第291話 アスカ対勇者ヒカル、手合わせ?
「コダマ子爵と私はいつも
「ほう、俺と勝負したいのか? いいぜ」
そういって勇者ヒカルは、手に持った訓練用大剣を構えた。
先ほどの二人の試合を見ていた時は、相手は相当の実力者だと認識できていたはずなのだが、すでに頭の中からそういったものは消し飛んでしまっているようだ。
「ありがとうございます、せっかくなので、訓練場の真ん中で手合わせしましょう」
アスカはそう言い残し、そのまま訓練場の真ん中に向かって戻ってきた。勇者ヒカルも、手合わせすると言った手前、
訓練場の脇で先ほどまで
第3騎士団ではレスター団長だけがいま訓練場の真ん中に出てきた目つきの悪い若い男が本物の勇者だということを知っていたが、思わぬ展開に今のところどうすることもできないので、彼も成り行きを見守ることにしたようだ。
アスカとの立ち合いという名の
訓練場の中央では、大剣を中段に
構えているとはとても見えない。
「構えなくていいのか?」
「
「なにを! 後でほえ
そう言って、大剣を振り上げる勇者。
勇者ヒカルが大剣を振り上げ、一歩前に出ようかというその瞬間、アスカが二歩前に出て、右手の木刀の先端をちょうど振り上げられた大剣の
その状態で、木刀の先端が押し当てられてしまうと、相手が一般騎士程度であっても、いかな勇者でも振りかぶった武器を振り下ろすことはできない。まして、相手はアスカだ。勇者の大剣を片手で封じた状態で、アスカが左手の木刀を突くなり払えば勝負はついてしまう。実際の戦闘では、これだけの速度差がある以上、そんなことをする前に、最初から首を狙うだけで勝負はついているはずだ。まさに圧倒的なスピードと技量の差。
「うっ!」
重い大剣を両腕で振り上げて体が上に伸びきったところで身動きできなくなった勇者に対して、空いた左手の木刀を使うでもなく、軽くアスカが足を払う。
そのまま、
「さぁ、どんどんいきましょう」
アスカはそういって、勇者が立ち上がるのを待っている。
試合であれ戦闘であれ、転がった相手に対して
その場で、勇者が素早く起き上がる。
勇者はアスカをにらみつけながら、起き上がったとたんに、転がされても手放さなかった大剣で突きを入れてきた。相手が素人なら通用するかもしれないその突きも、ある程度の人間ならだれでも対応できるくらいの
アスカがどういった対応するのか見ものだ。
いったん、大剣での突きをかわしたアスカは、突き出された大剣の
たったそれだけで、勇者は体勢を崩して転がってしまった。
見た目、一般騎士団員と同じく転がってしまったわけで、ギャラリーたちも、あまり騒がなくなってしまった。
アスカは、また、双刀をだらりとさせて勇者の立ち上がるのを待ちながら小声で、
『実力のある人間しか
「何をー!」
真っ赤な顔をして訓練場の土で汚れた勇者が立ち上がったのだが、そのとたんにアスカが詰め寄り、軽く足払いしたので、またも勇者は訓練場の硬い土の上に転がされた。
「くそー!」
『勇者に選ばれてしまったばかりに、不幸になってしまった
そういって、また立ち上がりかけていた勇者を足払いで転がしてしまった。今度は地面に顔から突っ込んだようだ。
さっきアスカに『勇者たちに対して
しかし、多くのギャラリーが今ではしーんとして物音も立てていない。そろそろやめた方がいいかもしれない。
おっと、見るにみかねたレスター団長がこっちにやって来た。
「エンダー殿、彼に対してはその程度でよろしいんではないでしょうか?
おーい、だれか?
担架が必要なほどというか全くケガなどしているとは思えないが、退場の仕方として、レスター団長が担架を用意させたのかもしれない。勇者はそのまま担架に乗せられてどこかに運ばれて行った。
担架を見送ったアスカは俺の方にやって来て、
『勇者に何かあって「魔界ゲート」に対処できなくなったとしても、マスターが収納してしまえば済みますので影響は限定的です』
『そういえばそうだが、今のはちょっとやり過ぎじゃなかったか? 騎士団の連中もうちからの四人もかなり引いていたぞ』
『私はマスターがこちらの世界に呼ばれる以前までの記憶だけしか取り込んでいないはずなのですが、なぜか少し熱くなってしまったようです。ですが、あまり気にすることなないでしょう。ただの訓練で転がしただけですから』
こちらは勇者ヒカル。
いったいどうなってるんだ? さっきの女は何者だ? 最近はギリガン総長とのうち合いにも何とかついていけるようになったというに、手も足も出ないとかいう以前の差があった。明らかにあの女はギリガン総長を越えている。あんなヤツがいていいのか?
あの女の名前はなんていったかなー。
勇者ヒカルは自分でもかなり覚えが悪くなっていると自覚はしているのだが、先ほど戦った相手の名前をすでに忘れてしまっていた。
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