第315話 帰宅


 『スカイ・レイ』が着陸したのは、切り立った崖の上で、ここもは30メートル四方程度の狭い岩場だった。着陸脚がぎりぎりではあるがちゃんと岩場の端に乗っかているのだが、何だか気になるので、早いとこ穴を掘ってグリフォンを埋めてしまおう。


「ラッティーはここでヒナたちを見ててくれるか?」


「はーい」



 ラッティーとヒナたちを『スカイ・レイ』に残して、俺とアスカで墓穴はかあなを掘りに外に出た。そういえば、鎧のフーも残していた。


 亡くなったグリフォンは二羽(二匹)とも背丈が3メートルくらいはあったので、縦横5メーター×3メーター、深さが3メーターほどになるように岩場の岩を切り取って横に置き、底にヒナたちの両親を寄り添うように並べて入れてやった。上から岩を置いて蓋をしたとき潰れないよう、隙間に長さ2メーターほどに岩を柱状にしたものをつかになるよう何本か立てて、その上に最初に切り取った岩を2メーターほどの厚さにしたものを乗っけておいた。でき上がりは、縦横5メーター×3メーター、高さが1メーターほどの大きな墓石になった。


南無阿弥陀仏なむあみだぶつ」「南無」


 二人で手を合わせて、グリフォン二羽の埋葬まいそうは終わった。


「これで安心だな。帰るとするか」


「はい」




 その後、王都セントラルまでの飛行は順調で、屋敷には、午後3時には到着した。


 フーから目を離すとどこに行ってしまうか心配なので、アスカがお姫さま抱っこして外にだし、俺とラッティーで、二羽のヒナを抱き上げて『スカイ・レイ』から屋敷の南の草原くさはらに降り立った。『スカイ・レイ』は後でアスカが整備するので、収納せずにそのままにしている。


「マスター、フーはどこに置いておきましょうか?」


「見た目は立派な甲冑かっちゅうだし、玄関の置時計の脇にでも立てておくか」


「分かりました」


「それじゃあ、ラッティー。俺たちは厩舎うまごやにまわって、ヒナたちの巣を作ってしまおう」


「はーい」



 サージェントさんもシルバーたち二頭の馬たちもシャーリーを迎えに行っている時間なので、馬小屋は空っぽだった。


 シルバーとウーマが並んで馬小屋の左半分を使っていたので、残りの右半分をブラッキーたちの巣のために使うことにした。季節がこれから初夏に向かうので、寒くなることはないだろうが、やはり小さいうちは心配なので、ヒナ用に小屋を建てた方がいいかもしれない。



 収納の中を調べてみたら、キルンから王都まで、幌馬車ほろばしゃでやって来た時、シルバーたちのためにいただいたわらたばなどがまだあったので、それを使って、三和土たたきになっている馬小屋のゆかの上に、ヒナたちの巣をつくることにした。


 藁たばを床の上に出したところで、アスカがやってきた。


「時計の脇にフーを置いてきました」


「ありがとう。それで、この藁たばを使って巣をつくろうと思うんだけどどう思う?」


「掃除するにも藁ごと処分できますから、ちょうどいいでしょう。シルバーたち用に納屋なやの中にまだ藁はあるようですし」


 俺とラッティーはヒナたちを抱えて手が塞がっているので何もできないのだが、アスカがすぐに藁を丸く敷いて、その周りを盛り上げて、簡単な巣を作ってくれた。


 その巣の中にヒナたちを入れてやったら、水でも飲みたくなったのか「ピーイ、ピーイ」と鳴き始めた。木製の深皿に水を入れて巣の中においてやったが水も飲まずに「ピーイ、ピーイ」と鳴き続ける。エサをやってからはそんなに時間が経っていないのでお腹が空いてるわけではなさそうだ。


