第300話 ルマーニ

[まえがき]

とうとう、300話まできてしまいました。約75万字です。

ここまで、お付き合いいただきありがとうございます。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 思った以上に簡単かつ高速に万能薬を作ることができると分かったので、午後から万能薬を半日かけてできるだけ作ってやろうと頑張ってみた。


 休憩を挟みながらも頑張った結果、延べ3時間ちょっとかけて、ポーション瓶100本ほどの万能薬を作ることができた。これだけあれば、うちの連中に何かあってもすぐに対応できる。これでダメなら、まだ『エリクシール』がある。何でもかんでもエリクシールではなく、万能薬でできる限り対応して、それでもダメな時に真打登場しんうちとうじょうで『エリクシール』の出番とする運用方法が実用的だと思う。


 でき上った万能薬と錬金道具をアスカと二人で片付け終えたところで、


「マスター、ご苦労さまです。万能薬の効能を何とか実際に試してみたいですね。おそらく、切断された手足も再生されるのではないでしょうか」


「おそらくな」


「マスター、痛くしませんから、試してみませんか?」


「!?」


「いえ、冗談です」


まぎらわしい冗談はよしてくれよな。最近、アスカも冗談が多くなってきたような気がする」


「そうでしょうか?」


「気がするだけかもしれない。アスカはアスカなんだし、どっちでもいいけどな」


「?」


 こんどは、アスカが俺のいった意味が分からなかったようだ。俺にも分からないんだから当然だな。


「さて、今日は久しぶりに真面目まじめに仕事をしてしまった。そろそろ、いい時間だし風呂にでも入るか」




 いつものように一番風呂。


 湯舟にかっていると、女風呂に人が入って来た音がする。こちらもいつものようにアスカが入って来たのだろう。


 そういえば、坊主頭の俺にも、特殊な髪の毛のアスカにも関係ない話なのだが、こちらの世界での女性は、髪の毛が長くてサラサラの人はうらやましがられるそうだ。


 頭を洗う専用の石鹸せっけん、いわゆるシャンプーがないせいか、放っておけば髪の毛がごわごわになるので、かなり手入れに時間がかかるという話を以前聞いたことがある。ヨシュアの話では、王宮ではそれ相応の高級石鹸で頭を洗っているそうだ。それでもある程度の手入れは必要なうえ、正確な値段は分からないが、庶民では手の出ないくらい高価な物らしい。


 そういったものは、どこかの錬金術師が作っていてしかるべきものだと思うが、錬金術師が作ったしかるべきものが、いま王宮で使われている高級石鹸と考えれば納得である。とりあえず、その高級石鹸をうちでも用意できないか、ハウゼンさんに言っておこう。少々のお金で女性のご機嫌取りができるのならば安いものだろう。


 風呂から上がり、さっぱりしたところで、自室でしばらく落ち着いていたら夕食に呼ばれたので、下の食堂に下りていく。


 みんな揃ったところで、


「いただきます」


 今日の夕食は、予定通り、ヒレ肉のドラゴンステーキがメインで、しっぽの骨で出汁だしを取ったというコンソメスープが付いていた。あとは、無難に野菜炒めやハム、ソーセージといった物だった。野菜炒めには、ドラゴン肉が使われていたようだが、ハム、ソーセージは普通の物だった。


「この肉、いままで食べたこと有るかしら? 牛でも豚でもないわ。鶏でもないようだし何の肉かしら?」


「ちょっと変わった味だけど、柔らかくて食べやすいし、かかっているソースが絶品だわ」


「一体何の肉なんだろう?」


 いろいろ、ゴーメイさんが工夫してくれたようだ。


 何の肉かの答え合わせは後でゴーメイさんかミラに聞いてくれ。驚く前にちゃんと食べた方がいいと思うよ。



 俺が、まず口にしたのは、ドラゴンのテールスープ。やや茶色みがかったコンソメスープなのだが、お味の方は?


