第304話 グリフォン2


 親鳥おやどり?が息を引き取り、その最期さいごの頼みを聞いてやることに。



 片親がさきほど亡くなる前に、子どもたちに何か言ったのかも知れないが、二匹のヒナ鳥?は小さな羽根を畳んでこっちの方をじっと見ている。怖がっているような感じではない。


 俺を見つめる目が健気けなげなうえに非常に愛らしいので、親鳥に頼まれなくても面倒は見ていたと思う。


「よーし、よーし、怖くないからな」


 巣の中にいた二匹は、どちらも中型犬程度の大きさがある。今までおとなしかったその二匹が、安心したのか、急に、


「ピーイ、ピーイ」と結構うるさく鳴き始めた。


「よーし、よし、よし」そう言いながら一羽を抱き上げた。


 左右の脇の間に手を入れて一度持ち上げてから抱き上げたのだが、ライオンの胴体に生えている金茶きんちゃ産毛うぶげが柔らかく肌触りが癖になりそうなほど気持ちよい。ワシの上半身にもまだ羽根が生えそろっていないので、薄茶色の産毛状態だ。こちらも毛の方向になでてやるとつるつるで目を細めて気持ちよさそうにしている。


 アスカも俺のマネをして、「よーし、よし、よし」と言いながらもう一羽を抱き上げた。


 二人とも「よーし、よし、よし」しか言わないのだが、それでも二羽には通じたらしく、抱き上げても暴れはしなかった。しかし今度はかなり鳴き声がうるさい。


「マスター、この子たちはお腹おなかいているようです」


「早いとこ『スカイ・レイ』に連れ帰ってエサをやろう。それで、こいつらは何を食べると思う?」


「エサなら、おそらく生肉でいいと思います」


「生肉でいいなら、ちょうどスライスしたドラゴンの肉がたくさんあったな」




 話しながら、グリフォンの二羽のヒナ?を『スカイ・レイ』にアスカと二人して運び入れた。


『スカイ・レイ』のタラップは念のため閉じていたため、残った三人が、側面のキャノピーから俺たちの様子をのぞいていたようだが、幅広の翼が邪魔をしていたようで、俺たちの様子が三人からはよく見えなかったようだ。


「グリフォンの親鳥が二羽とも死んでしまって、残ったヒナを連れてきました」


「えっ? えーー!」



『スカイ・レイ』に残していた三人が一様に驚いた後、俺たちが抱いているヒナをのぞき込んでくる。


「これが、グリフォンの赤ちゃん。かわいいー」


「おとなしいみたいですね?」


「おそらく、この子たちのなかで、マスター、私、この子たちの順序付けが終わっているためおとなしいのでしょうが、ラッティーやエメルダさんに対してはここまでおとなしくないかもしれません。マスターが先日万能薬を何本も作っていますから、可愛かわいらしいと言って手を出したところを、指先を一、二本くらい食べられたところですぐに元通りですから安心してください」


 嘘ではないが、みんな一歩後ろに下がってしまった。さては、アスカのヤツ、ほかの三人をけん制してるのか?


 ほんとに大人おとなげないやつだな。


 それはいいが、俺も二羽のヒナたちのために、すぐに毛布を二枚収納から出してやり、その二枚をゆかの上に丸く回して簡易的な巣を作ってやった。その中に俺の抱いていたヒナを入れたやったところ、アスカも渋々しぶしぶかどうかは分からないが、抱いていたヒナをその中に入れた。


 そのあと、お腹が空いてたまらない感じの二羽のため、先日アスカがスライスしたドラゴンのバラ肉の入った大皿を出してそれを何個かの小皿に分けて、一皿だけ小皿を残してあとは収納しておいた。


「それじゃあ、肉だぞー」


 ドラゴンの肉を一枚つまんで、片方のヒナに食べさせる。


 一口でパックンと飲み込んでしまった。


 もう一匹にもすぐに食べさせてやると、この子も一口だ。ようし、よしよし。


「ピーイ、ピーイ」


 それじゃあ、もう一枚、ほれ。


 おっと、俺とヒナたちだけの世界に入ってしまっていた。


 俺の周りで、四人が首を長くして俺がヒナたちにエサをやっている様子を眺めているじゃないか。

 


「ラッティーもエサをやってみるか?」


 小さい子を忘れて自分一人で楽しんでいてはいけなかった。


「アスカが見てるから基本安全だ。ほれ、これを食べさせてみろ」


 ドラゴン肉を一枚ラッティーに渡してやったら、それを親指と人差し指でつまんだラッティーがおそるおそるその肉を片側のヒナに近づける。


 ひょいっと首を伸ばして、その肉をくわえるヒナ鳥。


「ちょっと怖かったけど、かわいいー」


「それじゃあ、エメルダさんもどうです?」


「それじゃあ、私も」


 エメルダさんにもドラゴン肉を渡してあげる。その肉をもう一匹のヒナ鳥にエメルダさんが恐る恐る近づけたところ、こちらも首を伸ばしたヒナ鳥にパクンと食べられてしまった。大きな口が手の先に迫ってくるので、少し怖く感じるのはうなずける。


「ところで、この肉は何の肉なんでしょう?」


「これは、ドラゴンの肉です。一昨日おとといかな、ドラゴンを一匹解体したので。まだまだ沢山あるんですよ」


「ヒッ! ド、ドラゴン?」


「まあ、小さなドラゴンでしたし、ただのレッドドラゴンだったので大したことはなかったですよ」


「小さなドラゴン?」


「頭の先から尻尾の先までで20メートルほどでした」


「小さなドラゴン、小さなドラゴン、……」


 エメルダさんは、なんだか、自分の世界に入っちゃった? あれ? パトリシアさんまで。


 ん? 今度は、アスカが俺の方を無言で見つめている。


 仕方ないので、アスカにもドラゴンの肉を一枚。


 アスカが、それをヒナ鳥に近づけたら、これもすぐにパクンと食べられてしまった。またアスカが俺の方を向くので、今度は小皿ごと渡してやった。


 よほど、アスカはグリフォンの子どもたちが気に入ったようだ。


 ここで、いつまでもこうやっているわけにもいかないので、


「アスカ、そろそろ出発しようか?」


「おほん。それでは、出発準備に入ります」


 そういって手にした小皿を俺に返し、急いで操縦席に戻って、出発準備を始めた。


 残りの三人もそれぞれの席に着いたようで、床の下が振動を始めしばらくしたところで、操縦席の方から、ラッティーの声で、


「『スカイ・レイ』発進!」が聞こえてきた。


 すぐにアスカが、


「『スカイ・レイ』発進します」と答え、『スカイ・レイ』は上昇を始めた。



 アスカが『スカイ・レイ』を発進させているあいだ、俺は「ピーイ、ピーイ」とお肉をせがむヒナたちの面倒を見るので忙しいので、後ろの方に座り込んで、ヒナたちに肉をやっていた。


 二皿目の小皿の肉が無くなったあたりで、おなかがいっぱいになったのか、そのまま二羽がくっついて丸くなって眠ってしまった。起きた時のどが渇いてたらすぐに水が飲めるよう、木でできた深皿に水を入れて、巣?の中に入れておいてやった。


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