第282話 コダマ・エンダー製作所?


 ボルツR2型2号機の試験飛行が無事終了した。その後開かれた宴会えんかいは日暮れにはお開きになったのだが、ダウンした訓練生たちは、何とか乗合のりあい馬車で宿舎や自宅に帰ったようだ。


 次の日、訓練開始時間までには全員そろったが、中には二日酔いなのかとても訓練を始められる雰囲気ふんいきでない者もいた。


「マスター、体調の悪そうな者にはキュアポイズンポーションを飲ませて、さっさと回復させましょう」


 その手があった。さっそく、『キュアポイズン、 ランク2』のポーションを体調の悪そうな者に配ってやったら、それを飲み干した訓練生たちは一瞬でシャキッと回復してしまった。


 これ、元の世界で売り出せたら相当売れるんじゃないだろうか。というか、こっちの人たちは、二日酔いは毒が体内に入っている状態であると言うことを認識できていないのだろうか? 『キュアポイズン、 ランク2』などそんなに高価なポーションじゃなかったはずだが。


 訓練生にそこら辺のことを聞いてみると、『キュアポイズン、 ランク1』を飲んで何とかここまでたどり着いたそうだ。『キュアポイズン、 ランク2』となると、冒険者がギルド証を見せて購入すればそこそこの値段で購入できるが、ギルド証がないと、それなりに高価だということだった。ということで、つらいながらもみんな何とかここまでやって来たらしい。


 そういった感じで、結局その日もいつも通りの訓練を午前中行った。




 俺の方は、アスカたちが訓練をしている間、訓練風景を見物したり、最近自習ばかりのラッティーのところに顔を出したりしている。最初のころ、自習中のラッティーに、


「どこか、わかんないところがあるか?」


 と気楽に聞いたのだが、ここをもう少しくわしく教えてほしいと聞かれたので、


「歴史なんかは俺じゃ分かんないからな」


 とことわりつつ、ラッティーの指し示す受験用問題集を見ると、算数の問題だった。


 さすがに現代日本の義務教育を受けている身とすれば、算数なんぞちょちょいのチョイだと思って問題を見ると、なんと鶴亀算つるかめざんだった。


 AとかBとか、XとかYとか使った連立方程式れんりつほうていしきで解くと簡単な問題も、算数で解くとなると、とたんに難しくなる典型問題だ。ああでもない、こうでもないと四苦八苦しくはっくして、どうにか答えだけは出せたものの、それ以降ラッティーはお受験関連で俺に質問することはなくなった。せぬ。そういえば、ヨシュアたちも、大陸一、二の大錬金術師さまの俺には、錬金術のことを聞いてこないんだった。



 その日の午後も、アスカは訓練生たちの面倒めんどうを見ているので、俺だけ所在しょざいなく居間でくつろいでいると、商業ギルドから使いの人メッセンジャーがやって来て、封筒に入ったメッセージを手渡された。開けてみると置時計が二台、大金貨各10枚で手に入ったとの知らせだった。どのような経緯けいいで置時計が手に入ったのかは分からないが、俺の爆運ばくうんが噴火したのか、何らかのが働いたのだろう。


 二台とも屋敷に運んでもらうことと、支払いは、俺の商業ギルドに持っている口座から引き落としてもらうようこちらからは言伝ことづてておいた。


 これで、こちらでは何時何分といった話がしやすくなるし、冒険者学校でも、10分後に集合とかいろいろ重宝ちょうほうするだろう。


 こうなってくると、本格的に暇になってしまった。さーて、これから何をしよう? アスカがいないと面白そうなことは何もできないし、困ったな。明日あした、置時計が届いたら、二台あるうちの一台をペラのいる冒険者学校に届けるくらいしかすることがない。


