第296話 ドラゴン実食


 いちおうレッドドラゴンの解体も終わった。実際はあと四肢ししと頭が残っているが、胴体を解体しただけでもかなりの量の肉が取れている。


「だいぶ量があったなー」


「ドラゴンの大きさからいって元のドラゴン自体は細身でしたが30トン以上あったんではないでしょうか。その7割が肉だったとして20トンですから相当でしたね」


「もうこれだけで、屋敷で食べる肉の数年分だな。今うちにはアスカと俺のほかに十三人。十五人で一人一日300グラム食べたとして、一日4.5キロ、切り上げて5キロとして、20トンは2万キロだから5キロで割ると?」


「4000日、11年弱の計算になります」


「すごい量だな。それが今のを含めて全部で6匹か」


「まだ手足もあります」


うまい肉ならいいなー、何度も言うけれど」


「いずれにせよ、ステーキ以外にも工夫くふうすればいろいろな料理法で料理できるでしょうから、安心していてください」


「俺としたらステーキよりも焼き肉の方が今は食べたいけれどな。まてよ、焼き肉ってタレが大切だけど、あのトロっとしたタレをうちで作れるかな?」


醤油しょうゆ?も砂糖もありますし、唐辛子とうがらし?もネギやゴマもありますからいい線できると思います」


「ゴーメイさん次第だけど、なんとかなりそうだな」


「まずは、厨房ちゅうぼうに行って、ちょっとだけ焼いて味見あじみしてみよう」


「はい」


 アスカもうれしそうだなー。これでうまいと分かったら、今度は、レッドドラゴン以外を採って来ようといい始めそうだ。それくらい旨いことを期待しよう。



 二人で、夕食の仕込しこみを始めていた、ゴーメイさんとミラにことわって、肉を焼くことにする。


「ゴーメイさん、ちょっと変わった肉を手に入れたので、味見に厨房ちゅうぼうを使わせてくださいね」


「どうぞ。それで何の肉なんですか?」


「ゴーメイさんとミラにも焼けたら食べてもらうから、それまでは秘密です」


 最初からドラゴンの肉だとか教えてしまうと引くかもしれないからな。


「それじゃあ、どこの部位を出そうか?」


「最初ですから、無難ぶなんにカルビでいきませんか」


「そうだな。肋骨から削ぎとった肉はそんなに大きくないからちょうどいいだろう」


 あまり大きくないカルビをまな板の上に出してみた。だいたい10キロくらいの塊だと思う。わずかに脂があるようだが、ほとんどピンク色の赤身だ。


「ショウタさま、随分変わった肉ですね。先ほどカルビとおっしゃってましたが、そこはどこの部位になるのですか?」


「肋骨周辺の部位になります。ここに出したのは、肋骨と肋骨の間の肉です」


「えっ? 肋骨の間のバラ肉でこの大きさ? いったい元はどれだけ大きかったんですか?」


「それなりに、とだけ。それじゃあ薄切りにして焼いてみましょう。

 アスカ、包丁で切れるかどうかの確認だ。そこの包丁で切ってくれるか?」


「はい、マスター」


 包丁立てに立てかけてあった大き目の包丁を持ったアスカがまな板の上の肉を切っていく。


「マスター、少し硬いようですが、問題なく切れます。ですが、十枚も切れば研ぎなおしが必要になるかもしれません。とりあえず、人数分四枚ほど切っておきましょう」


 一度肉の塊から羊羹ようかんさおの形に肉を切り取り、そのサクを5ミリくらいの厚さでスライスしたものを四枚。


「今後この肉を厨房でゴーメイさんたちが料理することを考えると、もう少し丈夫な包丁ほうちょうをこの際作ってしまいましょう。マスター、アダマンタイトとミスリルのインゴットを一つずつお願いします」


 十枚しか包丁が持たないのでは問題だ。アスカに言われたインゴットを渡してやる。


「前回は、短剣を作りましたが、今回は包丁ですので、アダマンタイトが四分の一、ミスリルは八分の一でいいでしょう」


 そう言いながら、各々のインゴットを切り取ったアスカが、


「前回同様ミスリルを芯材しんざいとしてその周りをアダマンタイトでくるみますから、まずはミスリルの丸棒まるぼう、そしてアダマンタイトの板材いたざい。こんな感じで大丈夫でしょう」


