第294話 旋盤とレッドドラゴン2


 魔導モーターから機械本体へ動力を伝達するため、ドラゴンの皮(革)でベルトを作ろうということになり、いつかヤシマダンジョンでってきたレッドドラゴンの皮をぎ取ったところだ。


「一応ドラゴンの皮を剥ぎとりましたが、まだウロコが付いていますので、それをはがしていきます。小型のドラゴンですので、それほど大きなウロコはとれないようですが、それでも売ればそれなりの値段で売れるのではないでしょうか。マスター、薬草採りに使った麻袋あさぶくろを二、三枚お願いします」


 手渡した麻袋の中に、アスカの無数の髪の毛で引っこ抜かれたドラゴンのウロコが入っていく。


 結局、ドラゴンのウロコで三枚の麻袋がいっぱいになったので、収納しておいた。


 かたや旋盤せんばんが置かれた脇で、ドラゴンの解体。それなりにシュールだ。


「見たところ、なめさなくても内側を2センチほど削ってしまえばそのままとしてつかえそうです。さっそく、内側を削り、帯状にドラゴンの革を裁断さいだんして、両端を縫い合わせ動力伝達用のベルトを作りましょう。縫い合わせ用の糸には細切りにしたドラゴンの革、針はアダマンタイトで一本作ってしまいます」


 言っているはしから次々物ができていき、アダマンタイトで作った大き目の針にドラゴンの革でできた糸を通して、革の帯の両端を縫い付けてしまった。


「ベルトはこんな感じでいいでしょう。先にベルトをはめるプーリー(ベルトをはめる溝のある車輪型の部品)を魔導モーター用、ギアボックス用に作ります。ベルトのテンションちょうりょく調整用にプーリーを別に一つかませた方が良いのでしょうがドラゴンの革製ベルトはかなりしっかりしているようですから、そこまではいいでしょう」


 アスカの説明に訳知り顔わけしりがおで適当にうなずいていたら、ベルトをかけるための溝のある車輪のような部品がアスカによって二個作られた。


 各々、魔導モーターから取り外した歯車と、ギアボックスから取り外した歯車の代わりに今作られたプーリーをはめ込んだ。そのあと、二つのプーリーにドラゴンの革製ベルトをはめて、魔導モーターの位置決めをし、適当な位置で配線済みの魔導モーターを固定してしまった。


「これで、大丈夫。でき上りです。確認のため、この旋盤で丸棒まるぼうを作ってみましょう」


 そう言いながら、アスカがはがねのインゴットをね始め、長さ30センチくらいのやや太めの丸棒を作った。


「適当に手でねただけの丸棒では十分な精度が普通でませんので、このようにして、旋盤を使いきれいな丸棒に仕上げていきます」


 普通の人は手で鋼を捏ねないので、精度もくそもないと思うけどね。


 アスカが作った丸棒が、旋盤の回転する本体部分に差し込まれそこについていたネジでしっかり固定された。


「これで準備完了です。切削せっさく用の金具は何種類か作りましたが、どれも刃先をアダマンタイト製にしていますので、切削時、水などをかけて過熱を防ぐ必要はありません」


 アスカがスイッチを入れたようで、丸棒が本体と一緒に回転を始めた。


「切削金具の位置は、取り付けた切削金具の先のダイヤルで調整します。先ほどゼロ位置の調整は終えていますので、このままダイヤルの目盛りの位置が、切削金具の刃先の可動範囲かどうはんいになります。切削金具の刃先はダイヤルの後ろのハンドルで前後させますが、外側からこの位置までしか動かせません」


「手前のハンドルを回すと、主軸しゅじくの回転部分が前後に移動します」


 そう言いながら、アスカは手前のハンドルを回し、回転部分が前に進んで行った。


「半径2センチちょうどの丸棒を作りますから、最初の切削金具のダイヤルを20.00ミリに合わせます。精度は100分の1ミリです。ダイヤルの外側のハンドルを回すと、切削金具が今セットした20ミリの位置まで前進します。一度に深く削ると鋼の方が壊れる場合がありますので、様子を見ながら手前の主軸用ハンドルと切削金具用のハンドルを回して削って行きます」


 見る見るうちに丸棒が削られていき表面が鏡面きょうめんのようなきれいな丸棒ができあがった。


「私が直接作った場合は、精度は1万分の1ミリまで出せますので。それでも、この旋盤で、熟練工並みの精度は出せます」


 要は、自分は超熟練工の100倍すごいって言いたかったわけね。


「後は、この半径20ミリの丸棒の内側を削ってパイプを作ってみましょう。本体主軸の向かい側に、中ぐりなかぐり用切削金具をこのように取り付け、その後ろのダイヤルを15.00ミリに合わせます。同じように後ろのハンドルを回すと切削金具が内側からダイヤルで合わせた位置まで動かせることができます。これで、本体を回転させながら刃先を前後させると外径40.00ミリ、肉厚5.00ミリのパイプができ上ります」


 アスカがハンドルを回して、本体主軸に取りつけられた丸棒が高速回転しながら前に進み、向かいの中ぐり用の切削金具によって内側が削られていき、あっというまにパイプができ上った。


「旋盤はうまくでき上ったようだから、仕舞しまっておくか。明日あしたにでもボルツさんのところに持っていって使い勝手をみてもらおう」


「その前に、せっかくですから、魔導モーターの回転軸を高精度のものに取り換え効率をすこし改善してみましょう。モーターの振動も低減しますし、寿命も延びると思います」


 そういいながら、アスカはさっさと魔導モーターを分解してしまい、新しく鋼材から作ったの回転軸に取り換えてしまった。試しに旋盤に戻して、起動したところ、魔導モーターはほとんど振動しなくなった。


「これでいいでしょう。この旋盤は、最初にボルツさんのところよりもベルガーさんのところに持っていった方がいいんじゃないでしょうか? ベルガーさんに見てもらった後、使い勝手をボルツさんに確認してもらいましょう」


「それもそうだな。自分で作ったものが、どのように使われているのか気になるよな」


 そのあと、アスカはせっかくだからと、新しく魔導モーターをベルガーさんが作るときに使ってもらうため十本ほどモーター軸を作ってしまった。それと一緒に旋盤も収納しておいた。


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