第292話 回転魔道具(魔導モーター)


 アスカの隠された一面といえば大げさだが、アスカに俺は影響をかなり受けていると思うが、どうもアスカも俺からかなり影響を受けているような気がする。


 これが良いことかどうかは分からないが、俺とアスカは一心同体いっしんどうたいなわけで、そんなもんだと思っておけばどうってことはない。


 勇者との立ち合いという名前の一方的なボコりのあと、レスター団長が恐る恐る、とうのアスカに向かって、


「エンダー殿、今日の訓練はここまでにしませんか?」


 と聞いてきた。


「それでは、訓練はここまでに致しましょう」


 アスカがそういうので、われわれはここまでで失礼することにした。俺自身何となくではあるが、心苦しいこころぐるしい面もあったので、騎士団に渡したポーションのうち余ったものはそのまま騎士団で使ってくれと置いてきた。一種の迷惑料めいわくりょうだな。


 うちの操縦士訓練生の四人は俺たちに挨拶あいさつした後そのまま訓練場で解散し、自宅に帰っていったようだ。




 翌日の午前中の操縦士訓練。


 訓練生たちの雰囲気ふんいきが何か昨日きのうまでと違う。ピリピリ感? 緊張感? そんな感じがある。昨日のアスカの押しかけ教官での最後の勇者へに仕打ちしうちが効いたのかな?


 訓練中、アスカが何か言うたびに、「はい!」と大きな声で返事をする。ここは軍隊ではないのだがな。


 騎士団の連中も含めて、見た目は美人のアスカが、実はおっかない人物だと改めて認識したのだろう。


 アスカによると、操縦方法は訓練生に対して一通り教えたそうなので、とにかく、ここからは反復練習だそうだ。同じことを何度も繰り返し、ペアーを変えて訓練していくだけだ。


 騎士団からの六名はこのままでいくしかないが、以前アスカに話したように、そろそろうちの方は、リディアたち四人娘を二グループに分けて、いまここにいる四人を二人ずつ各グループに配属して慣れさせておく必要がある。


 明日から、リディアたちもキルンへの飛行がなくていていればアスカフライトシミュレーターでの訓練に参加させるとしよう。





 その後リディアたちも交えたシミュレーター訓練を一週間ほど続けたあと、アスカが各員十分に連携れんけいも取れると判断したようなので、そろそろ実地飛行訓練を始めることにした。


『ボルツR2型』1号機、2号機の空いた時間を使い、リディアたちの中で空中勤務くうちゅうきんむのない連中を訓練教師として、実地飛行訓練を始めた。


 場所は、うちの屋敷の草地では狭くなるので、訓練場所を王都の西門の先の飛空艇発着場所に移し、朝の集合場所もそこに移した。これまでうちで昼食を出していたが、ここからは各人、弁当か近くの駅馬車の駅舎の食堂で昼食をとることになる。


 何といっても、アスカには悪いが、アスカシミュレーターより魔石をふんだんに使った飛行訓練の方が訓練効率も高いため、みるみる新人たちの技量ぎりょうは向上していき、順調に操縦士訓練生たちは仕上がって行った。


 俺とアスカは訓練にはたまに顔を出す程度でよくなり、操縦士訓練からほぼ解放された。その間、鉄道ヤシマ線の駅舎えきしゃの形もできてきたので、工事の邪魔じゃまにならない範囲で駅舎内へのレールの敷設や、複線化したことによるポイント部分の設置なども行っている。


 もちろん、この期間に騎士団の方から、訓練を要請されることは一度もなかった。それは、あたりまえか。



 そして、魔法陣技師のベルガーさんのところにもアスカともども顔を出して、完成した回転魔道具を見せてもらった。いわゆる通信関連のほうはまだ検討中だそうだ。


「ほう、これが回転魔道具ですか?」


「はい、実物を簡単に最初作ってみたのですが、おもちゃのようなものしかできませんでしたので、やはり専門の魔道具工房に作らせました」


 ベルガーさんが見せてくれた回転魔道具は、直径で30センチくらい、前後の長さが40センチくらいの円柱形をしたもので、中心軸から太めの鋼材で作られた丸棒が突き出ていた。まさにモーターだった。


