第327話 フライス盤2


 今俺たちは、造船建屋たてやで、アスカの作ったフライス盤の試運転を行っている。


「次は、金属の円盤を作り、そこから歯車を削り出します。

 最初に材料となる金属板を先ほどのサイコロから作ります。

 この切り替えレバーを縦方向から横方向に切り替えますと、現在の垂直方向の動力回転軸から作業台に水平なこちらの動力回転軸に動力につながります。この動力回転軸に、金属切断用丸鋸まるのこをはめ込みしっかり固定します」


「そして先ほど作ったサイコロを作業台の上に置きバイスで固定します。作業台にはスリットが縦に入っていますので、丸鋸を下ろした時にそのスリットに丸鋸の刃先が入るよう作業台の位置を調整してください。

 材料はスリットの位置で垂直に丸鋸によって切断されますから、切断したい個所が正確にスリット上になるよう材料サイコロを置いて固定する必要があります。

 材料を固定し、丸鋸を回転させ、レバーを押し下げて所定の位置に固定したら、作業台をスライドさせて材料を切断します」


「こんな感じです。今回はでき上りの厚さが5センチになるようにしました。実作業では丸鋸の刃の厚さも考慮して材料の位置決めをしなくてはいけませんので、やや熟練が必要です」


「今度は今切り取った厚さ5センチ、20センチ四方の鋼鉄を円盤に仕上げます」


「まず、レバーを上に上げて水平動力軸から丸鋸を取り外し、切り替えレバーを横から縦にします。次に使う切削工具はこれです」


 本体の脇に置いてあった、らせん状に刃がぐるりと側面に取り付けられたかなり太いドリルのような切削金具をアスカが用意した。


「これを垂直動力軸に取り付けます」


「作業台の回転軸の中心が、でき上りの円盤の中心になりますから、正確に材料を作業台の中心に置いてください


 アスカがスイッチを入れると先ほどの切削金具が回転を始め、四角の鉄板の辺の真ん中あたりが回転する切削金具にあたるぎりぎりのところまで作業台を進めそこから作業台を回転させることで円盤を削っていった。ある程度削ったところで、バイスの位置を変えて、残りを削っていき、結局厚さ5センチ、直径20センチの円盤ができ上った。


「面倒ですが、このような形で、切削金具を取り換えながら加工を進めていきます。

 次の作業は歯車の刃を今できたこの円盤に刻みますが、その前に前作業として、この円盤に軸を取り付けてしまいます。軸の制作は、この機械でも可能ですが、旋盤で作る方が簡単です。今回は私が適当に作ってしまいます。円盤側にも軸をはめるための孔と固定するための楔穴くさびあなを作ってしまいます」


 全部この機械で作ってしまうのかと思っていたが、結局アスカが作ってしまった。アスカのヤツ、少し端折はしょっているな。


「まあ、紙面も押していますので」


「紙面?」


「マスターは気にしないでください」


「円盤に取り付けた軸を今回は水平にして、本体の垂直部に空いているこの孔に入れて固定し抜け落ちないようにします。この孔の位置そのものは、ここハンドルを回すと左右に動かすことができます。また、軸を抜け落ちないように固定はしていますが、孔の内部の固定金具にはベアリング機構が付いていますので円盤は自由に回転できます」


「そして、先ほどの切削金具とよく似た形のこの切削金具を奥にあるこちらの歯車専用の垂直動力軸に取り付けます。お互いの軸は直角になっていますが切削金具の回転に合わせて円盤が回転しながら削れていき、円盤の軸を挿入した孔を少しずつ切削金具の方向にずらしていくことで円盤の外周に歯車ができ上ります。切削金具の大きさと形状によって、歯車の歯数などが決まりますので、歯車用切削金具の種類は非常に多くなります。ある程度の種類を作っておきますが、ニーズに沿って今後追加する必要があります」


