第310話 幽霊騒動?


 エメルダさんの祖母のイルラさんに『万能薬』を飲んでもらったところ、予想をはるかに上回る効果があったようで、俺自身その効果に正直しょうじき驚いてしまった。


「母が無礼ぶれいを承知で、コダマ殿にお礼を申しに参った気持ちも分かります。私も、これほど母が元気になったのには驚きました。改めてありがとうございます」


 また、頭を下げられてしまった。もう好きにして。


 そろそろ、部屋に戻らないとブラッキーとホワイティーが心配だ。


 こちらからも簡単に食事の礼を述べて、それで部屋に引き上げることにした。



 アスカとラッティーと部屋に戻って見ると、ブラッキーとホワイティーが目を醒まして「ピーイ、ピーイ」と鳴いていた。


 どこへも行かずに巣?の中でじっとしてくれたので助かった。


「そろそろ、お腹おなかいたのかな?」


「そうかもしれませんが、親を探して鳴いていたのかもしれません」


 なんだか、ラッティーが悲しそうな顔をして二羽を見ている。


 アスカと何気なにげない会話をしたが、これはマズかったかな。親がいなくてつらい思いと生活を長くしていたラッティーが昔のことを思い出したのかもしれない。ここで、野暮やぼなことを言うと輪をかけてしまうので、スルーするしかないな。


「まずは肉をやってみて、食べないようなら、少し様子ようすをみよう」


「ピーイ、ピーイ」


 俺が、収納からドラゴン肉の入った皿を取り出したら、「ピーイ、ピーイ」がもっと大きな声になった。やはりお腹が空いていたようだ。二枚つまんで、各々の口の前に持っていったら。まさにパックンチョと飲み込むように食べてしまった。


 ラッティーがすごく安心した顔をしてくれたので、俺も一安心。


「まだ食べるようだから、ラッティーがエサをやるか?」


「はい!」


 元気になってくれて、ほっとしたよ。


 こういったところは、アスカにはまだ厳しいところがあるのかもしれないが、アスカなりに何か考えがあったのかもしれない。今となってはどっちでもいいけどね。


 結局、二羽は全部で三枚ずつのドラゴンの肉を食べておとなしくなり、横に置いておいた水を少し飲んでまた寝てしまった。


「ウンチをまだしてないようだけど、大丈夫かな?」


「おそらく、今やっているドラゴンの肉はヒナにとって栄養過多ではないでしょうか。本来なら、いままでの何倍も食べていたものが少量で済むようになったため、まだ排便していないのかもしれません。いまのところ元気そうですから問題はないでしょう」


「ペットシートなんて売ってないし、なかなか大変だな。収納の中に、古くなったタオルやなんかがあるから今はそれで対応するしかないな。屋敷に帰ったら、二羽用に小屋でも建てよう」


「鉄道工事のとき大量に手に入れた雑木や草を使って巣をつくりますか?」


「下はそれでもいいかもな。毎日草を取り換えてやれば清潔だろうし」


「その線で帰ったら作ってみましょう」


「この子たちは、お屋敷の中では飼わないの?」


「シローと違って、ウンチもすればおしっこもするだろうから、家の外で飼うしかないと思うんだよ」


「そうなんだ。そしたら、シルバーとウーマのいる馬小屋がまだ二頭分空いてたからそこはどう?」


「ラッティー、いいところに気が付いたなー。シルバーたちとこの二羽がお互いに怖がらなければ問題ないだろう」


「おそらく、シルバーたちもグリフォンなどは今まで一度も見たことはないでしょうから怖がらないと思います。またグリフォンの二羽はまだヒナですし、幼すぎて何も怖がらないと思います」


「そう願いたいが、試してみないとな。うまくいくならありがたいし、ダメならしばらく俺の部屋で飼ってその間に新しく小屋を建てよう。いずれにせよ、将来的には大きな小屋が必要になるがな。燻製くんせい小屋も欲しいから、そのうち土地が足りなくなりそうだ。

 ところで、グリフォンはどういった成長するんだろうか? あっという間に大きくなっちゃうと、少し残念だな」


「亡くなった親鳥は相当知能が高かったようですから、10年程度では成体にはならないのではないでしょうか」


 俺たちが、グリフォンのことを話していると、ラッティーもそろそろ眠くなったようで、まぶたがとろんとしてきたようだ。


「もう風呂にも入っているし、そろそろ着替えて、寝るとするか」


 俺とラッティーは寝間着に着替え各々のベッドに入る。アスカは自分のベッドに腰をかけていつもの不寝番ふしんばんモードに入ったようだ。




 真夜中。


「マスター、起きてください」


「うん? どうした?」


「部屋の外、廊下に不審者ふしんしゃがいるようです」


「不審者?」


 廊下の方から人の歩いている音がする。音からすると金属鎧を着た誰かが、この部屋の前の廊下を行ったり来たりしているように思える。


 ミニマップで見ると、確かに部屋の前を、黄色い点が行ったり来たりしている。一応敵意のないことを表す黄色い点なのだが、非常に気味が悪い。ここで、大騒ぎをしてしまうと、ラッティーが目を覚まして怖がるかもしれないので慎重しんちょうに対応しなくてはならない。


 アスカに小声で、


『確かに誰かいるようだ。大丈夫だとは思うが、いったい何なんだろうな? 敵意はなさそうだけれど、どうする?』


『見ればわかるでしょうから、確認してみましょう』


 坊主頭ぼうずあたまをしているが、俺は幽霊やお化けが好きなわけじゃない。どちらかといえばそういったものとのご対面たいめん遠慮えんりょしたいのだが、アスカは確認するという。


 アスカの後ろについていればいいだけなのだが、イヤなものはイヤだ。


 ぐずぐずしている俺をしり目にアスカがさっさと扉の方に歩いていく。


 そういえば、ヒナたちは今のところおとなしく寝ているのだが、夜目はきくのだろうか? ワシの頭を付けてるなら目も鳥目だろう。そしたら夜目はあまりきかないかもしれないな。


 そんなことを考えて現実逃避げんじつとうひしていたのだが、


「マスター、扉を開けます」


 アスカさんは、俺のことなどお構いなしに開けちゃうようだ。


 あれっ? アスカがドアを開けた瞬間、ミニマップに見えていたはずの黄色い点が消えてしまった。ゾワゾワーと鳥肌とりはだが立ってしまった。


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