第313話 帰国する
部屋に戻ってみると、鎧は、位置を変えることなく突っ立っていた。こいつだけが心配だったのだが
「市内観光をしようと思っていたけれど、ブラッキーもホワイティーもいるから今回はこのまま帰ろうか?」
「そうですね、その方が
「それじゃあ、週末エメルダさんを迎えに来るとき早めに来て、そこで市内見物でもしよう」
「わかりました」
部屋の中を片付けて、俺がブラッキーを、アスカがホワイティーを抱き上げた。もちろんブラッキーもホワイティーも抱き上げたことで目を覚ましたがおとなしくしている。二羽を抱いたままひとわたり部屋の中を忘れ物がないか確認していたら、
「訓練場までご案内します」とエメルダさんが部屋の前までやって来たてくれた。
勝手にお城の中を歩くところだった。道順などはミニマップで確認できるのですっかりそういったことに
部屋を出るとき、ちゃんと鎧がそこに立っているのを確かめたあと、ありがたく廊下で待っていてくれたエメルダさんの後にくっついて行った。
部屋の中にいた鎧がエメルダさんに見つかっていたら、話がややこしくなってしまうところだったが、どうやら鎧は見えなかったようだ。
そういう意味ではラッキーだった。
そのままエメルダさんと雑談しながら城の中を歩いていく。
「そういえば、今日の朝、お城の鎧のお話をしましたが、先ほどおばあさまに聞いたのですが、実は
なるほど、主人に偶然幸運がもたらされてしまったからいなくなったのか? それだとしても何で俺のところに来たんだろ?
今となってはどうでもいいが、ヤツは一生ものではなかったようだ。
また元の主人の元に帰ってもいいし、新しい主人をお城の中で見つけてくれても構わないよ、鎧くん。
「われわれがエメルダさんをここまで送ってきたことで、おばあさまが結果的に元気になられましたが、元をたどれば、エメルダさんがシャーリーと友達だったからですから、エメルダさんが幸運だか幸せを呼び込んだともいえますね」
「いえ、
うーん。運というのは偶然を後付けで評価するものなので、そうであると言えばそうだということになる。俺からはもはや何とも言えないな。
そんな話をしながら、城の裏門を出て訓練場に入って行くと、大勢の人がそこに並んでいた。
国王陛下や王妃殿下のほか、エメルダさんのおばあさんも正装のような立派なドレスを着て立っていた。こうしてみると、王妃殿下のお姉さんくらいにしか見えない。こう言ってはいけないが、
どこでもいいのだが何となく、訓練場の真ん中に『スカイ・レイ』を出す。
これには、みんながすごく驚く。この国の人たちからすれば、こんな大きなものがいきなり現れるところを見るのは初めてだったのだろう。かなりインパクトがあったようで、訓練場が逆にしんとしてしまった。
「それではみなさん、次の土曜にエメルダ殿下をお迎えに伺いしますので、よろしくお願いします」
みんなが頭を下げる中、最後に残った俺がタラップを上って『スカイ・レイ』に入りタラップを引き上げて固定する。
「マスター、鎧なんですが」
ホワイティーを抱いたアスカがラッティーと並んで入り口のすぐ脇に立っていた。
「鎧?」
「そこにいます」
「えっ!」
全身鎧が『スカイ・レイ』の左右の座席の間の真ん中に立っていた。しかも俺の方を向いているような気がする。収納はできないし、こいつをどうすればいいんだ?
「ショウタさん、あの鎧を持ってきちゃったんですか?」
「まあ、そんなところだ」
ラッティーを怖がらせるわけにもいかないので、適当に
鎧のことは今はどうしようもないので、来た時と同じように床の上に毛布で簡易版の巣を作ってやりヒナを入れてやった。
ヒナを巣の中に入れたので、
「アスカは、出発準備をしてくれ。
ラッティーは副操縦士だな」
「了解」「はーい。了解!」
二人とも鎧のことは
こいつを直接は触りたくはないのだが仕方がない。
いったん持ち上げて、床の上に横にして転がしてやった。
アスカは、操縦席に座ってすぐに出発準備を始めたようで、それほど時間をおかず、床が振動を始めた。
「『スカイ・レイ』発進!」
「『スカイ・レイ』発進します」
二人の声が聞こえ、『スカイ・レイ』が上昇を始めた。
真下の訓練場は位置的にキャノピーからは見えないのだが、ミニマップを見ると、みんなまだ訓練場に残っているようだった。こうなってくると、うがった見方かもしれないが、妙なものを引き取ってくれたことをこの国のみんなが喜んでいるようにも思えてしまう。
しかし、こいつ、どうやってここに来たのかは分からないが、本当に俺に
鎧付きと鎧憑き。一文字漢字が違っているだけなのにえらい違いようだ。
毛布の包んでいないので床の上を滑ったり転がったりしたらまずいので、鎧を砂虫テープで床に固定してやることにした。俺ではテープを簡単には切れないので、アスカ頼みはいつものことである。
「アスカ、操縦から手を放せるようになったら、こいつを砂虫テープで床に固定してくれるか?」
「いつでもできますから、テープをお願いします」
収納の中に3メートルほどの砂虫テープがあったのでそれを床の上においたら、アスカが髪の毛を使って器用にそのテープで鎧を床に貼りつけてくれた。
床に貼りつけられた鎧をまたいで操縦席のある前の方にやって来て、
「サンキュー、アスカ」
「これで、
そういえばこいつには縄抜けスキルもあったんだ。やっかいな。
「あの鎧、どうしちゃったんですか?」
ここまでくると、さすがに隠し通せるわけもないので、
「実は、こいつ勝手についてきたんだ。鎧のくせに収納できないし。転がっても困るから、床に貼りつけておいた」
「それじゃあ、
「うーん。まあ、そのー、おそらくそうなんじゃないか」
「やったー! じゃあその鎧、幸運を運んでくるんでしょう?」
「そういう話だったが、今のところひたすら不気味でウザいだけだな」
「そんなー、ちょっとの時間で幸運がやってくるわけないと思う。ちゃんと座席に座らせた方がいいよ。絶対に」
こいつが幸運を運んでくるのか? 俺にはとても想像できんな。
しかし、お猿のかご屋も相当教育上よくないが、
まだ砂虫テープは床に
ラッティーの教育のためだ。仕方ない、こいつを座席に座らせておくか。
なんとか砂虫テープを床からはがして、鎧をラッティーの座る副操縦士席の後ろの座席に座らせてやった。重くはないので手間ではなかったが、何でおれはこんなことをしているんだ、とは思う。
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