 まだまだ速く魔素を送ることもできたが、あまり高速に送って魔素貯留器が壊れてはいけないのでゆっくり魔素を送っている。そういう意味では、大型の魔素貯留器の方が壊れにくそうだし便利そうだ。


 そういえば、俺は魔素も魔力も以前は区別など何もしていなかったのだが、ちゃんと魔素貯留器に魔素を送ることができていた。個人が充填じゅうてんすることを考慮した設計にでもなっているのか、うまくできているものだ。



 ちょっとした思い付きで調子に乗ってここまで突き進んでしまった。実際問題作った『万能薬』をこれからどう使っていくかが問題だ。『エリクシール』同様死蔵しぞうしておくのか? 商業ギルドあたりにおろしていくのか? お金はいくらあっても困ることはないが、社会に要らぬ混乱が起きそうで怖いところもある。


 さっきまでは、装置を全体的に大型化していけば、材料投入とでき上りの瓶詰めだけで量産されると喜んでいたのだが、物事はそこまで単純じゃないみたいだ。実質高校2年生の俺が悩むべき問題ではないのだろうが、メチャクチャしていいわけではあるまい。


「アスカ、どう思う?」


「マスターが、収納している分には傷みませんから一応このまま生産を続けて数だけ揃えておけばいいんじゃないでしょうか?」


「それもそうだな。

 ヨシュアたちも、今は投擲弾の製造も無くなったから、午後からの仕事で頼めるか?」


「もちろん構いませんが、私たちに可能でしょうか?」


「最後の辺りしか見ていなかったろうから難しそうに思えるのかもしれないけれど、俺が渡すドラゴンの血ざいりょうを蒸留器に補充しながら、でき上りをポーション瓶に詰めるだけだから誰でもできると思う」


「分かりました。やってみます」


「それじゃあ、昼食が終わったら最初は一緒にやってみよう」







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