第311話 幽霊騒動2
俺が、幽霊やオバケが嫌いなことを知ってか知らずか、アスカが部屋の扉を開けてしまった。ミニマップ上の点はちょうど扉の前に来ていたのだが、アスカが扉を開けたとたん、ミニマップからも消えてしまい、
「マスター、誰もいません」
出たよ、出ましたよ。これは明らかに幽霊だよ。ゾワゾワと体中に一気に
「不思議なこともあるもんですね」
アスカはいつも通りのアスカだった。
それはそれで心強いのだが、幽霊に対して、
何かないか? 幽霊に効く(利く)ものは? 焦りながら収納の中を確認するのだが、良さそうなものはみつからない。
アスカは一度廊下まで出て、左右を確認して部屋の中に戻って来た。
「誰だ?」
俺だよ。俺に向かってアスカが問う。えっ? 俺の後ろに向かって言ってんの?
アスカの目線が
ついミニマップが目に入った。俺の後ろに、何かがいます。いました。そいつがいまだに黄色い点なのが
こうなっては仕方がない、恐る恐る振り向くとそこに立っていたのは、
真っ黒い
要するに、黒い鎧が立っていたわけだ。そいつは微動だにしないので、人が中に入っているような
黒い鎧がじっと俺の方を見ている。こんな時はどうすればいいのでしょうか、アスカさん?
「マスター、何も反応がないようです」
俺自身も全く反応ができないのだが、ここでアスカが何かすることで、黒い鎧が、黄色から赤く変色されては打つ手がなくなるかもしれない。
「アスカ、ミニマップでこいつが黄色いうちは手出しはしないように」
「分かりました」
アスカの方はこれで安心だ。ところでこの鎧、こんなところでじっとしていられると、それはそれで困る。俺自身は、こんなヤツに話しかけたくはないのだが、このまま鎧に
「えーと、どちらさまです?」
「用がないならお帰り願えませんか?」
「マスター、この鎧?を収納できませんか?」
「生きているなら収納できないと思うけれど、収納できたら収納できたで嫌だな。それでも、ここに
「つまりは生きていると言うことでしょうか? まさに
「まあな。それか、本当に幽霊なのか」
全然反応のない全身鎧に対して、おそるおそる、指先を伸ばしてを触ってみる。
幽霊ではないようで、ちゃんと触ることができた。ただ、金属鎧は思いのほか冷たかった。
安心していい材料ではないな。
生きているのに、ほどほどに冷たい。うーん。中に何が入っているのか気になるが、ヘルメットのバイザーの隙間の先は真っ暗で、バイザー越しに中に入っているかもしれないものの目や顔は確認できなかった。
「アスカ、返事もないし動かない。朝までこのままだと、ラッティーも起きだしてくるだろうから、とりあえずこいつを部屋の外に運び出しておくか?」
「そうですね。粉々になるまで切り刻んでしまえば簡単ですが、何もしない相手を切り刻むのも気が引けますから、いつぞやのように毛布でくるんで、どこかに持っていきましょう」
「いや、よそさまのお城の中で、
「ミニマップで確認しながらいけば、この時間ですし大丈夫でしょう。どこか空いた部屋でも見つけて投げ込んでおけば問題ないと思います」
「そうかなー。まあ、アスカがそう言うなら、やってみるか」
全身鎧をアスカが抱えて床に転がした。
こいつがそれで何か反応すると嫌だったが、アスカになすがままにされて床に転がってしまった。こいつは一体何だったんだろう?
こいつがおとなしくしている間に、
「マスター、どうも、形がごつごつして大きさをとるようですから、一度砂虫テープを使って手足を固定してしまいましょう」
アスカに砂虫テープを渡してやる。確かに、毛布で
アスカが砂虫テープを器用に使って要所を固定していったおかげか、
もはや、怖いとか
「これなら、うまく毛布を巻けそうだ」
毛布を広げて転がしながら巻いていったら、今度はきっちり巻くことができた。何だか
「それじゃあ、運んで行こう。幸いミニマップ上には黄色い点ばかりだし、いまは廊下にはだれもいないようだ」
「私が一人で抱えます」
前回は、
「マスターは周囲の確認をお願いします。それでは行きましょう」
俺が確認せずとも、周囲の確認くらいアスカ一人でできるのだろうが、気づかいで俺に役割をふってくれたようだ。
一応、役割をふられた以上、俺もロープレのプレイヤーなので、
「右ヨシ、左ヨシ」ミニマップも意識しながら廊下の左右を確認。
しかし俺も、こんなところまで来て人さらいのまねごとをするとは思わなかった。
「マスター、それを言うなら、去年の今頃の私は深淵の迷宮の最深部にいたわけですから私の方がもっと大きな変化だと思います」
たしかに、『深淵の迷宮』の最後の大ボスが、人さらいをしている状況の方がギャップは激しいので、俺の負けかもしれない。アスカと境遇の変化自慢で張り合おうと思っていたわけではないのだがな。
とにかく、与えられたこの部屋からなるべく離れた空き部屋を見つけて、こいつを放り込んでしまおう。
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