第280話 試験飛行1

[まえがき]

2020年9月30日

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 昨晩きのうのばんは、思いがけなくも、俺の誕生日をみんなに祝ってもらった。何気なにげにアスカは気が付くというか、気が利くというか。まあ、ありがたいことではある。そういえばアスカの誕生日はいつなんだろ?


「私は自分の自我じがが生まれた日付は覚えていますが、誕生日がいつなのかはわかりませんので、来年から私の誕生日は、マスターの誕生日と同じにします」


「それは、便利だなと言っていいのか悪いのか、コメントに困るな」


「そうでしたら、この際、孤児奴隷のみんなの誕生日も気持ちの上で、マスターの誕生日と同じにしてしまいましょうか? そうすればみんなで一緒に祝えます」


「それは、いいかもな。来年からそうしよう。アスカ、覚えておいてくれよ」


「了解しました」





 そういった会話をアスカとしたあと、今日の訓練をこれから始めようかというところで、ボルツさんのところから、使いの人メッセンジャーがやって来て『ボルツR2型』2号機が完成したとの連絡が入った。


 午後からでも試験飛行可能ということだったので、午前中の訓練を終えて昼食をとったら、操縦士研修生たちもボルツさんの工房に連れて行って試験飛行に立ち会わせることにした。


 試験飛行の後はどうせ宴会になることは分かっていたので、宴会料理えんかいりょうりや飲み物などはすでに収納庫の中に用意している。今回は、訓練生たちも参加するだろうから参加人数が多くなるが、宴会料理以外でもいろいろ食べ物は収納の中に入っているので問題ない。


 宴会はいいとして、ボルツさんの工房までの足をどうしようかと悩んでしまった。騎士団からの六名なら屋敷から駆けて行っても問題なさそうだが、うちの四名にはきつそうだ。だからといってうちの馬車に乗せるのもなんだか違うので、


「マスター、どのみちうちで雇った四人は、これから先体を鍛えていく必要がありますから、最初の体力づくりということで、軽く流して駆けて行きましょう」


 アスカのその一言で、訓練生十名と俺たち二名、十二名のランニングが決定してしまった。普段ふだん走り慣れていないうちの四人には相当きついと思うよ。


 休み休み走ってもいいけどな。俺が一番後ろを走っていった方がいいだろう。まあ、収納の中にはタオルなどもあるし、各種ポーションも大量に取り揃えているから大丈夫だろう。


「みんなー、新しい飛空艇『ボルツR2型2号機』が完成したそうだから、昼食のあと少し休憩したら、みんなで試験飛行に向かうぞ!」


「うおー!」「やったー!」



 この時点ではここから駆けていくとはだれも思っていないので、うちの四人も含めてみんなはしゃいでいる。


「騎士団用の飛空艇は、これから建造する『ボルツR2型3号機』だからまだ3カ月近くかかるぞ。その間には、操縦できるようになっているから安心しろ」


「うおー!」「頑張るぞー!」「イェー!」「あたしでも大丈夫かな?」


 みんなそれぞれ思いはあるよな。頑張れ! そのまえに、今日の試練を乗り越えないとな。


 そんな中で、またいつものようにアスカのフライトシミュレーターで訓練する面々。かなり模型の飛空艇の動きもスムーズになってきているのは確かだ。


 ……


「よーし、午前中はここまで」


 アスカの言葉で訓練生たちが昼食のため屋敷に入って行く。


 俺も見ているだけではつまらないので、飛空艇の操縦訓練をみんなと一緒にした方がよかったかな?


「マスターには、私が常についていますから、飛空艇の操縦は不要だと思います」


 俺といつも一緒にいるアスカは、操縦には二名必要な飛空艇を一人で操縦できるわけだから、俺が中途半端に半人前の操縦ができても何も意味ないか。


 しかし、ここのところ、アスカは俺の心を読んでいるのか? それとも俺が無意識むいしきに思ったことを口に出しているのか?


「マスターは良く独り言ひとりごとを言っています」


 そうでしたか。気付きませんでした。


「また口に出ていましたよ」


「あれれ?」 いまのは自分でも口から出たのが分かった。俺はこれからどうすればいいんだ? 女の子の前なんかで滅多めったなことを考えてしまったら大ごとになっちゃうぞ。


「心配いりません。その時は私がマスターを抱えて逃走しますから」


 ありがとうございます。その時はよろしく頼むよ。


「任せてください」




 日本の海上自衛隊ではないが、うちでは週に一度カレーの日を設けている。今日はカレーの日だったようで、訓練生たちが嬉々ききとして、カレーのお替わりをしているのだが。午後からのランニングは大丈夫なのだろうか? いまは、何も知らず、思うまま食べたいだけカレーを食べてくれ。


 ……


 そして、応接室での食事が終わり、訓練生たちはみんなお茶を飲みながらくつろいでいる。


 そこで、アスカの事務連絡が始まった。


「もう少し休憩したら、飛空艇のあるボルツ工房に向かうからそのつもりでいてくれ。なるべく走りやすい格好の方がいいぞ」


「すみません。あのー、走りやすい格好かっこうというのは?」


「ここから、ボルツ工房まで走っていくからな。なーにそんなに遠くはないし、ゆっくり走るから大丈夫だ」


 今の一言で明らかに部屋の中の雰囲気ふんいきが変わった。自分のお腹を見ている者もいる。


「マスター、訓練生たちの荷物はどうします?」


「試験飛行の後は宴会えんかいの予定だから、向こうで解散するしかないな。荷物は俺が収納して運ぶからそこらにまとめておいてくれ」


「みんな聞こえたと思うが、そういうことだから、荷物があるものは部屋の脇に置いてくれ」


 ……


「そろそろ、いい時間だから、出発するぞ。玄関前に整列!」


「はい!」


 今のところ返事はいい。今のところはな。


 訓練生たちが、ぞろぞろと玄関前に歩いていく中、俺は、部屋の隅にまとめられた訓練生たちの荷物を収納して、みんなの後から玄関を出た。




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