第299話 万能薬


 ボルツさんのところに旋盤せんばんとドラゴンの肉を届け、その足で、こんどは万能薬の作り方を教えてもらおうとアルマさんのところにまわった。


 いつものようにアルマさんの屋敷の門は開け放たれていたのでそのまま玄関まで進み、


「ごめんくださーい」


「はーい!」


 そういって、玄関の扉を開けてくれたのは、フレデリカ姉さんだった。


「ショウタにアスカ、どうしたの? アルマは王宮に行って留守だけど。まあ、がってよ」


 玄関を入ると、先日、アルマさんにとフレデリカ姉さんに渡したアスカの作ったミスリル製ドラゴン像が立派な台の上に置かれて飾ってあった。なかなかえる。


「この像、アルマがすごく喜んでたわよ。何かお礼をしなくちゃって言ってたけど、何か欲しいものある? そうはいっても、あんたたちには、あんまりそんなものはなさそうよね」


「日頃の感謝を形に変えただけですから気にしないでください」


「それじゃあ、アルマにはそう言っとくわ」


 そんな話をしながら、フレデリカ姉さんについて居間に入ってソファーに腰かける。


「それで、どうしたの?」


「実は、半年ほど前にヤシマダンジョンに行ってレッドドラゴンを採ってきたんですが、ドラゴンの素材が必要だったもので昨日きのう解体したついでに、その血を取り出したんです。どうもそのドラゴンの血は万能薬の素材みたいなんですけど、フレデリカ姉さんは、万能薬の作り方を知ってません?」


「こんどは、タダ・・のドラゴンなのね。それを採ってきたねー。驚かない、驚かない。

 あんたたちには何でもありだからいちいち驚かないわ。

 わたしも、エリクシールと違って万能薬については、はっきりとは知らないんだけれど、おそらく、エリクシールと同じように錬金板の上に蒸留器を置いて魔力で蒸留すればできるんじゃないかしら。エリクシールほど厳密げんみつなはずはないし、魔力も少なくて済むと思うわ」


「なるほど、分かりました。うちに帰って試してみます。それで、フレデリカ姉さん、解体したドラゴンの肉が大量にあるんで、食べてみませんか?」


「興味はあるけれど、おいしいものなの?」


「やや噛み応えかみごたえはありますが、まあまあいけるんじゃないですか。食べれば1日程度ですが、暑さや寒さの耐性が上がるようですよ」


「それじゃあ、試しにいただいてみようかしら。台所で出してくれる?」




 フレデリカ姉さんの後について、台所に行き、作業台の上に、バラ肉カルビとヒレ肉をそれぞれ、20キロくらいずつの塊を置いた。


「アイテムバックに入れておくから一応は問題ないけれど、随分ずいぶんな量ね」


「相手は、エンシャントドラゴンではないですが、それでもドラゴンですからそれなりに大きいんですよ。これでもかなり小さなブロックですから」


「そう言われればそうね」


「今はまだ小分けしていないんで、大きすぎてお出しできないんですが、ドラゴンの肝臓かんぞうもあるんですよ」


「ドラゴンの肝臓ならどこかで聞いたことがあるわね」


「そうでしたか。ドラゴンの肝臓は乾かして粉末にすると何かの錬金素材になるみたいでしたよ」


「そっちの方は、アルマなら知ってると思うわ。何せ生きてるからね」


「アルマさんがドラゴンの肝臓を欲しいようなら教えてください。小分けにして持ってきますから」


「小分けにしなけりゃいけないくらい大きいの?」


「3メートルくらいの塊ですから、庭でなら出して小分けできますが、ここでは出せないので、うちで小分けします」


「タダのドラゴンって言ってたから、なんだかドラゴンを甘く見てたわ」


「そういうことなので、そろそろおいとまします」


「あら、お茶も出さずに悪かったわね」


「お気になさらず。

 それじゃあ、アスカ、屋敷に戻って万能薬に挑戦だ!」


「はいマスター」


「気をつけて帰ってね。って、あんたたちには関係ないか。それじゃあ、さようなら」


「失礼しまーす」「します」




 二人で駆けて屋敷に帰ったのだが、まだ午前中なので錬金部屋ではヨシュアたちがポーションを作っていた。邪魔にならないように作業しよう。


 ちなみに、俺の収納の中には薬草などがまだ大量にストックされているのだが、需給がひっ迫しているなら別だが、最近薬草などがダブついているという話もあったため、このところ、外部から薬草を調達するようにしている。


