第277話 展望車試運転、王都-ヤシマ線


 操縦士訓練の初日を無難ぶなんにこなし、訓練生だか練習生が帰って行った。




 そんな感じで土曜まで訓練を続け今日の日曜は訓練の方はお休み。


 王都-ヤシマ間の鉄道開通試運転の日だ。毎度のことながらの試運転とは名ばかりの物見遊山ものみゆさんではある。



 商業ギルドのリストさんたちとの待ち合わせは、南門の先で10時。


 うちから参加するのは、俺とアスカ、シャーリーにラッティー、四人娘にヨシュアとマリア。今日は休みなので、あとの連中は、それぞれ適当に過ごしているようだ。よく考えたら、俺とアスカは別として、四人娘にヨシュアとマリアはうちのかせがしらだった。ここらで、ヨイショしておいたほうがいいかもしれない。


 俺も伊達だてに貴族ではないのだ。つまり、世渡よわた上手じょうずなのだ。



 最初、待ち合わせ場所には、訓練の延長で、みんなで駆けて行こうと思っていたのだが、四人娘はまだしもシャーリーにラッティー、ヨシュアとマリアの四人には無理そうなので、結局『スカイ・レイ』で南門の先まで飛んでいくことにした。ヨイショするという意味では、ちょうどいいんじゃないか。


「今日は、『スカイ・レイ』で始発の王都南まで飛んでいくから。悪いが全員座れないので、我慢がまんしてくれ」


 ぞろぞろと、みんなが『スカイ・レイ』の中に乗り込む。


 『スカイ・レイ』だけだが、副操縦士の仕事は正操縦士に食べ物や飲み物を渡すことである。今回は飛行時間が極端きょくたんに短いので何も仕事はない。後ろのハッチを閉めた俺は、前の方に座っていたラッティーを副操縦士席に座らせてやり自分はラッティーの後ろに立つことにした。ラッティーの空いた席には立っていたシャーリーを座らせてやった。


 アスカの方も、『スカイ・レイ』の発進準備を終えたようなので、


「ラッティー、それじゃあおまえが副操縦士だ。『スカイ・レイ』発進! って言ってみろ」


「えへへ、それじゃあ、『スカイ・レイ』 発進!」


「『スカイ・レイ』 発進します」


 と、アスカが復唱ふくしょうし、ゆっくり『スカイ・レイ』が上昇を始めた。ラッティーもまだまだお子さまだったようで、目を輝かせて正面のキャノピーをのぞき込んでいる。


 飛行は、飛び上がったと思ったら降下が始まり、すぐに終わってしまったので、ラッティーはずいぶん残念そうにしていた。そのうち、遊覧飛行ゆうらんひこうでもしてやるか。


 10時15分前にみんなで『スカイ・レイ』に乗り込みほんの5分ほどの飛行の後、10時10分前に待ち合わせの場所に到着した。


『スカイ・レイ』は飛行機などと違って爆音ばくおんなどしないのだが、それでも慣れていない馬だと驚くかもしれないと思い、やや早めに到着したおかげか、まだリストさんたちは到着していなかった。



 全員が降りたあと、『スカイ・レイ』を収納したところで、街道を外れて一台の馬車がこちらに向かってきた。リストさんたちの乗った馬車なのだろう。


「おはようございます」


 馬車から降りてきたリストさんとポーラさんに朝のあいさつを済ませ、さっそくレールの上に機関車と展望車てんぼうしゃを並べておいてやった。アスカが素早く二両を連結し準備完了。運転手は前方の確認を目視もくししなくてもできるアスカなので、今日は展望車を前にし機関車で後ろから押す形の運転でヤシマまで向かうことにした。


 リストさんには、帰りは商業ギルドまで飛空艇で送るむね伝えたので、商業ギルドの馬車は返すことにした。


「うおー、これが新しい機関車に展望車ですか。前のものより大きくなった? それに展望車の前面は天井までが高価なガラス張り!」


 そうとう、リストさんも興奮している。


「どうぞ、中は椅子いすがあるだけで何もありませんが、乗ってみてください。お二人は、一番前の特等席とくとうせきにどうぞ」


 リストさんと秘書のポーラさんを一番前の特等席に座らせ、 


「ここから、ヤシマまで50キロ。列車は時速50キロほどで走りますから、約一時間の旅です。景色けしきはあまりわりえはありませんがそこは我慢がまんしてください。それじゃあ、運転手のアスカに出発するよう伝えてきます」


「時速50キロ!」


「リストさん、飛空艇に次ぐ速さですよ。私は飛空艇に乗ったことがありませんので、いままで生きてきた中で一番の速さです」


「それは私も一緒です」


 二人で、盛り上がっているようなので、俺は、展望車の後ろの窓を開けてアスカに、


「それじゃあ出発してくれ」


「了解」


 カンカン!


 かねの音がして、すぐにゴトンという音で列車が動き出した。窓の外に見えるものが少しずつ後ろに流れて行き、それがどんどん速くなってきた。リストさんたちの座る一番前からはずっと続くレールと枕木が見える。手前の枕木は、流れる速さが速すぎて目では追えない。


 よく見ると、ポーラさんは目をつむっている。少し刺激が強かったか?


 そのくらいの方が後で思い返しても印象が強いだろうからいいだろう。


 すぐに列車は時速50キロに達したようで、2秒弱で25メートルおきのレールの継ぎ目を車輪が通るたびにゴトンゴトンと振動する。まさに鉄道だ。


 ポーラさんも落ち着いたようなので、リストさんに聞こうと思っていたことを聞いてみた。


「この前から気になっていたんですが、今回レールを使った輸送が本格化してしまうと、いままでこの区間で荷馬車で生計せいけいを立てている人たちの生活が成り立たなくなりませんか?」


「そこは、全く問題ありません。他の幹線での輸送に荷馬車が恒常的こうじょうてきに不足していますので、そちらに荷馬車を振り分けていけますから助かります。これまで、王都、ヤシマ間には三カ所ほど荷馬車用の宿泊施設を設けているんですが、どれもうちの商業ギルドで経営しているものですのでどうとでもなりますから問題ないでしょう」


 それなら、安心だ。



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