第301話 ルマーニ2、出発


 翌日、俺とアスカは、ルマーニ王国の位置を確認するためセントラル大学付属図書館に出向いて、地図を確認しておいた。


 セントラルから、ルマーニの王都ブレトまで、街道沿いに進んでだいたい1600キロ。ここから、ラッティーのアトレアとほぼ同じ距離だった。西門にしもん前を南北に走る街道沿いに北上していけばそのままルマーニの首都につくらしい。


 ついでに図書館で『万能薬』について書いてある本を探したところ、百年ほど前その時代最高の錬金術師といわれていた錬金術師によって作られた最後の一本が数十年前消費されて以来、この大陸には『万能薬』は存在しないのではないかと書かれていた。その本の書かれたのが数十年前のようだから、かなり昔に『万能薬』はなくなってしまったようだ。


 効能についてはただ、「たいていの病気やケガ、状態異常を健康状態にする。見た目は透明。光にかざすと虹色に見える」とあるだけで、俺の鑑定情報と寸分の違いもなかった。少なくとも、今現在は流通していないもののようで、どの程度の金銭的価値があるか分からない。そのうち、商業ギルドのリストさんに頼んでオークションに出すのも一つの手だと思う。




 シャーリーが学校でエメルダさんに「飛空艇で送り届けることもできるがどうするか?」と確認したところ、「ぜひお願いします」と半分泣きながら頼まれたそうだ。誰も留年りゅうねんはしたくないだろうし、祖母の顔も生きているうちに見たいだろうから当然だ。明日あすの朝、こちらに侍女一人を連れ手荷物を持ってやってくることになったようだ。


 あと、二台目の魔導モーターがベルガーさんの取引先の魔導具工房から届けられたのでそれは収納しておいた。

 


 ルマーニの位置を確認した俺たちは、ルマーニまでの往復3200キロを飛行するため、『スカイ・レイ』を入念に整備し、明日の飛行に備えた。俺は、アスカを後ろからはげましていただけだが、気は心。アスカには俺の感謝の気持ちが十分伝わったはずだ。伝わってるよね?


「十分伝わっています」


 よかった。


 それと、ゴーメイさんにもお願いして、軽食など・・を用意してもらっている。





 そんなこんなの飛行準備をおえて、翌日朝の8時過ぎ。


 エメルダさんが、侍女の人を伴って箱馬車でうちに到着した。学校にサージェントさんの馬車で出発したシャーリーとは行き違いになってしまったのは残念だったが、そこは仕方がない。


「ショウタさん、アスカさん、お世話になります」


「エメルダさん、あまり気にしないでください。ちょうどアスカも私もいていましたし、そこまで大変なことではありませんから」


「ありがとうございます。そういえば、うちの侍女を紹介させてください。

 小さい時から私に仕えてくれている、侍女のパトリシア・スノーです。よろしくお願いします」


「パトリシアです。お嬢さまともどもよろしくお願いします。パトリシアとお呼びください」


「パトリシアさん、こちらこそよろしく」「よろしく」


 こっちも、後ろに立っていたラッティーを前に出して、


「この子はラッティー、本当の名前はリリム・アトレアといって、南方のアトレアという国の王女さまなんですが、いろいろあってうちで面倒を見ている子です。今回、後学のために同行させますのでよろしくお願いします」


「ラッティーです。よろしくお願いします」


「あら、かわいい子。エメルダ・ルマーニです。エメルダって呼んでね。シャーリーさんからお話は良く聞いていましたが、お話以上にかわいい子だったんだ。ラッティーさんとお呼びした方がいいのかしら、それともリリムさんの方がいいのかしら」


