第281話 試験飛行2


「それじゃあ、アスカが先頭になって走ってくれ。俺は後ろから走って、遅れる者がいたらそっちの面倒めんどうを見てやるから」


「了解しました。

 それじゃあみんな、二列縦隊であまり道に広がらないように付いてこい。出発!」


 訓練生たちが、玄関前からザ、ザ、ザ、ザと玉石たまいしを踏みしめて門の外に出ていく。


 通りに出ると、馬車や一般の人が歩いているのだが、アスカの姿を認めるとちゃんと脇にどいてくれる。王都在住の方々に多大な迷惑めいわくをかけながらも全く気にせず走り回っていたことがむくわれた思いだ。


 かなりアスカは走るスピードを抑えているようで、この分だとボルツさんの工房まで、一時間近くかかりそうだ。その程度なら、今回の試験飛行にかかる時間は一時間もかからないだろうから別にかまわないけどな。


 屋敷を出てまだ5分。騎士団からの派遣組はけんぐみ六名が前を走り、うちの四名が後ろを走っているのだが、アスカを含めた先頭集団七名と、第二集団、俺を含めた五名との間に、距離があき始めた。やはりこういった訓練をしたことのない者にいきなりランニングをさせることには無理があったようだ。


 10分経過。


 先頭集団と第二集団の差は20メートルほどになってしまっていて、なおもその差が開きつつある。アスカも分かっているはずなのだが全く走るペースを変えない。


 うちの四人はお互いにはげましあいながらも必死に頑張がんばっているのだが、こういったものは気持ちでどうなるわけでもないので、差は開くばかりだ。


 仕方しかたがない。うちの四人についてはスタミナポーションでドーピングするしかないようだ。


 収納からスタミナポーションを取り出しながら、うちの四人に順番に手渡して、それを飲むように言う。


 一人ずつ手にしたスタミナポーションを何度かに分けて飲み終わると、明らかに動きが軽くなったようで、四人ともすぐに先頭集団に追いついてしまった。


 と、思ったらそのまま騎士団組を追い越してしまった。


 渡したポーションが少し高品質だったのか? アスカは前の六人を追い越したうちの四人のスピードに合わせて速度を上げたので、アスカが追い越されることはないが、騎士団派遣組はけんぐみが、素人しろうとに負けてはならじとさらにスピードを上げてうちの四人を追い上げてそのまま追い抜いてしまった。


 今度は、アスカが騎士団の連中に合わせてさらにスピードを上げた。結構なスピードが出ている。だいたい、毎朝俺たちが屋敷の周りを走っているスピードくらいは出ていると思う。このスピードだとあと30分もすればボルトさんの工房に到着しそうだ。


 通りを行き来する人や馬車に乗った人から見たら、十二人もかなりのスピードで通りを走っているわけで相当邪魔じゃまだろうと思う。


 俺とアスカ二人で駆けてる時は軽いステップで駆けていたので、あまり威圧感いあつかんはなかったと思うが、今は、


 ズド、ズド、ズド、ズド。


 石畳いしだたみの上に駆け足の音が低く響いている。並んで走っているためか足並あしなみがそろってしまっているため、足音がその分大きい。


 ポーションドーピングの甲斐かいもあり、うちの四人は何とかそのままのスピードで走り続けることができたのだが、騎士団のうち、食後自分の腹を見ていた二人ほどが、横腹よこばらを押さえながらかなり苦しそうに走っている。それでもさすがに選ばれたエリートだけあって、遅れずに走り続けているところは感心した。


 そんなこんなで、それから30分ほど走り続け、結局脱落者だつらくしゃを出すことなくボルツさんの工房前にたどり着くことができた。



「よーし、みんなよく頑張がんばった」


 ハーハー、ゼーゼーと体をかがめて息をしている訓練生に対していつも通りの口調でアスカが一応はめたようだ。


 訓練生たちの呼吸が少し落ち着くのを待って、工房の中に入ると、工房内から直接飛空艇が飛び立てるよう、すでに工房の屋根は取り払われ、開けられる扉や窓は全て解放されて、工房内部も魔導加速器の噴気ふんきで物が飛び散らからないよう整理されていた。


「ボルツさん、少し遅れましたが、よろしくお願いします」


 後ろの方で、訓練生十名がまだ肩で息をしている。その様子にボルツさんも驚いていたが、そこはスルーして、


「待っとったよ。えーと後ろの人たちは、ショウタさんところで訓練してる操縦士の見習いやね」


「せっかくですから、訓練生たちにも試験飛行に付き合わせてやろうと思いました」


「そらええな。そしたら、うちに来とる整備の六人も一緒に乗っけてくれんかな?」


「ええ、もちろんいいですよ。うちの方が十名、こっちが六名で、全部で十六名なので問題ありません」


「それじゃあ、さっそく始めてもらえるか? おーい、整備士見習いのみんな、飛空艇の試験飛行始めるさかい、飛空艇に乗ってもええでー」


「おおー!」


 白い作業服を着た連中から喚声かんせいが上がった。整備士だとこれから先あまり乗る機会はないだろうから、彼らにもいい経験になるだろう。



 アスカと俺が、正副操縦席に着席し、残りの十六人が席に着いたことを確認して、


「現在午後2時00分。離陸試験始めます」


 魔導加速器が起動し、足元のゆかがやや振動する。


 徐々に、足元から伝わる振動と音が大きくなっていく。


「メイン魔導加速器、出力100%、110%、『ボルツR2型2号機』離陸します」


 『ボルツR2型2号機』は見学者十六名を乗せて過荷重かかじゅう状態だったが問題なく離昇りしょうした。


 そのまま、飛空艇は上昇を続ける。


 カタカタカタと音を立てて着陸脚が収納される。


「高度、200、250、……、1200、……、1750、1775、1800。上昇試験、最高高度確認。次は巡航じゅんこう高度に戻して水平速度試験を行います」


 そのまま、上昇限度の高度1800メートルまで上昇した『2号機』は巡航高度である1200メートルまで高度を下げ、そこから水平速度試験のため、徐々に加速し始めた。


「メイン魔導加速器、出力上げます。20%、30%、40%……100%。巡航速度300キロで安定しました。設計通りのようです。高度を1500まで上げ、最高速度を確認します。

 高度、1250、1300、……、1500。

 さらに加速します。メイン魔導加速器、出力110%、120%。速度400キロ。最高速度確認しました。速度を落とし、旋回せんかいして帰投きとうします」


『2号機』は試験を終え、ボルツ工房上空からゆっくり、工房横の空き地に無事着陸した。


「ボルツさん、試験飛行は問題なく成功しました」


「ショウタさん、アスカさん、ありがとうな」


「それでは、ボルツR2型2号機の完成を祝って、そろそろ宴会えんかいを始めましょう。料理、お酒、いろいろ取り揃えて持って来てますから期待しててください」


「いつも、悪いな。ほな、みんなー。宴会やー!」


「わー!」


 そこからはお察しの展開で、みんな和気わきあいあいと日が暮れるまで飲みかつ食べて、親交を深め明日あすからの英気えいきを養っていた。そして、俺とアスカを除いて、うちの未成年の四人を含めてみんなダウンしてしまっていた。


 あすの訓練は、午後からかもしれないな。一日くらいはいいだろう。


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