「おう、言葉に表すと、ザ・コンソメスープなのだが、どこか違う。サラサラのスープで濃厚ではないのだが、味にコクがある。うまく言葉に言い表せないのでただ『旨い』とだけ」


 体の芯まで温まる感じがするが、べつに体が暑くなるわけでもない。不思議な感覚だ。


 そして、俺も、ステーキを。確かにいつものナイフでも軽く切れる。一口分をフォークに突き刺してゴクリ。


「まったりとした食感。たしかに、んでいると独特の風味ふうみが口に広がる。これは人によっては癖になるかもしれないな。この、やや酸味のあるソースの中に溶け込んだ野菜のうまみがまた絶品ぜっぴんだ。さすがは、ゴーメイさん」


「マスター、無理して食レポはしなくてもいいんですよ」


 さいですか。黙って食べます。


「そういえば、アスカなら圧力鍋あつりょくなべって知っているだろ?」


「はい」


「圧力鍋で煮込にこんだら、ドラゴンのどの部位の肉でも柔らかくなるんじゃないか?」


「おそらくそうでしょう。鍋自身ははがね鍛造たんぞうして作ってやればそこそこの圧力に耐える鍋ができると思います。蓋部分と鍋部分の接触部にパッキンとして、ドラゴンの革が使えますから圧力も逃げにくいと思います。先日機関車用に安全弁を作りましたので同じ仕組みでちゃんとした圧力鍋ができると思います。ただ、この人数分の料理を作るとなると鍋自身はかなり大きくなるため重くなると思います」


「一人で持てないようでは洗う時なんかかなり困るよな」


「簡単に洗えるよう、内側の鍋部分と圧力に耐える外側部分に分けて造れば鍋部分はかなり軽くなるでしょうし、洗浄も簡単になると思います」


「そのうち、アスカの時間があるときにでも作ってくれよ」


「了解しました」



 そんな話をアスカとしていたら、


 ん? 何だか俺の前で食事するシャーリーの元気がないような気がする。


「シャーリー、どうかしたのか?」


「実は、エメルダさんが来週から学校を休んで実家の方に帰るそうなんです。片道だけで40日はかかるので、この学期は夏休みまで休学するそうで、留年りゅうねんする可能性が高いって」


「それはまたどうして?」


「実家のおばあさまの具合が良くないので、帰ってくるよう連絡があったそうです」


「片道40日だと、往復となると3カ月近くかかるから、仕方ないのか。それで、エメルダさんの実家はどこなんだ?」


「私も聞いてびっくりしたんですが、エメルダさんは北方諸王国の中のルマーニの王女さまだったんです」


「あれ、最近どこかしこで王女さまがいて出てくるな」


「マスター、冗談を言わないでください。ルマーニの正確な位置は分かりませんが、北方諸王国の中央の国まで王都から1500キロくらいですから『スカイ・レイ』なら6時間で行けます。人助けというわけではありませんが、エメルダさんを『スカイ・レイ』でルマーニに連れて行きませんか? きっとルマーニにはおいしいものがありますよ」


 何が目的なのかは人それぞれだから、別にいいんじゃないか。アスカなんだし。


「それもいいな。

 シャーリー、明日あした学校に行ったらエメルダさんに聞いてみてくれよ。明日はまだ、エメルダさんも学校に行ってるんだろ?」


「日曜日に王都をつと言ってましたから、明日はまだ学校に来ると思います」


「それじゃあ、明後日あさってにも『スカイ・レイ』で連れて行けるって伝えてくれるかな」


「ほんとうにいいんですか?」


「知らぬ仲じゃないし、問題ないよ。一度送り届けたら、いったん俺たちは戻って、エメルダさんがこっちに戻りたいときに迎えに行ってやればいいだろう。そうだな、できれば明後日あさっての朝にでもうちに来てもらえばいいな。朝出発すれば、遅くとも夕方までには先方に到着できるはずだから」


「ありがとうございます」


「そしたら、シャーリーも学校を休んで一緒に行くか?」


「いえ、私はエメルダさんの分もノートをとらなくちゃいけないので学校に行きます」


「シャーリーは偉いな。

 それじゃあ、ラッティーは一緒に行くか? 見聞けんぶんを深めるのもいい勉強になるんじゃないか」


「私がついていっていいの?」


 一応ラッティーの保護者に確認しておかなくちゃな。


「アスカ、ラッティーを連れて行っても問題ないだろ?」


「勉強の方ははかどっているようなので、数日お休みしても大丈夫でしょう」


「ラッティー、だそうだ。よかったな」


「楽しみー」



 結局、その日の夕食で出されたメニューで何の肉が使われていたのかは俺は言わなかったのだが、そのうち問い詰められたミラがみんなに教えたようで、食堂の中がいい意味で大騒ぎになってしまった。ドラゴンに限らず、もっといろいろなものがあるから次も期待していてくれたまえ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る