「馬の臭いが気になるのかもしれませんね」


 確かに馬の臭いはする。馬小屋だからそこは仕方ない。


「慣れてもらうしかないな」


 実際そう言っている間にも、「ピーイ、ピーイ」が小さくなってきた。慣れてきたのか、疲れたのか。藁が敷かれた新しい巣が気に入ったのかもしれない。


 とにかく元気そうなので、心配することはないだろうということになった。



 そんなことを馬小屋で三人でやっていたら、屋敷の中にいた連中が集まり始めてしまい、


「何? この子たちー」


「キャー、かわいー」


「エッエー! グリフォンのヒナーー!」


 魚を『シャーリン』の船底でガラス越しに見た時は、おいしそうといっていた連中だが、さすがにヒナたちを見ておいしそーという者はいなかった。


 そんなにかわいいかわいいと言ってると、シローが嫉妬しっとするよ。まあ、シローはシローで可愛いし、嫉妬などという感情はなさそうだけどな。


 ここは、みんなに任せて、俺はちょっと玄関のフーの様子でも見てくるか。


 アスカが俺の方を向くので、小皿に盛ったドラゴン肉を出してやった。ちょっとやり過ぎのような気もするが、お腹が一杯なら食べないだろう。



 俺だけ玄関に戻って、置時計を見たが、アスカが脇に置いたはずのフーが見えない。俺自身、そーじゃないかなーと思っていたのだが、やはりいなかった。


 俺の部屋にいるんだろうなー、などと考えながら、二階の俺の部屋の扉を開けてみると、案の定扉のすぐ先に立っていた。アスカにいている一縷いちるの望みも絶たれてしまった。こいつは一生ものじゃないってことだけが救いだよ。


 扉の前に立たれても邪魔なだけなので、部屋の脇まで抱き上げて運んだのだが、金属鎧の感触が妙にキショイ。意識し過ぎのためだろうが、気味が悪いと一度思ってしまっているので仕方ない。こいつに対してわだかまりのないラッティーがうらやましい。


 フーの面倒を見てても仕方ないので、もう一度馬小屋のヒナを見に行くと、相変わらずの人だかりだ。


 女性陣の中に割って入って行けるわけもないので、離れたところから眺めるという、何だかあこがれの人を柱の陰からしたう女子高生にでもなったようだ。


 しばらくそうやって、女子高生モードで、ヒナたちがうちの女子たちにかまわれるのを指をくわえて見ていたら、サージェントさんがシルバーとウーマを馬小屋に連れて帰ってきた。シャーリーも屋敷に戻ってきたようだ。


 簡単に、サージェントさんに事情を説明して、ヒナたちの面倒も見てもらうよう頼んでおいた。


「グリフォンのヒナですか? さすがに、わたしも面倒を見たことがありませんが、敷き藁や水の世話ならできると思います。さいわい、シルバーとウーマも少しも怖がっていませんから大丈夫でしょう。しかし、グリフォンだと、そのうち大きくなるんでしょうね」


「親鳥が3メートルはあったんで、そのうちそのくらいにはなるんでしょうが、成長自体はそんなに早くはないそうですよ」


「3メートルですか? 羽根さえ広げなければ、何とか馬小屋に入ることができるかな?」


「そのころには、べつに小屋を建てるので大丈夫だと思います」


「分かりました。ところで、エサはどうします。まさか飼葉かいばは食べませんよね?」


「エサは、生肉でいいようなので、俺の収納の中に入っている生肉はいつも新鮮なのでそれを俺とアスカでしばらく与えますから大丈夫です。俺とアスカがいない間は厨房に置いておきますからよろしくお願いします」


「わかりました。任せてください。ところで、二羽の名前は?」


「頭の上に白い羽が二、三枚付いている方がメスでホワイティー、尻尾の先に黒いふさが付いているのがオスのブラッキーと名付けました」


「ホワイティーにブラッキー。分かりました」




 これで、一安心。

 

 サージェントさんと話をしていたら、学校から帰ってきたシャーリーが着替えてこっちにやって来た。


「ショウタさん、お帰りなさい」


「おう、シャーリー。ただいま。エメルダさんは無事送り届けてきたぞ。あと、エメルダさんのおばあさんも『万能薬』のモルモットになってもらったら元気になった」


「えーと、モルモット?」


「ああ、モルモットというのは、まあ、実験台って意味かな。自信はあったけど初めて『万能薬』を使ってみて効能を確認することができた。あまりに効能が高いのでこれもそうそう使えない感じだな」


「そこまでですか。それで、おばあさまも元気に」


「そういうことだ」


「それは、ほんとに良かったですね。それで、こっちの方がみんなの声で騒がしかったので来てみたんですけど」


「実は、……、ということで、グリフォンのヒナを二羽うちで育てることになったんで、とりあえず馬小屋に巣を作ってやったんだ」


「今度はグリフォンですか? やはりショウタさんはすごい冒険者なんですね。それじゃあ、私もグリフォンのヒナを見せてもらいます」


 シャーリーも、ヒナには興味があるようで、みんなの中に入って行った。ちらっとその先が目に入ったのだが、アスカとラッティーが、二人でしゃがんで、ヒナたちをなでていた。



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