第303話 グリフォン


 様子ようすのおかしい、ミニマップ上の黄色い点で表された飛行生物が気になる。


『アスカ、さっきの二匹は何だったと思う?』


『翼は見えましたから、大型のわしか何かだったのかもしれませんが、ただの鷲がワイバーンに挑めばおそらく瞬殺しゅんさつされるでしょうから、もう少し力のある生き物だと思います。例えば、そうですね、グリフォンなどの可能性があります』


『グリフォンっていたんだ。そいつはモンスターではないのか?』


『一応はモンスターなのでしょうが、極めて知性が高く、無駄な戦いはおそらくしないと思います』


『ということは、あの二匹がグリフォンとして、ワイバーンに襲われて応戦中だったわけだな』


『おそらくそうだと思います』


「えっ! グリフォン? ワイバーン?」


 心配させないようかなり小さな声でアスカと話をしていたのだが、ラッティーの耳に不穏ふおんな言葉が入ってしまったようだ。


「ラッティー、心配しなくていい。ラッティーがカレーを食べている間にワイバーンは全てたおした。あとはグリフォンだけだけれど、敵意はないようなので、襲われるようなことはない」


 今の説明で、ラッティーは一応安心したようだったが、今度はエメルダさんたちに今の会話が聞こえてしまった。


「えーと、ワイバーン?を先ほどたおされたんですか? わたしたちが食事中に。それで、グリフォンが近くに?」


「まあ、そうなんですが、どちらにせよわれわれにとってはワイバーンであれグリフォンであれ、たいした敵ではないので安心してください」


「いつも、シャーリーさんがお二人の自慢話じまんばなしをされていましたが、本当だったんですね」


「シャーリーがどんなことを言っていたかはわかりませんが、少なくともアスカはこの大陸一の強さですから何が来ようと安心してください」


 いちおう、これで落ち着いてくれるかな? シャーリーが話していた内容は予想は付くけどね。


『アスカ、まだ、ミニマップに映っているから、行ってみよう。ちょっと寄り道になるけれど10分ぐらいで何とかなるだろう』


「エメルダさん、グリフォンには敵意はないようなので、寄り道にはなりますが、すぐそこなのでグリフォンを見に行ってみませんか?」


「は、はい」


「それでは一度『スカイ・レイ』を着陸させます。

 アスカ、頼んだ」


「了解。『スカイ・レイ』減速後、着陸します」


 ちょっと寄り道するだけなので許してください。やはり、グルフォンには興味があるからね。あとは、ユニコーンもいたら見てみたいけど。


 ミニマップに映る黄色い点に向かい『スカイ・レイ』が降下していく。


 最初、二匹いたのだが、一匹は死んでしまったのか、今では黄色い点は一つしか見えない。


 『スカイ・レイ』の降下中、ミニマップをじっと見ていたら、小さな黄色い点が二つ増えた。なんだ? 行ってみればわかるか。



『スカイ・レイ』の降下していった先は、いわゆる切り立った崖の上の20メートル四方くらいの平たい岩場だった。『スカイ・レイ』の大きさからいってかなり狭い場所だが、アスカがうまく『スカイ・レイ』を操縦して着陸脚を岩場の端の方に乗せたようだ。


 エメルダさんたち三人には、様子ようすを確認するまで『スカイ・レイ』の中にいてもらい、俺とアスカでグリフォンと思われるモンスターのところに行くことにした。


 そこにいたのは、上半身というか肩口から上はこげ茶色の羽根で覆われた見た目がワシ、四つ足から後ろの下半身が黄土色をしたライオンの胴体、その胴体に今は折りたたんでいるが二枚の翼をつけたワシ顔のモンスター、想像していたのと同じグリフォンだった。


 見れば、そのグリフォンは傷だらけで、その傷から今も赤い血が流れ出ている。片側の翼も折りたたんではいるものの根本から妙な方向にずれているようだ。


 その傷だらけのグリフォンの横には、もう一匹のグリフォンが同じく血だらけでうつぶせに寝ていた。ワイバーンの火球を受けたのか一部羽根が黒く焼けている。こちらのグリフォンは死んでいるようだ。そして、そのわきには、小枝で編んだような巣があり、中に二匹の小さなグリフォンがいた。ざっと見た感じグリフォンには魔石がないようだ。ということはモンスターではないらしい。


 子どもを守るためにワイバーンと戦ったのだろうが、俺たちが見つけなかったら二匹ともワイバーンにたおされていただろうし、ここにいるヒナ?も殺されていただろう。


「アスカ、グリフォンはモンスターじゃないようだ。魔石がない」


「分かりました。話が通じるかも知れませんので私が話をして見ましょう」


「われわれは敵ではない。先ほどのワイバーンを斃したのは、そこにいるヒトだ」


『分かっている。ありがとう。わたしはもう長くはない、できればこの子たちを見逃してくれ』


「見逃す?」


『この子たちを捕まえに来たのだろう?』


「そんなことはしないし、思ってもいない」


『そうだったのか。すまない。ならば、わたしの最期さいごの望みを聞いてくれないか?』


「できることなら、聞いてやらないでもない」


『この子たちの面倒を見てやってくれないか。いずれ、またワイバーンたちはやってくる』


「マスター、どうします?」


「できれば、助けてやりたいが、どうすればいいんだ?」


「連れ帰って育てるということでしょうか」


「アスカ、グリフォンを育てられるか?」


「体は丈夫でしょうから、エサさえきちんとやっていれば何とかなとは思います」


「それでいいんなら、助けてやると言ってくれるか」


「グリフォン、わかった。おまえの子どもたちの面倒をみてやろう」


『かたじけない。もはや、時間だ。子供たちをたのむ。……』


 グリフォンは目を閉じてそのまま動かなくなってしまった。ミニマップの黄色い点が一つ消えていた。



「いまさらだけど、このグリフォン、ポーションで助けられなかったかな? 万能薬なら効いたような気がするが」


「人ではないので、効いたかどうかはわかりませんが、試してみればよかったですね」


「こればかりは仕方ないな。それじゃあ、この二匹のヒナを『スカイ・レイ』に運んでしまおう。毛布でも敷いておけば大丈夫だろ」


 親鳥?二羽の死骸もここに置いておくといずれワイバーンか何かに見つかって荒らされてしまいそうなので、収納しておいた。そのうちどこかにとむらってやろう。




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