第278話 展望車2


 ガタンゴトン、ガタンゴトン。


 車輪がレールの継ぎ目つぎめを通過するたびに展望車の車内が振動するが、それほど大きな振動ではない。レールもほぼ直線なので、それ以外ではほとんど揺れもない。馬車などと比べ格段かくだんに快適だと思う。


 ということで、俺は収納庫から取り出した木製のコップをみんなに配り、同じく取り出したピッチャー入りのジュースを注いで回った。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 みんな恐縮きょうしゅくしてしまったが、今日は日ごろの感謝を込めて接待役せったいやくてっしようと思っていたので何を言われようがこのままのスタイルでいくことにした。


 右手の草原くさはらの先にはアルト山地につながる山々、左手には畑や草原と、その先の街道を行き来する馬車や人を眺めながら、列車は進んでいく。のどかなものだ。


 リストさんたちの座っている最前部は天井てんじょうもガラス張りになっているので、青空に白い雲が浮かんでいるのが良く見える。


 ガタンゴトン、ガタンゴトン。


 なんだか、眠気を誘う振動だな。石炭をいて煙をもくもく上げて走る汽車と違い、無公害なところが素晴すばらしい。


 カンカーン、カンカーン。


 アスカがかねを鳴らした後、列車にブレーキがかかった。列車はそのまま止まるわけではなく、速度を落として進んでいる。


 前方を見ると、だいぶ先の方で、線路を横断中の荷馬車が見えたが、すぐに支障なく線路を横切って行ってしまった。


 それを確認したようで、列車は加速を始め、またもとの速さに戻ったようだ。


 今の様子は、リストさんたちも見ていたろうから、ちょうどいい。


既存道きぞんどうの横断個所には砕石さいせきを多めに敷いているんですが、何度も馬車などが横断していると、そのうちレールとの段差が大きくなるので、横断するのが難しくなります。三和土たたき的なもので固めるかした方がいいかもしれません」


「了解しました。将来のことも考えると、この路線そのものをメンテナンスする専門の者を置いた方がいいかもしれませんね」


 さすが分かっていらっしゃる。


 景色をみながら、みんなくつろいで、ワイワイとおしゃべりをしているうちに、


 カンカーン、カンカーン。


 鐘の音の後ブレーキがかかり、とうとう列車は、終点のヤシマに到着してしまった。


 どこまでも西に向かって続いている線路自体も珍しいうえに、見慣みなれない物体がその上を走って来たものだから冒険者風の大勢の人たちが終点辺りに集まって来ていた。


 ここで、いったんみんなで降りて、そこらを見て回ろうかと思ったが、どうもこの人ごみの中、大勢の女の子を連れて歩き回るのはマズそうなので、そのまま引き返すことにした。


「アスカ、このまま引き返そう」


「了解」


 運転室のアスカに指示を出す。線路の中に入っていた連中もアスカが鐘を鳴らしながらゆっくり列車を動かし始めたら、あわてて線路の外に出て行った。


「リストさん、線路の周りにさくは無理にしても、立ち入り禁止の表示版くらいあった方が良さそうですね」


「そうですね。手配します。こうして、試運転してみると、運行上必要ないろいろなことが分かりますね。しかし、この列車自体にはまったく問題が発生しないところがすごいですね。片道一時間でしたが、結構楽しめました。これは、ヤシマも観光用に整備すれば十分お客を呼べそうです。貨物だけでなく旅客も運べればいいですね」


「途中何個所かに駅を設けて、そこで、線路を複線化して貨物列車と旅客列車がすれ違うようにすれば運航は可能でしょう。複線化する時は、こちらで何とかしますから言ってください」


「最初の試みですから、試行錯誤しこうさくごを繰り返すつもりでギルドでも対応していきますので、これからもよろしくお願いします」



 リストさんと、これからの鉄道について話していた。起こってはいけないが、これから先、事故なども起こることもあるだろう。そういった考えてもいなかったことに対応していきノウハウをたくわえていけば、この世界で鉄道が根づくのではと思う。


 特に何事もなく、列車は王都南門前に到着した。


 みんなが、列車から降りたのを確認して、列車を機関車ごと収納し、代わりに『スカイ・レイ』を目の前に出した。


「それでは、『スカイ・レイ』に乗って帰ろうか。リストさんたちは前の方の椅子に座ってください」


「それでは、失礼させていただきます。まだ私は飛空艇に乗ったことがなかったもので、楽しみです」


「私も初めてです」


「商業ギルドまで、短い距離ですがお楽しみください」


 操縦席の後ろの左右の席に、リストさんとポーラさんが座り、うちの連中も艇内に全員入ったので、


「『スカイ・レイ』 発進!」


「『スカイ・レイ』 発進します」


「アスカ、リストさんたちも乗っているから、折角せっかくだし、王都の上を一周して、商業ギルドに行こう。着陸場所は、商業ギルドの倉庫前の広場でいいだろう」


「了解」



 上空に上がった『スカイ・レイ』が王都の南から、いったん西に向きを変え、王都の周りを右回りに旋回して、最後に王都の東にあるセントラル港の上を通り、商業ギルドの倉庫群の上から降下をはじめ、そこの広場の隅に綺麗きれいに着陸した。


 そこで、リストさんたちと別れ、もう一度『スカイ・レイ』は飛び上がり、屋敷まで直行した。自家用車代わりに飛空艇を使っているわけで、われながら相当なビップになったものだと思う。





 ショウタたちと別れて、ポーラを引き連れ、商業ギルドの執務室に戻ったリストギルド長。


「ポーラ、どう思う? 今は王都からヤシマまでの50キロ。その距離を一時間。ほとんど揺れもない」


「飛空艇といい、これからアデレード王国、いえ、世界が変わっていくのではないでしょうか? それもショウタさんたちを中心にです」


「私もそんな気がします。ショウタさん、アスカさん、目が離せませんね」


「まだまだ、実運用には時間がかかりますが、肝心かんじんのレールはたったの二日ですから。キルンまでレールがもし引かれたら面白いことになりそうですね?」


「王都からキルンまで街道沿いの距離で500キロです。それはいくらショウタさんたちといっても難しいのではないでしょうか」


「いえいえ、あのお二人ですよ。何が起こっても不思議ではありません」


「そう言われれば、ありそうですね」


「でしょう」

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