第279話 予定の確認。おめでとう
「騎士団からこっちに来ている訓練生の連中はどうだい?」
列車の試験運転という名の
「うちで雇った新人四人も含め、問題なく操縦は上達しています。騎士団からの六名は、うちの四人と比べ格段に体力もあるので、もう少し訓練すれば
「さすがは騎士団というところか。うちの四人もそれほど急いでいるわけじゃないけれど、ぼちぼち体力をつけさせていこう。マズければ、最初のうちはスタミナポーションのドーピングもありだろ?」
「副作用はないようですが、ポーションがないと元気が出ないようになってしまうと問題ですのでポーションはあまり使わない方がいいかもしれません」
「それもそうか。
そうだ。いま、リディアたち四人は適当に四人の中で二人組を作って回しているようだけれど、新しい四人がものになったら、リディアとアメリア、エカテリーナとマリナの二チームにして、その中に新人を二人ずつつけて二チーム、飛空艇二隻体制にして見るか」
「それは、良い考えだと思います。最初のうちは新人の
「ありがとう。そういえばボルツさんのところに行っている整備士見習いの連中はどんなものかな?」
「ボルツ工房では『ボルツR2型2号艇』を完成させたあとで、騎士団用の3号艇に取り掛かるのでしょうから、整備士コースの六名もでき上りを最初に見た後、飛空艇建造工程の最初から関われるわけですから、ちょうど良かったんじゃないでしょうか」
「そうか。そいつは良かった。当面しなくちゃいけないことは、操縦士の訓練と、明日あたり、フォレスタルさんが屋敷に
そんな話をして、その日は終えた。
翌日。
約束通りフォレスタルさんが駅舎の図面をもって屋敷にやって来た。小応接室で俺とアスカで説明を聞いたのだが、
先日アスカが要件を伝えただけで、これまで鉄道駅など見たことがないはずのフォレスタルさんが作った図面は、ちゃんと列車がどのような機能で、どのように動くものなのかをきっちり抑えた図面だった。
今回は貨物駅だったため、荷馬車から貨車への荷物の載せ替えのため、積み込み場を線路より一段高くすることで重量物を持ち上げる高さを押さえていた。要は何も言わなくてもフォレスタルさんは駅のプラットフォームを思いついたようだ。
事前に、アスカの方で機関車と貨車の
最終図面は明後日になるそうだが、こちらとしては、このまま駅舎の建設を進めてくれて問題ないと伝えておいた。内装など必要ない建屋のため、着工後、王都南門前駅とヤシマ前駅、二棟合わせて一月半ほどで完成するということだった。
フォレスタルさんはいつものように説明が終わったらすぐに帰り、アスカも操縦士の訓練に戻って行ったので、俺自身は何もすることが無くなってしまった。
シローはシャーリーの部屋にいるらしく今はおとなしくしている。
うーん。仕事が一段落したら、ゆっくりしようと思っていたのだが、どうも落ち着かない。まさにワーカホリック。こんな俺に誰がした? それは、どうでもいいけどね。
そういえば、俺がこの世界に呼ばれて来月で丸一年か。ずいぶん昔の出来事のような気がするが、まだそんなものだった。あれ? そういえば俺の誕生日はもう過ぎてたかな? というより、今日じゃん。俺もとうとう17歳か。失念していたわけではないが、こっちのみんな、特に孤児奴隷のみんなは誕生日を覚えてはいるがそれを祝うということはないそうだ。
裕福な家庭では子供が一年間無事に成長しましたということで、5歳くらいまで毎年祝うこともあるそうだが、一般家庭では、まさにそれぞれで、最初の1年、1歳になった時一度だけ祝うというのも多いそうだ。
居間で一人でいてもつまらないし、アスカの訓練を見物してもそれほど面白くはないので、まだ日は高いのだが風呂に入ってしまうことにした。
風呂から出てもまだ夕食にはだいぶ時間があったので、自分の部屋に戻って、ベッドに横になっていたら、うつらうつらしてしまった。気付けば、窓の外は暗くなっていた。そろそろ夕食の時間だと思うが、誰も俺を呼びに来てくれていないので今日の夕食は少し遅れているのかと思っていたら、アスカが迎えに来てくれた。
「マスター、夕食の時間です」
「アスカ、ありがとう。
操縦士訓練は?」
「二時間ほど前には終わっています」
俺は思った以上に寝ていたようだ。
アスカと一緒に階段を下りて食堂に向かったのだが、食堂に明かりが
「アスカ、食堂の中に明かりが点いていないようなんだけど?」
「問題ありません」
問題ないの? アスカがそういうんならそうかもしれないけれど、暗い中では食べにくいと思うんだが。
食堂の中に入り、暗い中を見回すと、すでに全員席についているようだ。
明かりをつけずにみんなどうした?
「ショウタさん」「ショウタさま」
「お誕生日おめでとうございます!」
えっ?
食堂の真ん中に小テーブルが置いてありその上にショートケーキの大きなホールが置いてあった。
えっ? 思考が追いつかないのだが。
「マスター、お誕生日おめでとうございます。ケーキに差したろうそくにいま火を点けますから、そしたら吹き消してください」
俺の誕生日を何でみんな知ってるの? しかも、お誕生日会などここでは子どもの行事だと思っていたのだが。
「みんなに、マスターの生まれ育ったところでは、いつまでたっても誕生日を祝うのだと教えたところ、このようなことになってしまいました」
アスカがみんなに俺の誕生日を教えたのか。
「みんな、わざわざありがとう。これからもよろしくな」
「はい!」「よろしくお願いしまーす!」
「ろうそくに火を点けましたから、一度
カチ、カチ、……。
「マスター、お願いします」
フーー。フフー。
一度には消せなかった。
パチパチパチパチ、パチパチパチパチ。
みんなの拍手の中、明かりがもう一度
ケーキだけでなく、テーブルの上に並んでいる料理も目が霞んでしまってはっきりは見えないのだが確かに豪華な食事のようだ。
「マスター、そのケーキはマスターのためにミラが昨日から作っていたものです。あとでみんなでいただきましょう」
俺はなんだか鼻水が出て、なにも話すことができなかった。
みんなありがとう。
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