 何のかんのと、それなりの作業工程を経て俺から見て大型の歯車ができてしまった。切削工具も作業工程ごとに異なったものだったので、作業を覚えることも難しそうではある。


「今回は、一台の汎用フライス盤を作ったため、切削工具の交換や位置決め作業など複雑でしたが、歯車なら歯車専用のフライス盤を作ることでもう少し作業は簡略化でき効率も上がります。とはいえ、私が直接歯車を作れば、材料さえあれば、2、3秒で数百個は簡単にできますので安心してください」


 結局そういうことでした。


「歯車は役に立ちそうだけど、ベアリング用のケースなんかが今のところ必要じゃないのか?」


「先ほど歯車を作るとき外側を削って円盤を作りましたが、同じように内側から

削って金属の輪を作ってケーシングとします。ベアリング用のケースの場合、高温高圧で型抜きするプレス加工機で鍛造した方が丈夫なものができますが、小型の機関車や貨車の車輪用ですので、そこまでの強度は必要ないでしょう」


 ひとわたりフライス盤の実演をアスカにしてもらったのだが、俺にはとても操作できそうにないということだけは分かった。最後にアスカが言ったように、俺にはアスカがいるので、何も問題ないのだ! ワハハハ。




 大分遅くなったので、急いでヒナたちのいる馬小屋に行って様子ようすを見ると、俺がやって来たことが分かったのか、「ピーイ、ピーイ」ヒナたちが鳴き始めた。


「馬小屋の扉を開けて光が一杯に入ってくればヒナも驚くと思います」


 そうでしたか。わたくしがヒナを驚かせて悪うございました。


「そろそろエサの時間だな。アスカ、エサをやりたいんだろ? はい」


「……」


 アスカは、俺の渡したドラゴン肉の小皿を持って、巣の前にしゃがみこんんで一枚ずつ与え始めた。


「はーい、ママですよー」


 とうとうアスカは二羽のママになってしまった。


 俺は、ママという言葉は嫌いなんだがな。せめて『お母さん』にしてくれないかな?


「はーい、お母さんですよー」


 うん。それなら許す。


「アスカ、そういえば、この二羽は見た目はかなり大きいけれども、まだ散歩なんかはしなくていいのかな? 運動は大事だろ?」


 アスカはエサを与えながら、こちらを見ずに、


「もう少し大きくなったら、朝のランニングに連れて行ってみましょうか?」


「シローが驚かないかな?」


「シローはテイムされたモンスターですから問題ないでしょう」


「だといいな。だけどシローは良くても、近所の人がブラッキーとホワイティーをみてビックリしないかな?」


「おそらく王都中の評判になると思います」


「そうだよな。あまり人目に触れさせたくはないから、運動させるときは、『スカイ・レイ』でどこかの山奥まで行ってみるか」


「飛ぶことも覚えさせなくてはいけませんから、どこか高い木の生えた山に行くのもいいかもしれません」


覚悟かくごはしていたが、やはり野生のものの面倒めんどうはそれなりに大変だな」


「そういうものでしょうし、それだからこそ愛着あいちゃくも湧くと思います」


 なるほど、アスカはあの二羽に愛着がすでに湧いているんだな。しかし、目の錯覚だろうか? 半日見なかっただけでずいぶん大きくなったような気がする。


「グリフォンの成獣はおそらく、300キロから400キロの体重になりそうですから、まだまだです」


 確かにそれに比べればまだまだだとは思うけれど、やっぱり大きくなったよな。


「ところで、グリフォンが人の言葉が分かるのならば、最初はなんて話すかな?」


「口の形状がくちばしですし、亡くなった親も念話テレパシーを使っていましたから、ふつうに念話テレパシーで『お腹が空いた』じゃないでしょうか」


「そうか? てっきりアスカは『ママ』と呼ばせたいのかと思ってたよ」


「……」


 フフフ、俺もアスカの考えていることぐらいわかるのだよ。




[あとがき]

完結作『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020

2020年11月16日、40万PVを越えました。ありがとうございます。ダークファンタジーだったはずなんですが……。

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