第295話 ドラゴン解体


「あとは、ドラゴンの解体の続きだな。ドラゴンステーキか。実際どんな味がするのか試してみたい気はするよな。うまいマズいは人の好みだけれども、これだけドラゴンのストックがあるんだから、うまければいいな。それじゃあ、さっき皮をはいだ胴体をそこに出すぞ」


 俺の感覚的にはドラゴンは爬虫類はちゅうるいなので、ある意味ゲテモノなのかもしれないが、ラノベ知識で、ドラゴンの肉をゲテモノ扱いしているものを読んだことはない。それが通用すると信じれば、ちゃんとした肉なのだと思う。いや思いたい。


 もう一度、草原くさはらの上に、皮をはいだ巨大な鶏の足とりのあしっぽいドラゴンの胴体を取り出して、


「アスカ、腹を裂いたとたん内臓なんかが、ドロリとはみ出てきたらちょっと嫌だな」


「一応ダンジョンのボスをしていたこのドラゴンですが、あの何もないボス部屋の中で、なにかを食べていたとは思えません。ドラゴンの生態などは私も知りませんが、おそらく、消化器などは腹の中にないんじゃないでしょうか。現に見たところ腹部は出っ張っていませんし排泄器官はいせつきかんも見当たりません」


「なるほど。それは一理いちりあるな。じゃあ、腹の中には何が入っているんだ?」


「さあ、腹筋などの筋肉とその他の部位、いわゆる結合組織でしょうか。開けてみればわかりますから、いきます」


 アスカの斬撃によってすっぱり切り裂かれたドラゴンの腹?の中にあったものは肉だった。


「内臓がないようです」


 さすがに、アスカも『内臓がないぞー!』などとは言わなかった。ホルモンより肉の方がいいかもしれないが、腹の中の肉はなんていうんだ?


「この薄茶色の部位はおそらく肝臓かんぞうと思います。どうも、腹の中の内臓はこの肝臓だけのようです」


 レバーだけでもあってよかった。おれはミノも好きなんだが無ければ仕方ない。


 アスカのいうこのレバーもかなり大きくて、3メートル近くある。ほんとうにレバーとして食べることができるのかは不明だが、レバーは特に足が早いくさりやすいということを聞いたことがあるのでそのままの形ですぐに収納した。


 皮をはいだドラゴンの全体の色合いは鶏のもも肉を思わせる白みがかったピンク色だったのに対し、肝臓は薄茶色。


 そのほかの腹の中の肉は、少し赤みが増したピンク色をしていおり、見た目は脂肪分のほとんどない鶏肉のようだ。その赤みが増した部位をアスカが適当な大きさのブロックに切り取るので俺はそれを収納していく。背骨と骨盤こつばん、背骨から尻尾に向かって肉以外何もなかった。


 ただ、腹の中には白い管がそうとう太いものから細いものまでかなりの数走っていた。おそらく俺が収納庫の中で血液を抜いた関係で、中身が無くなりへしゃげてしまった血管なのだと思う。そのほかにも何だか分からないすじが太いものから細いものまでかなり走っていたが邪魔なのでアスカがきれいに切り取ったものを俺が収納しておいた。


「マスター、ドラゴンの骨盤こつばんから、切り取った大腿骨だいたいこつの根元に向かっているこの赤身肉、この部位がヒレ肉じゃないでしょうか?」


 なるほど、柔らかそうなピンク色の肉だ。意識して収納すれば部位ごとに分けることができるので、一応この肉はヒレ肉としておこう。あとの肉の部位名は分からないので適当だ。アスカが切り取るドラゴンの腹の中の肉を順番に収納していく。


「そういえば、牛のテールって聞いたことがあるけど、ドラゴンだとどうかな?」


「あまり尻尾の太い部分ですと大きすぎるので、その辺りは肉をぎ取った方がよさそうです。ドラゴンの骨ですから、出汁だしがちゃんと出るかどうかは分かりませんが、しっぽの先の細い部分は試しにスープ用に輪切りにしましょう」


 スープ用だかに切り取った部分は、尻尾の細い部分といってもかなり太い。大き目の寸胴鍋ずんどうなべで何とか入るくらいの大きさだ。うちの屋敷の厨房にある包丁では当然切れないと思う。その時はアスカ頼みで何とかするしかないだろう。



 肋骨ろっこつから後ろが骨だけになった。先っちょはスープ用テールとしてちょん切っている。


「だいたい、腹から尻尾までは肉が取れたようですので、次は胸にいきましょう」


 胸部は腹部と違ってかなり膨らみがある。少なくともドラゴンには血液が有ったので心臓はあるはずだ。


 アスカによってドラゴンの胸が横方向から切り開かれた。まず、胸骨きょうこつと背骨を繋いでる肋骨の根元を切断し、一本ずつ胸から取り外していく。その際、肋骨と肋骨の間の肉をきれいにそぎ落としていくのだが、けっこうその肉の量が多い。


「アスカ、そこってカルビなのかな?」


「マスターの知識しか私にはありませんのではっきりとは言い切れませんがおそらくカルビだと思います」


 ある程度あぶらの乗ったカルビ肉の方がうまいのだが、どうもドラゴンには無駄な脂肪がついていないようで、脂肪の乗った部位は見当たらない。


 片側の肋骨が全部取り払われて現れたのはおそらく肺と思うが、さすがに肺はホルモンでも聞いたことがないので食べられないのかおいしくないのだろう。そのうち味見をするかもしれないのでとりあえず収納だけはしておいた。


 その先にある直径1メートルほどの真っ赤な肉の塊だ心臓だと思う。


 これがハツだと思うとあまりおいしそうには思えないが、極太ごくぶとの血管を切り離しただけでころりと外れてしまったので、転がり出る前に収納しておいた。


 どの肉も巨大なので料理するときは、アスカに小分けしてもらう必要がある。その先は気道だろう。気道の先端にこれも直径1メーターくらいの紫がかった赤いボールが付いていた。


「アスカ、これは何だと思う?」


「おそらく、ドラゴンの火球なりブレスを生み出す器官だと思います」


「なるほど。食べられると思うか?」


「この部位は火の玉を生み出すくらいですから過熱調理かねつちょうりはできないのではないでしょうか」


「そうかもな。一応取っておくけど、おいしそうではないな。しかし、このドラゴンはレッドドラゴンだったけれど、性質的には火に強いんじゃないか? 焼いたり煮たりしてうまく火が通るかな?」


「試してみるしかありませんが、ドラゴンステーキとかいう言葉もあるぐらいですか焼いて食べることはできるんじゃないでしょうか」


「ドラゴンステーキは創作そうさくの中だけだと思っていたけれど、この世界ではドラゴンステーキってあるのか?」


「いえ、私は聞いたことはありません」


「まあ、試してみればいいだけだけれど、これだけの肉が食べれないとなるとそれはそれで問題だな」


 結局それから、5分ほどで、解体が終了したので、食べられそうな部位、どうやっても食べられそうにない部位。いずれにせよ草原くさはらの上に残してはおけないので全部収納しておいた。ちなみにドラゴンの肉は無臭だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る