「ラッティーでお願いします」


「それじゃあ、あらためて、ラッティーさんエメルダです。よろしくね」


「こちらこそよろしくお願いします」


 みんなの顔合わせが終わったところで、


「大きな荷物は私が預かりましょう」


 パトリシアさんが持っていた大きなスーツケースのようなカバンを預かって収納しておいた。


 あとは二人とも小物の入っているハンドバッグのような小さなカバンを持っているだけだ。良くは分からないが、女性なのでいろいろなものが必要なのだろう。


「それでは、そろそろ出発しましょう」


 『スカイ・レイ』は昨日から南の草原くさはらに出したままにしている。屋敷の中にいた連中も『スカイ・レイ』の前に集まって俺たちを見送ってくれるようだ。


「ショウタさま、アスカさまお気をつけて行ってらっしゃい」


 家令のハウゼンさんがみんなを代表していってくれたので、『スカイ・レイ』に乗り込みながら、


「行ってきます」と、軽く手を振っておいた。今日の王都の空は雲一つない晴天だ。この天気がルマーニまで続くことを祈ろう。




 艇内に入り、お客さま二人に対して、


「お二人は適当な場所に座ってください」


 そういって、前の方の座席に座ってもらい、ラッティーには、


「ラッティーは、今日も副操縦士席だな」


「エヘヘ」


 まだまだラッティーはお子さまだが、これが知らぬ間に大きくなってくるんだよな。などと世のお父さん的なことを考えてしまった。


 アスカの方を見ると頷いたので、


「ラッティー、いいぞ」


「『スカイ・レイ』発進!」と、ラッティー。


「『スカイ・レイ』発進します」


 噴気音ふんきおんが一段と大きくなり『スカイ・レイ』は上昇を始めた。


 そういえば、ちょっと前にフレデリカ姉さんも、副操縦士席に座って、今のラッティーと同じに『スカイ・レイ』発進! って言ってそうとう喜んでたなー。本人には言わないでおこう。



 おそらく、飛空艇に乗るのが初めてのエメルダさんの侍女のパトリシアさんが『スカイ・レイ』が上昇するにつれて、キャノピーから徐々に広がっていく王都をながめてかなり興奮してエメルダさんと何か話している。


 せっかくなので、アスカに、


「王都を一回りして、北上しよう」


「了解。『スカイ・レイ』王都上空を旋回後、街道を北上します」


『スカイ・レイ』は王都の上空を時計回りに一周して、そのまま、王都西門の前を南北に走る街道の上空を北上していった。


 俺にすればもう何度も見慣れた景色なので、じっと前を見ているラッティーの顔を見ているくらいしかすることはない。仕方がないので、またいつものように男のスチュワーデスになることにした。


「お二人とも、飲み物はいかがですか?」


 ワゴンを取り出し、その上に各種のジュースの入ったピッチャーを並べて置いてみた。本来なら、紅茶か何か出したいところだが、いかんせん俺にはそういったスキルがないので淹れたての紅茶は収納には入っているが、内輪ならまだしも、それをお客さまには出せないので、そのままにしている。


「ありがとうございます」


「お嬢さま、私がお注ぎします。ショウタさまも私が致しますので、お座りになっていたください」


 暇なので、男のスチュワーデスになったのだが、かえってパトリシアさんに気を使わせてしまった。まっ、そういうこともある。


 しばらく、俺も座ってゆっくりしていたのだが、気付けば、旅行準備などでここ数日あわただしい日々を送っていたのだろうエメルダさんたち二人はおとなしくなって居眠りを始めたようだ。ラッティーの方もよく見れば目を閉じて居眠りしている。三人に薄手の毛布をかけてやり、


「どうだ、アスカ、飛行の方は?」


「順調です。あと、4時間あまりでルマーニの王都ブレトに到着する予定です」


 アスカのこれが、いつもならフラグになるんだろうが、これだけ雲一つない青空の元、さすがに今回のルマーニまでの飛行は順調に続くだろう。と俺まで、フラグをおっ立ててしまった。この先大丈夫だろうか?





[あとがき]

再宣伝:

『幼馴染(おさななじみ)』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921948888 乾き目の方に。

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