第314話 鎧よ鎧


『スカイ・レイ』に三人で乗り込み、ルマーニの王都、ブレトを後にした。


 行きはエメルダさんと侍女のパトリシアさんが一緒だったが、帰りはグリフォンの二羽のヒナと、お邪魔虫の鎧と一緒だ。


 一度はこの真っ黒な鎧を大空から投げ捨ててやろうかとも思ったが、どうせ舞い戻ってきそうだし、そんなことをするとラッティーに怒られそうなのでそれはやめた。要は、受け入れたということだ。


 こうなってくると、こいつも『こいつ』や『あいつ』では言いにくいので名前を付けてやった方がいいだろう。


 ヒナたちを見ながらあれこれ考える。


 後ろからでは、座席に座った黒鎧は見えないので、一度ラッティーの座る副操縦士席の近くまで行き、座席に座る黒鎧を確認すると、ふてぶてしそうに座席に座っている。俺がそう座らせたのか、こいつが勝手にこう座っているのかよくは分からない。


「ふてぶてしい黒鎧くろよろいか」


 と言うことは、こいつの名前は、リビング・アーマー『フー』


 俺としてはなかなかに良い名前を思いついた。最初にアスカがこいつに向かって『誰だwho?』とたずねたし、なかなかセンスがあるいい名前だと思うぞ。



 いい名前を思いついたので、さっそく操縦中のアスカのところまで行き、


「アスカ、俺はどうもこの鎧にりつかれてしまっているようだ。これを後ろ向きに考えるのではなく、前向きに考えようと思う」


 なんだか、生徒会の選挙演説のようなセリフになってしまった。


「それで、マスターはどうするのですか?」 


「まずは、こいつに名前を付けて親しみやすくしようと思ったわけだな」


「なるほど、『こいつ』や『あいつ』とか『鎧』では親しみも何もありませんからそれは良い考えかもしれません。が、」


 アスカは反対なのか?


「そもそも親しんでどうするんですか?」


 確かに、本質的な質問だ。


「これから付き合うとなると名前は必要だろ?」


「分かりました。それで、どういった名前なんでしょうか?」


「ラッティーの後ろの席にあいつを座らせてやったんだが、アスカから見てどう思う?」


「何も」


「アスカに聞いた俺が悪かった。俺から見ると、実にふてぶてしく感じるわけだ。

 ラッティーだって後ろに座っている鎧がふてぶてしく見えるだろ?」


「特には」


 そうかい、この大空の上には俺の味方はいないんだな。


「それで、マスターはどういった名前を付けたんですか? まあ、マスターのことですから、黒い鎧から連想してダークン・・・・とかじゃないですよね」


「ダークン? そんなわけはない。俺が考えた名前は、そんなチンケな名前ではなく『フー』だ」


「わたし、ダークンなら知ってる。この前、付属校の受験問題集に出てた」


「なんだよ。ラッティーも知ってる名前なのか? それって常識?」


「アデレートでは常識かもしれません」


「フーン。それで? ダークンって何なの?」


「大昔、キルンの迷宮辺りにいたと伝えられている『常闇とこやみの女神』と呼ばれていた女神さまの名前だそうです。その女神さまはいつも黒い全身鎧を着けていたとか」


「女神のくせに全身鎧?」


「そういう神話ですから」


「まあ、神話に突っ込みを入れても仕方しかたがないけどな。黒い鎧という点では同じだし、よく見るとこいつは女ものの鎧に見えるか? いや、女ものには見えないな」


「鎧ですから」


「ラッティーは、何か意見はあるか?」


「『フー』も呼びやすいといえば呼びやすいけど、『幸運の鎧』感が出ていないというか」


「『幸運の鎧』感は、今後実績・・が出てから考えよう。そしたら『フー』から名前を変えてやればいいんだ『ラッキー』とかな」


 ブラッキー、ホワイティー、ラッティー、ラッキー。四つ並べてみると親戚しんせきみたいで、こっちの方が親しみも持てるが『ラッキー』と名前が出世魚みたいに変わるのは、実績が出てからだ。


 結局、黒鎧の名前は俺が押し切った形で、『フー』ということになった。不思議なもので名前を付けてやったら、この不思議な鎧に愛着がわいてきた? いいや、それはないな。



「アスカ、そろそろ昼じゃないか?」


「今の時刻は12時20分前です」


「それじゃあ、昼にしよう。先に、二羽にエサをやった方がいいな」


 副操縦士席は飽きたのか、だいぶ前から俺の横でラッティーがヒナたちを見ている。ラッティーにドラゴン肉のスライスを盛った小皿を渡して、


「それじゃあラッティー」


「えへへ。それじゃあ、ブラッキーに一枚。ホワイティーは次だからね」


 なんだか、こういうおままごとチックなことをしていると、女の子はお母さんモードになるんだろうか? 妙にラッティーがお母さんお母さんしている。


 ラッティーの手元を見ていたら、知らぬ間にアスカが俺の横でしゃがんでいた。


「アスカ、操縦はいいのか?」


「ここからでも操縦できますから全く問題ありません」


 と、おっしゃっています。仕方ないので、アスカにもドラゴン肉の小皿を渡してやる。


「ラッティーはホワイティー、わたしはブラッキーにエサをやるから」


 勝手に仕切り出してしまった。


 俺もエサをやりたいのだが、俺までやるとエサのやりすぎになってしまうので、ここは遠慮するしかない。『エサをくれる人=いい人』、『エサをくれない人=赤の他人』の図式ができ上ってしまいそうで怖い。アスカのいまの動きもそれを念頭に置いての行動に違いない。最近アスカもの自己主張が激しくなった気がする。


 人間らしくなってきたということは喜ばしいことなんだろうが、あくまで俺のニーズとバッティングしない範囲で自己主張していただきたいと、アスカの所有者であるはずの俺は思っている次第しだいである。


 アスカがどういった手段で周囲を確認しているのか分からないが、見た目は操縦ほったらかしで、三人ともがヒナたちとじゃれ遊んでいるうちに、自分たちもお腹がいていることを思い出して、


「ラッティーは何を食べる? 昨日きのうのカレーはあるけれど、サンドイッチとかもあるぞ」


「やっぱり、カレーがいい」


「アスカは?」


「私もカレーで」


 それぞれ座席について、食事を始めた。二人がカレーを食べているのに俺だけ別の物を食べてしまうとまた空の上で疎外感そがいかんを味わってしまうので、俺もカレーにした。



 三人でカレーを食べながら、


「そういえば、そろそろグリフォンの巣のあったあたりじゃないか?」


「少し前に通過してしまいました」


「グリフォンの親たちをあの巣の近くに埋めておいてやればよかったな。岩をくり抜いて埋めてやって、その岩で蓋をしておけば、荒らされないんじゃないかと思ったんだが」


「そうですね。それでは、あの岩場に似た岩場を探して着陸しましょう」




 一番食べるのが遅いラッティーが食べ終わり、食器を片付けたところで、


「少し西寄りに着陸できそうな岩場を見つけましたので、そこに『スカイ・レイ』を下ろします」


 アスカがちょうどいい場所を見つけたようだ。




[あとがき]

今回は、主人公ダークンの活躍を描く、ダークファンタジー風コメディー『闇の眷属、俺。~』の宣伝でした。未読の方はこの機会に是非どうぞ。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020

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