 みるみる丸棒と板材がアスカの手によってでき上ってくる。


「ミスリルの芯材をアダマンタイトの板材の真ん中において、板材を折り曲げて芯材をくるみます。そのまま圧着させながら、形を整えていきます。今回は肉切り包丁ですから、このような形でいいでしょう」


 結構大きな包丁ができた。先端は尖ってなくて、刃の長さが40センチほどの長四角型の包丁だった。


「マスター、持ち手を作りますから、端切れはぎれ材をお願いします」


 渡した材木を簡単に削って、持ち手の柄ができた。楕円形をした柄の先端にはすでに包丁の根っこを突っ込む穴が空いていた。


 その穴に包丁を差し込み、


「だいたいこんな感じですね。包丁ですので、目釘は打たないでいいでしょう。それでは、磨いていきます」


 見た目には、指先で刃先をなででいるだけなのだが、刃先の表面がつるつるになって来た。アダマンタイト特有の青さがなかなかいい雰囲気ふんいきを出している。武器ではないが、武器として使っても十分な性能があるのだろう。


「完成です」


「どれどれ」


 受け取った包丁を鑑定してみたところ、


「アダマンタイトの長包丁ながぼうちょう EX」


アダマンタイト製の包丁、芯材にミスリルを使用しているため、魔力の通りが良く、切断力をそこなうことなく軽量化されている。

アーティファクトに準じる。

切れ味が落ちにくく刃こぼれしにくい。


 まーた、エラいものができ上ってしまった。魔力の通りがいいと何ができるのかは分からないが、この包丁、まかり間違えれば、簡単に指が飛びそうだ。まあゴーメイさんが使う分には問題ないか。まな板が心配といえば心配だが、食材を切るのに力がいらないなら、逆にまな板を傷つけずに切ることもできそうだ。


 アスカに包丁を返したところ、包丁を一度水洗いして、


「それでは、包丁も新調しんちょうしましたので、どんどん肉を切って行きましょう」


 いやいや、試食のつもりで厨房に来たんだから、10キロも切らなくていいんだから。


 そう思っているうちのもどんどん肉のさくが作られて、5ミリ厚にスライスされて行く。結局、一分もかからず10キロのスライス肉ができあがり、まな板の上に山盛りで置かれてしまった。


 アスカの包丁製作から、肉の切り分けまでくちアングリで見ていたゴーメイさんとミラが今の言葉でなんとか再起動したようだ。


「マスター、20枚ほど残して後は収納お願いします。

 それでは、残った20枚を焼いてみましょう」


「金網で焼きますか? それともフライパンにしますか?」


「金網なら炭で焼いた方が良さそうだから、軽く塩コショウをして簡単にフライパンで焼いてみてくれ」


 アスカは、まな板の上のスライスした肉に塩コショウをし、その後、渡されたフライパンをコンロの上において、熱くなったところで軽く油を敷いて、それから、塩コショウをした肉を数枚投入した。


 普通なら、ここで、『ジュー』とか音がするのだが、はっきりとした音はしない。


「やはり、かなり熱に強いようですね。もうすこし火を強めてみます」


 しばらくして、やっと肉が焼ける『ジュー』という音が聞こえてきた。


 なんとか、フライパンで焼くことができるようなので一安心だ。炭の上の金網ならもっと高火力だろうから、早く焼けると思う。


「火は通ったようです」


 コンロの火を止め、皿の上に焼かれた肉をトングで移し、


「それではみんなで食べてみましょう」


 火の通った肉はなまの時のピンク色から、豚肉を焼いたような白っぽい色になった。みんなで、フォークにその肉を突き刺して、フーフー言いながら口に入れてみる。


「ウグ、ウグ。なんか硬いな。噛めば噛むほど味が出るとまでは言わないが、結構いけるな。たれにつけて食べたいところだ」


 意外という訳でもないが、かたさ的には柔らかめのスルメくらいなのでそこまで硬いという訳ではない。味の方は、肉の味としか今のところは表現できない味だ。


「確かに少し硬い肉ですが、調理の仕方を工夫すればもう少し柔らかくかなるかもしれません」と、ゴーメイさん。


「この硬さだと、沢山は食べられないと思います。それでも、もう少し薄く切ってしまえば食べやすくなるかもしれません。あとは、ベーコンなどに加工するのもいいかもしれません」


 ほう、ミラの今の意見は参考になるな。加工肉もいい意見だ。


 俺とすれば、だれでもそこそこおいしく食べることができるということが分かって、一安心だ。


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