第274話 操縦士訓練開始。


 魔法陣技師のベルガーさんに会って、いろいろ考えさせられた。


「アスカ? 魔法陣についてどう思う?」


「可能性が山のようにあるのではないでしょうか」


「そうか。ベルガーさんも言っていたけど、新しいものを作りたいけど、その新しいものの発想がなかなか出てこないと言ってたものな」


「まさに、マスターの得意分野ですね」


「空想、妄想、そういったものは得意かもしれないな」


「マスターの周りには、マスターが必要としている者が自然と集まってくるようです」


「それって、俺の人一倍高い運の高さが影響してるのかな?」


「運とかいうものは、私には縁のないものですが、マスターを見ていますと、強くそのことを感じます。これまでも、いろいろなことがありましたが最終的には、マスターにとって、この世界にとって、いい方向に世の中が動いて行っているように私からは見えます」


「そうか。すべては、俺がアスカに出会ったところから始まったわけだけれどな」


「そういう意味ですと、私も相当運がいいのかもしれません」


「アスカ、ありがとう。魔法陣については、また日を改めてベルガーさんのところに行ってみようか」


「そうしましょう」





 今日は、操縦士研修の初日。アスカは前日中に新人操縦士十名用に操縦装置の実物大模型じつぶつだいもけいと木製の飛空艇模型を五セットになるよう揃えてくれている。



 集合時間は9時なのだが、8時半にはみんな集まってきてしまった。


 騎士団からは、第三騎士団のレスター団長が騎士団の若手六名を引き連れてやって来た。四名が男性で、女性が二名。


 レスター団長は六名をわれわれに紹介して、


「この六名は私が自信をもって選抜した六名です。遠慮なさらず、びしびし鍛えてください!」


 今の言葉で、気合が入ったのか、騎士団員六名の背筋せすじが伸びたような気がする。


 騎士団から派遣された六名のうちの二名が女性で、うちで雇った四名が女性なので、女性の方が全体的に多くなる。そういえば、いままで気にしていなかったけど、日本にいたころあんまり、女性の旅客機のパイロットは聞かなかったけれど、こっちの世界では女性パイロットが主流になるのかもしれないな。


 俺も一応訓練初めのあいさつしておくか。


「それじゃあみんな、飛空艇の訓練を今日から始めるわけだ。さっきも言ったが教官はここにいるアスカ・エンダー子爵が務める。アスカの指示に従って訓練にはげめばかならず飛空艇の操縦はできるようになる。そこは安心してくれ。アスカから一言」


「みんな、私がアスカ・エンダーだ。いまあいさつしたコダマ子爵ともども錬金術で名が売れているようだが、Aランクの冒険者でもある。これから厳しく鍛えていくのでそのつもりでついて来るよう」


「……」


「返事は?」


「は、はい!」


「よろしい」


 見た目、相当美人なアスカがいきなり新人たちに怖そうなことを言うものだから、みんな結構飲まれてしまったようだ。これで、アスカが双刀を抜き放った戦闘時の姿でも見せてやれば相当おもしろそうだが、武術の訓練じゃないのでやめたほうがいいか。


「それじゃあ、みんなは飛行艇を間近まぢかに見たことがないかもしれないから、実物を見せよう。こっちに来てくれるか」


 みんなを連れて、南側の草原、造船建屋の近くまでやって来た。


『スカイ・レイ』を草原に収納から出して、


「これが、飛空艇だ。みんながこれから操縦することになる飛空艇はこれより二回りほど大きくなる」


 俺が、いきなり『スカイ・レイ』を目の前に出したものだからこれにはみんなかなり驚いたようだ。


「これが、子爵閣下の収納か」


「飛空艇も、思っていた以上に大きい。これのさらに二回りも大きいのか」


「わたしがこれを動かすの?」


「すごい!」


 人それぞれの感想があるのだろうが、慣れれば操縦くらいどうってことないだろう。かくいう俺は全く操縦なんぞできないがな。


「よーし、みんな、中に入ってみよう。座席は足りないが、短い間だから大丈夫だろう」

 

『スカイ・レイ』の後ろについている昇降口を開けて三段ほどのタラップを下げてやる。


「アスカ、みんなを乗せて、一度王都を見せてやろう」


「了解しました」



 物珍しそうに訓練生たちが、『スカイ・レイ』に入ったのを確認し、


「席が六つしかないから、四人は立って適当なところにつかまっていてくれ。これから、上空に上がって空の上から王都を見てみようと思うから楽しみにしててくれ」


 最初、うちの四人は遠慮してみんな席につかなかったのだが、そこは騎士団男子。女子に席を譲って、女性六人が席に着き男性四名が何かにつかまって立っている形になった。今回騎士団から操縦士の訓練に来ている連中はおそらく騎士団長が推すだけの騎士団の若手の中ではエリートなのだろうが、鼻にかけることもなくできた連中のようだ。


 俺も、アスカの隣の副操縦士席に座って準備OK。


「『スカイ・レイ』発進!」


「『スカイ・レイ』発進します」


 魔導加速器の音が大きくなり、窓の外の景色が下に流れていく。


 十人の訓練生たちは、地面から『スカイ・レイ』が浮き上がったとたんにきょろきょろと妙な挙動をする。足が地についていないということが本能的にわかるようだ。そのうち窓の外の景色が気になったようで、一心に窓の外を見ている。


「王宮が見えてきた!」


「こんなに王都は広かったんだ」


「海が見える!」


「すごい」


 楽しんでくれたまえ、そのうち見飽みあきる景色だと思うけどな。それでも、今日の景色はおそらくきみたちにとって一生ものになるんじゃないかな。


「アスカ、軽く王都上空を一周してから着陸しよう」


「了解しました」


 騎士団の連中は、上からでも目印になる王宮近くに住んでいるのだろうから自分の住んでいる場所がすぐわかったはずだが、うちで雇った四人は一般の民家住まいだろうから自分の家を見つけるのは、なかなか難しいだろう。


 訓練生たちを10分ほど飛空艇に乗せてやって『スカイ・レイ』は屋敷に戻った。


「みんなどうだった? 地面に足がついていないことは不安になる要素だけれども、乗った感じは安定していただろ? 操作自体は慣れないと複雑に感じるだろうけれど、何をどうすれば、どうなるかが分かればそれほど操縦は複雑ではないはずだ。そこは安心してくれ」


 今の言葉で、十人が十人あからさまにほっとしていた。こんなものを自分が本当に操縦できるのか心配になる気持ちは俺にも理解できる。




「それじゃあ、アスカ、どこで訓練を始める?」


「どこでもいいので、ここで始めましょう。まずは、飛空艇の構造から説明していきますから、マスター、飛空艇の構造模型をお願いします」


 アスカが木を削って作った飛空艇の模型を草原に出して、『スカイ・レイ』は仕舞しまっておく。


「うおお、たまげたー。コダマ子爵の収納魔法は何度見てもすご過ぎる」


「エリクシールもすごいけど、あの若さでエルフの収納魔法を極めているという噂は本当だったんだな」


 いきなり、『スカイ・レイ』が目の前から消えてしまったことでまたみんなを驚かせてしまったようだ。これくらいしかみんなの前では収納を披露ひろうすることはないだろうから、慣れてほしいものだ。




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