第305話 ヒナの名は? ルマーニ到着


 二羽のヒナが丸くなって、毛布で作った巣の中で眠ってしまったので、俺も操縦席の二人のところに戻り、


「お腹がいっぱいになったようで、二羽とも眠ってしまった。飛行の方は?」


「順調です。二羽ともマスターになついたようで良かったですね。それで、名前はどうしますか?」


「それは、まだ考えていない。少なくともグリとフォンでもなければ、グリグリ1号、2号でもない」


 アスカに言われそうなことは先回りして言ってやった。


「待てよ、この二羽はモンスターじゃなくて普通の生き物だからオスメスあるんだよな?」


「頭の上に白い羽が二、三枚付いている方がメスで、尻尾の先に黒いふさが付いているのがオスのようです」


「シルバーたちと違って外見的特徴がはっきりしていてよかったな」


 名前の話をしていたら、ラッティーが、


「私も名前を考えていいですか?」


 それは、断れないよな。


「もちろんだ、オスとメスのようだけど、ラッティーは、なにかいいのを思いついたのか?」


「これから、考えます」


「カッコいいのを考えてやってくれよ」


 前の方でそんな話をしていたら、エメルダさんが、


「あのー、私も名前を考えてもよろしいですか?」


 それも断れませんよ。


「よろしくお願いします。いい名前を考えてやってください」


 みなさんこの子たちに興味があるようだ。あれだけかわいければ仕方ない。


 ちなみに、この時点で俺が考えていた名前は、もちろん『グリ』と『フォン』だったが、アスカに何か言われることは目に見えていたので、先回りしてダメだししてやった。自分の首を絞めただけだったが止むをえまい。


 みんな、名前を考えると言ったものの、いい案を持って言ったわけではないようで、これから名前を考え始めたようだ。少しだけ安心した。俺もうかうかしてはいられないので、真面目に考えよう。


 飛行中ああでもないこうでもないと頭をひねった結果、


 オスのグリフォンの名前は、ブラッキー、メスのグリフォンはホワイティーと非常にありきたりの名前になってしまった。


「マスター、グリとフォンよりよほどいいじゃありませんか」


 まだ何も言ってませんヨ。


 ちなみに、命名は二羽とも、ラッティーだ。エメルダさんもさすがに空気を読んだようだ。


 ブラッキー、ホワイティー、ラッティー。三つ並べると、なんだかラッティーも似たような名前だった。これは、言わないでおく方が無難ぶなんだ。俺の本能がそう告げる。


 名づけも無事終わり、その後も『スカイ・レイ』の飛行は順調で揺れもほとんどないので、アスカ以外の四人で、毛布で囲った巣の周りに集まって二羽の寝顔を見ていた。



 そろそろいい時間だと思い、操縦席に座るアスカの後ろに行って、


「アスカ、今何時だ」


「3時ちょうどです。あと30分ほどでルマーニの王都に到着します」


「あれ以来何事もなくここまで来れてよかったな。そういえば、アスカ、ルマーニの王都では、どうする?」


「どうすると言いますと?」


「この『スカイ・レイ』をどこに着陸させようか?」


「そうですね。王都の外というのも距離がありますし、三人を二人でおんぶして走るわけにもいきませんから、多少は驚かれるでしょうが王城付近に下ろしますか」


「そうだな。ちょっと、エメルダさんにも相談してみるか」



「エメルダさん、この『スカイ・レイ』をルマーニのどこに下ろせばいいと思いますか? 王城の近くだと驚かれそうですし、王都の外だとだいぶ距離がありそうなので」


「驚かれるのはこの際仕方ありませんので、王城の近くに馬場ばばや騎士団の訓練場が広場になっていますからから、そのあたりでいいと思います。王城は王都の中心ですので、すぐわかると思います」