 うーん。


 そうだ! この前、ベルガーさんがいうには、回転する魔道具を作ることは何とかなるという話だった。その際は何も考えていなかったが、


 俺が、その先を考えてみようじゃないか。


 一応、俺のいた世界でモーターで動く物はたいていの物が、回転する魔道具さえあれば性能はどうあれ作れるわけだから、夢がふくらむ。


 まずは、自動車。これは、馬車もあるしそこまで必要と思えるものではない。


 これからある程度暑くなってくるから、冷房なんてどうだろう? あれはたしかコンプレッサーをモーターで回して、空気を圧縮してその後何とかすると冷たい空気ができるんだったような気がする。残念でもないが日本にいた時と違ってここでは湿気もそこまで上がらないようだし気温の方もそこまで高くならない。着ている服を加減するだけでここの夏は過ごせるから、これも差しあたり急ぐべきものではなさそうだ。そのかわり扇風機せんぷうきはアリかもしれない。いや、扇風機は良さそうだな。換気扇かんきせんにもなるし。


 あと、洗濯機せんたくきもいいかもしれないな。今はたらいに水を張って、そこでごしごし洗っているようだから、これは重宝ちょうほうしそうだ。一押いちおしだな。


 生活で必要なものはそこそこあるのだろうが、これからのことを考えると、金物をけずって加工する、旋盤せんばんやフライスばんなんかがあると格段に機械の性能が向上するような気がする。うちにはアスカ印の万能工作ばんのうこうさく機械があるので必要ないが、一般の工房ではかなり重宝するだろう。


 アダマンタイトもあるので切削せっさく金具はかなりのものが用意できるはずだ。今回置時計を大金貨20枚で購入したが、フライス盤があれば、金属歯車なども容易に作れるわけだから、かなり値段が下がっていくだろう。


 そのうち大掛かりな工房でも立ち上がてみるか。そうなってくるともはや工場だな。コダマ・エンダー製作所。いや、マスカレード製作所か。グフフ。名前はどちらでもいいが、なかなか面白おもしろそうじゃないか。


 そうと決まれば、まず第一歩として、ベルガーさんの囲い込みだな。アスカの仕事が終わったら二人でそこら辺をめていこう。



 操縦士訓練はだいたい4時ごろ終わるので、アスカはその後、食事までに入浴する。俺もだいたいアスカと同じ時間に入浴することが多い。


 今日も、俺が男風呂の一番風呂に入っていると、隣の女風呂に誰かが入って来た。この時間に女風呂に入るのはアスカしかいないので、仕切り越しに話をすることがよくある。今日も湯舟ゆぶねにつかりながら、


「おーい、アスカ?」


『マスター、何でしょうか?』


「訓練の方はどうだった?」


『操縦法については教え終わりましたので、これからは反復練習で慣れていくだけです』


「そいつは良かった。少し話は変わるんだけどな、明日あした置時計が商業ギルドからここに二台届けられる。最近顔を出していないので一台は俺がペラのところに届けてくる」


『そうですか。明日の昼食時なら私もご一緒できますが』


「行って帰って1時間半はかかるけれど、訓練にあまり影響ないようなら一緒に駆けていくか。時間がかかるようなら途中で『スカイ・レイ』を出してもいいしな」


『そうですね』


「それとはまた話は変わるけど、昼からちょっとベルガーさんのことで考えたことがあってな。回転する魔道具というのは要するにモーターなんだと思って、それで何ができるか考えていたんだ」


『それで、マスターはどう考えたんですか?』


「いろいろな電気製品を頭に浮かべたんだが、一番必要なのは工作機械こうさくきかいじゃないかと思うんだ。アスカはどう思う?」


『私自身には工作機械は必要ありませんが、一般の工房でそういったものがあれば格段に作業効率と精度が上がるので、一気に産業基盤さんぎょうきばんの向上につながるのではないでしょうか。問題は安定的に魔力が供給できるかどうかだとは思います。いま魔石の供給もそれほど余裕はないようですし、個人で魔力の多い人といってもマスターほどの個人などいないわけですから』


「なるほど、要は冒険者の数も増やしていく必要があるってことか」


『この世界の地下資源がマスターの世界ほど豊富なら、電気やガス、石油といった選択肢せんたくしも出てきますが、地下資源がこの世界ではあまりに貧弱なためそれができません。残念ですが、この世界の発展は魔石の供給量きょうきゅうりょう次第しだいだと思います』



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