 錬金部屋では、ヨシュアとマリアで、でき上ったポーションを瓶詰め機びんづめきで瓶に詰めているところだった。作業も慣れてきたせいか、随分手際てぎわが良い。


「ちょっと、俺たちも作業するから、そっちはそっちで気にせず作業を進めていてくれ」


「何かお作りになるんですか?」


「ドラゴンの血で、万能薬ができそうなんで、試そうと思ってな」


「こちらの作業は後は片付けだけですから、その様子ようすを見せてもらっても構いませんか?」


「もちろんいいぞ。

 それじゃあ、アスカ、こっちも始めようか。とりあえず、錬金板と蒸留器だな」


 作業台の上に、上級錬金板と蒸留器を置く、


 アスカが純水製造器からビーカーに入れてきた蒸留水で蒸留器を洗浄した。俺の方は、収納庫の中のドラゴンの血を、空いていた10リットルの大瓶に入れて作業台の上に出しておいた。


「マスター、まずは、エリクシールの時と同じように、ポーション3本分のドラゴンの血を蒸留器に入れて、それをマスターが魔力で蒸留して見てください。おそらく、エリクシールの時のような魔力量のコントロールは不要と思いますので、ある程度魔力の注入量が多くても問題ないと思います」


「それじゃあ、アスカ、蒸留器にドラゴンの血を入れてくれ」


 すぐに、計量機能付きのアスカが大瓶からドラゴンの血をビーカーに採って、それを蒸留器に入れてくれた。


「どうぞ」


「ようし、少しずつ魔力を注いでみるからな。アスカは蒸留器の中に残っている血の量を見ててくれ」


「了解です」


 それじゃあ、ちょっとずつ魔力を込めていくか。


 あれ、意外と簡単に湯気が立ちのぼってきたけれど、ずいぶんエンシャントドラゴンの時と違うな。


 もう少し魔力量を上げてみよう。


 沸騰ふっとうさせるとマズそうだから、様子ようすを見ながら、魔力量を上げていく。蒸留器の中はもくもくとしており、早くも蒸留器の先からは下に置いたビーカーの中に透明な液体がしたたり始めた。


 少し前に作業を終えて片付けも済ませたヨシュアとマリアが、俺が魔力を注いでドラゴンの血を蒸留するところをじっと見つめている。ちょっと、照れるじゃないか。


 と思い、横を見たら、二人とも万能薬の溜ってきたビーカーをじっと見ていた。世の中そんなものだ。


 様子ようすを見ながら魔力の調節をしていたので余分に時間がかかったが5分ほどで蒸留器に入っていたドラゴンの血が全て蒸留されたようだ。エリクシールを作った時と同じで、蒸留器の中には何も残っていなかった。


 アスカに残量を確認させる必要もなく簡単に蒸留できたのだが、できたものが何なのか一応透明な蒸留液の入ったビーカーを手に取り、鑑定。


「万能薬」

たいていの病気やケガ、状態異常を健康状態にする

見た目は透明。光にかざすと虹色に見える。


 『万能薬』がいとも簡単にできてしまった。光にかざして見たら鑑定結果にあったようにキラキラと虹色に透明液がきらめいて見える。こんな簡単にできてしまったがいいのだろうか?


「アスカ、できたみたいだ」




 アスカが、俺から万能薬の入ったビーカーを受け取り、空のポーション瓶に移したところ、ちょうど2本分の量があった。あらかじめ準備していた蝋付け機ろうづけきでポーション瓶に封をしてでき上り。


「マスター、ドラゴンの血、ポーション瓶3本分でポーション瓶2本分の万能薬ができました」


「ずいぶん、万能薬はエリクシールと比べてお得だな。魔力は俺の自然回復分以下だったようで、全く減っていない」


 でき上がった2本のポーションを、ヨシュアとマリアが一つずつ手に取って光にかざしたり振ってみたりして様子をみている。


「これが、万能薬。きれー」


「なんだか飲むのがもったいないような」


「必要な時はためらわずに飲まないとな」


 万能薬の効能を今のところ実際に試すことができないが、これならかなり楽に作ることができる。今回は、最初に入れたドラゴンの血の分量だけ蒸留したが、消費魔力は自然回復分以下なので、ドラゴンの血を追加しながら蒸留していけば、流れ作業的に万能薬を作れる気がする。うまくすれば、2分でポーション1本分、1時間で30本分の万能薬が作れそうだ。



[あとがき]

悲恋物『幼馴染(おさななじみ)』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054921948888 短いものなのでよろしくお願いします。


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