「分かりました。馬場だと訓練された馬でも驚くかもしれないので、訓練場を見つけてそこに下ろしましょう」




 それから、しばらくして、


「ルマーニの王都ブレトが見えてきました。あと10分ほどで到着です」


「王城の近くの馬場じゃない広場を見つけたら、そこに下ろしてくれ」


「了解」



「マスター、王城と、その周辺に広場が数か所見えてきました。一番広い広場に着陸します」


「任せた。さーて、ブラッキーとホワイティーをどうするかな。『スカイ・レイ』は収納してしまいたいから、アスカと俺で一羽ずつ抱いていくしかないな」


「それだと、挨拶あいさつ時に少しおかしいので、マスターではなく、ラッティーが抱いていた方がいいと思います」


「それもそうだな。

 ラッティー、着陸したら『スカイ・レイ』を収納するから、ブラッキーかホワイティーのどちらか一羽を抱いていてくれるか?」


「エヘヘ。じゃあ、ホワイティー」


「それじゃあ、アスカはブラッキーな」


「はい」




「『スカイ・レイ』王城上空です。着陸脚展開、王城脇の広めの空き地に向け降下します」


 景色がゆっくりと上に流れ、軽い振動とともに『スカイ・レイ』が無事着陸した。


 それはいいのだが、『スカイ・レイ』の周囲が武装した兵士たちによって囲まれている。当然と言えば当然だ。ここで、対応を誤らないようにしないとエメルダさんに申し訳ない。


「着陸成功」


「エメルダさん、到着しました」


「ありがとうございます。ここは、王国騎士団の訓練場のようです。いまこの飛空艇を囲んでいるのは王国騎士団の人たちですので、すぐに武器をろさせます」


「危険ですので、私が先に出ましょう」


「でも」


「エメルダさん、兵士たちの気が立ってたりすると危険ですので、俺とアスカが先に出ますから、その後から降りてください。俺とアスカなら、大丈夫ですから。アスカのブラッキーは前にいると危ないから、エメルダさんが抱いていてくれますか?」


「分かりました」


 ざっとみ二十人ほどの兵士がこの『スカイ・レイ』を囲んでいる。


「アスカ、攻撃されたとしても、反撃は無しな」


「了解」


 ラッティーとエメルダさんがホワイティーとブラッキーを抱き上げたのを確認し、毛布をとりあえず収納しておいた。


 エメルダさんの侍女のパトリシアさんはラッティーとエメルダさんを守るように一歩前に出で、俺とアスカの後ろの位置についた。


「それじゃあ、アスカ、タラップを下すぞ」


「はい」



 タラップを下し、アスカが俺の一歩前を歩いて『スカイ・レイ』の外に出ていく。


 タラップが地面についたところで、周りを囲んでいた兵士たちが、一斉に槍を構えた。


 アスカには反撃はするなと言ったが、実際殺意を持った攻撃が行われた場合、アスカが黙って見過ごすのか自信はない。


「アスカ、くれぐれも反撃はしないでくれよ」


「分かっています」


 槍を構えた兵士たちの中に、一人剣を持った金属鎧の兵士がいた。その兵士が指揮官だろう。


「われわれはアデレート王国から、この飛空艇でエメルダ王女殿下をお連れしたものです。そちらがここの指揮官の方ですか?」


「いかにも。私は、ルマーニ王国騎士団副団長、ポウル・アレスです

 みんな、武器をいったん収めろ」


 空から降って来た妙な生き物っぽい物の中から、人が降りて来たことで少しは安心してくれたのか、逆に警戒させたのかは分からないが、とにかく、アレスさんのいまの一言で、槍を構えた兵士たちが穂先を上に上げて、臨戦態勢を説いてくれた。アデレート王国の飛空艇のうわさくらい聞いていたのかもしれない。


 そこで、後ろの方にいた、エメルダさんが前に出てきて、


「第一王女エメルダです」


 その言葉で、アレスさんほか、兵士たちが一斉に姿勢を正した。


 静かになった騎士団の訓練場のなかで目をましたブラッキーとホワイティーの鳴き声が「ピーイ、ピーイ」と響いていた。


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