 動作原理どうさげんりも、磁石とコイルの代わりに、魔力が流れ込むと互いに反発する魔法陣と引き合う魔法陣の組み合わせを、回転体側と筐体きょうたい側に取りつけ、回転体の回転軸の位置で、どちらかの魔法陣に魔力が流れ込むようになっている。まさに魔導モーターという代物しろものだった。魔法陣それ自体は俺などでは全く理解できないが、でき上がりはまさしくモーターなので、使い方は無限にある。


「これはすごいです。これに、いろいろな動力伝達部品を取り付ければいろいろなことができます。

 アスカ、どうだ?」


「これなら、いろいろなことができるでしょうが、最初の予定通り、旋盤せんばんなどの工作機械こうさくきかいを作りませんか?」


「そうだな」


「あのう、旋盤せんばんとか工作機械こうさくきかいとは、どういったものなのでしょうか?」


「まず、工作機械というのは、機械部品を作る機械のことをいいます。そういった意味では、ヤスリやタガネなども原始的な工作機械といってもいいでしょう。旋盤というのは、回転魔道具などを使って、金属の棒などを軸に沿って回転させて、固定した金具で削ることで、きれいな丸棒や、ネジを作る機械のことです。またフライス盤といって、金具自体を動かして、金属を削って、歯車はぐるまなんかを作る機械などもあります」


「ほー、それはすごいですね。いまは、ハンマーでたたいてそれからヤスリで磨いて機械部品を作っていますから、かなりの人手と時間がかかりますが、そういったものができれば精度や速度が向上しそうです」


「ですので、この回転魔道具はそれだけ素晴すばらしいものだということです」


「なるほど、わかりました」


「と言うことですので、ベルガーさん、この回転魔道具を私に譲っていただけませんか? 代金はお安いかもしれませんが、大金貨5枚ほどではいかがでしょう?」


「いえいえ、これはショウタさんにお渡ししますが、お代はいただけません。これはあくまでも先日のミスリルのお礼として作ったものですから」


「そうですか。分かりました。それでしたら、遠慮なくこの回転魔道具をいただきます。できれば、もう一台この回転魔道具を作っていただけませんか? 今後は無料という訳にもいきませんので、一台当たりいくらくらいで作っていただけますでしょうか?」


「あのう、魔法陣の方は、ミスリルを大量にいただいていますので、私の手間賃分。それも、いまでは、型もありますので、5分もあれば、魔法陣を一組作ることができます。魔道具工房に払った手間賃は部品代を含めて金貨1枚です。金貨2枚ではいただき過ぎなので、金貨1枚と小金貨2枚でけっこうです」


「分かりました。ミスリルについては差し上げたものですから、代金に含めていただいて結構です。ミスリルの値段が良くわかりませんので、きりの良いところで、大金貨1枚ということどうでしょう?」


「何で8倍以上になるのか、高すぎると言っても意味がなさそうですから、それでよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。そういうことなので、先ほども言いましたが、もう一台この回転魔道具をご用意いただけませんか? 今の一台で旋盤を、もう一台で先ほどお話したフライス盤というのを作りたいのでよろしくお願いします」


「これと同じでいいなら、すぐにできますので、でき次第お二人のお屋敷にとどけます。魔導加速器をお送りした住所でよろしいですよね?」


「それでお願いします。代金はベルガーさんの商業ギルドの口座に振り込んでおきます」




 そんなふうにして、回転魔道具をベルガーさんから仕入れることができるようになった。今回手に入れたこの回転魔導具で、さっそく旋盤を作るとアスカが言っていた。


 あと回転魔道具では言いにくいので、俺とアスカの間では、魔導モーター、ないしはただのモーターと呼ぶことにした。





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