第272話 打合せ


 レールの敷設ふせつも一応終わり、展望車をアスカが作った翌日。



 アスカと二人で商業ギルドのギルド長のリストさんの元を訪れた。


 いつものように二階の応接室で相対あいたいしている中、秘書のポーラさんも同席し、メモを取る用意をしている。


 リストさんも、われわれの作業の進捗しんちょくは把握していたようで、


「いやはや、ほんの二日でレールが王都からヤシマまででき上ってしまうとは。恐れ入りました」


「今回はアスカと二人、少し張り切ってしまいまして。それで、やり残している作業なんですが、荷物の積み下ろしをする駅舎の建設の件でうかがいました。駅舎の中で機関車を入れ替えたりしますので、駅舎内では複線にする必要がありますし、予備の貨車などもレールの上に置いておく場所も必要ですので、そこらを含めた駅舎の設計をしていただく必要があります」


「了解しました。その件については、午後にでもフォレスタルさんをショウタさまのお屋敷に向かわせますが、よろしいでしょうか?」


「問題ありません。駅舎が決まってしまえば、様子をみて駅舎内にレールを敷いてしまいますので」


「ありがとうございます。荷物の積み下ろしだけの建物でしたら倉庫のようなものでしょうから建築にそれほど時間はかからないでしょう。楽しみです」


「あと、線路を横断する馬車道がそれなりの数あったので砕石を盛り上げて馬車が横断できるようにしていますが、馬車が通るにはまだ少し段差があるので、三和土たたきのようなもので固めた横断路を作ってもらった方がいいと思います」


「そうでしたか。それくらいなら、すぐに取り掛かれるでしょうからお任せください。他には何かありませんか?」


 ポーラさんがせっせとメモを書いているので、書き終わるまで少し待って、


「そうだ。今回アスカが人の乗るための車、客車を作ったので、今度の日曜日にうちのもので試運転を兼ねてヤシマまでそれに乗って行ってみようと思っていたところなので、リストさんとポーラさんさえよければ、ご一緒しませんか?」


「ありがとうございます。

 ポーラは日曜は空いているだろ?」


「はい、空いています、といいますか空けておきます」


「そういうことですので、喜んでポーラともどもご一緒させていただきます」


「楽しみです。ショウタさまアスカさま、よろしくお願いします」


「それでしたら、そうですねー、日曜の午前10時ごろ、南門の先のレールの西端辺りにおいでください」


「了解しました」




 打ち合わせも終わったので、商業ギルドを辞し、午後からフォレスタルさんのやってくるのを待つことにした。今回は特に難しい話になりそうなのでアスカに任せ俺は横から見ているだけにしたいのだが、よく考えたらいつもそうだった。


 昼食後、居間でアスカと時間を潰していたら、フォレスタルさんがやって来たようだ。すぐに、ハウゼンさんが居間にやって来て、


「フォレスタルさまがいらっしゃいましたので、小応接室へお通ししました」


「ハウゼンさん、ありがとう。

 それじゃあ、アスカ、行こうか」


 応接室に入り、お互いいつものようにあいさつした後、すぐに駅舎についての要件をアスカがフォレスタルさんに説明していく。


「駅舎については、了解いたしました。明日の朝から測量そくりょうに入ります。王都側の駅舎の図面については明後日には完成しますが、ヤシマ側については往復で三日はかかりますので、それを待っての図面制作ですから二つ図面がそろいましたらお屋敷にうかがいます」


「了解しました」


 ということで、フォレスタルさんはいつものように帰って行った。これで、レール、鉄道関係ではこれでこちらですぐにできることはなくなったようだ。


「さて、あしたは、操縦士研修の初日だな」


「騎士団でアサインしたのは操縦士六名、整備士せいびし六名のようでしたので、うちで訓練するのは、雇い入れた四名を入れて十名になります。整備士六名の受け入れ先のボルツさんに念のためもう一度連絡しておきましょうか?」


「してた方がいいだろうな。そろそろ、2号機ができ上るころだろうし、きょうはまだ時間があるから、これから二人で行ってみるか?」


「そうですね。急いで行ってみましょう。ついでに、魔導加速器を作っている工房を紹介してもらいませんか? 私の得ている情報ですと、魔道具職人でハンナ・ベルガーさんという方のようです」


「ハンナ・ベルガーさんか。名前からすると、女性のようだが、ボルツさんといいこっちの世界の発明家のような人には女性が多いのかな?」


「そこは、誰かの好みかもしれません」


「誰かの好み?」


「いえ、なんでもありません」


「はて?」




 いつものように、アスカと二人でボルツさんの工房に駆けて行った。


「ボルツさん、騎士団からの研修であすから六名お邪魔するのでよろしくお願いします」


「わざわざそれを報せに来てくれたんかいな。心配性やな。騎士団からも人が来て報せてくれたよってな。こっちの方は準備なんぞ特にないから大丈夫や」


「よろしくお願いしますね。『ボルツR2型』の2号機ももうそろそろみたいですね」


 目の前にある飛空艇は、ほとんど完成しているように見える。


「あと残った作業は、操縦装置の取り付けと調節くらいやから、来週には何とかなるやろ、そん時は報せるさかい、テスト飛行は頼むな」


「任せてください。そうだ、前からボルツさんに頼もうと思っていたんですが」


「なんやねん?」


「ボルツさんのところに魔導加速器をおろしている工房を紹介してもらいませんか」


「ああ、ええよ。ハンナ・ベルガーちゅうあたしの幼馴染おさななじみや。ちょっと待っててや。いま紹介状を書くさかい」


「お願いします」


 ……。


「ほな、これを持って訪ねてみてな。場所は、……」


「ボルツさん、場所なら私が分かりますから大丈夫です」


「何でもアスカさんは知ってはんな」


「何でもは知りません、知っていることだけです」


 久しぶりにそのセリフを聞いたような気がする。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る