第283話 見えてきた!


 アスカと風呂場の仕切りしきりごしに検討した結果、


 魔法陣技師のベルガーさんを囲い込むに方策ほうさくについては、


 いい案かどうかは分からないが、ミスリルでもいいしその他のものでもいいし、ベルガーさんでは手に入りにくそうな物で釣って行こうということになった。何か新しいもののアイディアに飢えているような人だったので、ちょくちょく顔を出していれば、そういったアイディアも思いついて伝えることもできるだろうし、困ったことがあったら相談してくれる程度は親しくなれると思う。いや、そのくらいならもう親しくなっているのかもしれない。


 ベルガーさんの回転する魔道具については、旋盤せんばんやフライス盤といった工作機械を作って産業基盤を底上げしたとしても、魔石の供給量が全てのネックになると結論付けられた。それでも、回転する魔道具のできを見て、十分いけそうなものなら、そういった工作機械を作ってみようということになった。



 何はともあれ、冒険者の数を増やして同時に質を上げていくことが、必要であるということだ。そういう意味では、冒険者学校はいいところを突いていたわけだが、いかんせんまだ十二名、次の募集も二十名。この程度では、焼け石に水にもならない。だからといって、ここから、10倍も増やすことは不可能ではある。だが方向性はなんとなく見えてきた。


「マスターは以前、この世界に積極的にからんで行く気はないとおっしゃってましたが、結局こうなるんですね」


 アスカのいう通り、なんだかんだ言っても、俺でできることなら、いま住んでいるこの世界に進歩してほしいし豊かになってもらいたい。




 翌日、操縦士訓練が始まった9時を少し過ぎたころ、商業ギルドから二台の置時計が届けられた。荷馬車から降ろすのが大変そうだったので、俺がいったん収納して、一台を玄関の正面に設置してやった。残りの一台は冒険者学校用に買ったものなので、そのまま俺が収納したままにしておいた。


 やってきた置時計は想像以上に大きかった。玄関に設置したところ土台の大きさはちょうどたたみ一畳いちじょうほどで、高さが俺の身長より頭一つ分は高い。2メートルちょっとあるようだ。文字盤が大きいのはいいことだが、カチ、カチっと中から音がする。それが結構うるさい。


 動力はやはり魔素貯留器を利用したもので、中に入っている振り子が止まらないように振り子が近づいてきた瞬間、振り子をさせて押しているという話だった。反発させる仕組みのどこかにが入っているのだろうと想像できる。その振り子が一往復すると歯車がワンノッチ進んで、それが、いろいろな歯車を通じて最終的に分針ふんしん時針じしんに伝わるようだ。


 屋敷にいた連中が、玄関に集まって来て機械式巨大置時計に目を輝かせて見入っている。俺から見れば相当なアンティークなのだが、彼らから見れば目新しい超近代的マシーンなのだろう。少しづつ慣れていけば、こういった機械が普通に感じられるようになるのだろう。そうやって慣れていくうちに次のステップへの発想が生まれるのかも知れない。



 玄関口で、俺たちが時計を眺めていると、玄関の扉が開いた。


「ショウタいるー?」


 見ると、フレデリカ姉さんが立っていた。


「フレデリカ姉さん、おひさしぶり。それで、今日はどうしました?」


「ショウタ、ここにいたの。ちょうどよかった。ショウタのところで最新式の時計を買ったっていうから見に来たの」


「よくわかりましたね」


「商業ギルドのハインリッヒギルドちょうがショウタのためにオークションで何とか時計を手に入れたって教えてくれたのよ。どれどれ、アレがそうなのね」


 そういって、置時計の前に走り寄って、しゃがんだり横にまわったりして、眺め始めてしまった。


「アルマさんの手伝いは今日はいいんですか?」


「いいの」


「ほんとですか?」


「いいの」


「そうですか」


 これはアルマさんに黙って来たな。


 そこらへんは二人の問題なので適当にやってください。


「フレデリカ姉さん。アスカはいま外で操縦士訓練生の面倒を見ているのでいませんが、居間で一緒にお茶でも飲みませんか?」


「そう、それじゃあ御馳走ごちそうになるわ」




「この居間、明るくて素敵すてきじゃない」


「そうですか? ここしか知らないからこんなものかと思っていました」


「住んでいる人から見ればそんなものかもね。そういえば、ショウタのお屋敷に来たのは初めてだけど、結構敷地も広いのね」


「アスカと二人分ですからね」


「そうだったわね。そうそう、この前アルマが言ってたけど、こんどショウタは伯爵はくしゃく陞爵しょうしゃくしそうだって」


「伯爵?」


「そう、あんたたち、飛空艇を騎士団に納めるんだってね。名目上はそれで陞爵しょうしゃくするそうよ。あなたが伯爵で、飛空艇を発明して実際に作っているえーと」


「ボルツさん」


「そうそう、ボルツさんは男爵だんしゃくだって」


「へー、ボルツさんが男爵か。実績からいっても、これから国への貢献こうけん期待度からいっても貴族に上げておいて損はありませんものね」


「あら、ショウタも貴族さまになったと思ったらそういった考え方ができるようになったんだ」


「何となくですけどね」


「あと聞いたわよ、機関車の話」


「それもですか」


「そのうち機関車に乗せてね」


「機関車は少し先になるかもですがいいですよ。それなら今日の昼時になるんですが、ちょっとだけ飛空艇に乗って見ますか? ご存じかどうかわかりませんが、南にある山の中に露天掘り跡があるんですが、そこに冒険者用の学校を作ったんですよ。きょうはそこに用事があるので、アスカと二人で昼食時に駆けて行こうかと思っていたんですが、フレデリカ姉さんがいるんなら飛空艇で行ってもいいですから」


「あら、いいわね。ぜひ乗せてちょうだい」


「おそらく片道10分程度ですがそこは我慢がまんしてください」


「いいわよ。一度乗れればそれで満足だから」


「それじゃあ、昼前まで、ここで雑談でもしてましょう」



 居間でフレデリカ姉さんと、シャーリーのことやラッティーのことなどを話して時間を潰していたら、やっと、午前中の訓練が終わったようで、アスカが戻って来た。


「フレデリカさん、こんにちは」


「アスカ、久しぶり」


「アスカも玄関に置いた置時計を見たと思うけど、フレデリカ姉さんがうちに置時計があると知って実物を見に来たんだ。話の流れでに飛空艇に乗せることになったんで、ペラのところへは『スカイ・レイ』で行こう」


「分かりました。あと、置時計の時間はわたしの方で正確な時刻に合わせておきました」


「アスカありがとう。

 それじゃあ、フレデリカ姉さん、そろそろ行きましょう」



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