第271話 レール敷設完了


 王都方向、西に向かって作業を続けて、振り向いたら、東の空が夜がしらんできた。


 ここまで、一度休憩きゅうけいを取っただけで、夜なべでレールを敷き続けて、とうとう王都側から敷いていたレールにヤシマ側から敷いたレールが繋がった。


 途中南北に走る馬車道を何本も横断したのだが、そこは、砕石をレールの高さ近くまで盛り上げることで、馬車の行き来ができるようにしておいた。本来なら踏切ふみきりをつけた方がいいのだろうが、それほどの交通量が、鉄道側、馬車道側にあるわけではないので、大きな問題ではないだろう。


 最後の二本のレールをアスカが設置したとき、思った通りとはいえ、その二本のレールを切り詰める必要もなくピッタリはまってしまったのにはやはり驚いた。


「最後のレールがピッタリはまったのには驚いたなー。さすがはアスカだ」


「たまたま、ピッタリはまっただけです」


 なんだか、いまうれしそうな顔をアスカがしたような。


「ふー。なんとかレールを敷き終えたな」


 振り返って、明るくなってきたヤシマ方向を見ると、レールがずーっと見えなくなるまでつながっている。この景色だけを見ると、なんだか日本の単線レールが敷かれた田舎いなかに戻って来たような気がする。


 風景として何か足らないと思ったら、電信柱がないことに気づいた。


 魔石と魔道具の組み合わせでこの世界にも便利道具がたくさんあるが、電話に相当するものがこちらの世界にはないからな。ニーズはあるとは思うけど、そういった魔道具のことを聞かないのは、やはり発明されてないのだろう。そのうちそういった魔道具も発明されれるかもしれないしな。まあ、それは俺がどうこうできるわけではないし、今はいいか。


「あと、レール関係で残っている作業は何だっけ?」


「あとは、駅舎えきしゃが完成したらその部分を複線化し、ポイントなどをつける作業が残っています」


「そうか。さすがに今回は俺も疲れたから、そろそろ屋敷に帰ろう。屋敷に帰って休んだら、あしたあたり商業ギルドに行って駅舎の話を詰めるか。鉄道がらみが一段落ひとだんらくしたら、そろそろ操縦士の養成かな?」


「そうですね。今回うちで雇った四名と騎士団に明後日あさってから訓練開始するむね伝えておきましょう。パイロット研修は騎士団のほうで実施してもいいでしょうが、当面は、私たちが身動きしやすいうちの屋敷のほうで実施しましょう。整備士の方の受け入れについてはボルツさんに連絡を入れておかなければいけません」


「それじゃあ、ボルツさんと騎士団にはサージェントさんにでも伝えに行ってもらおう」




 作業に使っていた貨車などを収納して、俺たちは駆け足で屋敷に戻って行った。そのうち日ものぼり始め、王都の西門からは朝日に向かって走ることになった。


 屋敷に帰りついてアスカに時間を聞くと8時前。


 玄関に入ると、ハウゼンさんが迎えてくれた。


「おはようございます。昨日はご苦労さまでした」


「おはようございます。少し頑張って仕事をして来たので疲れました。一応一段落ひとだんらくしましたので安心です」


「食事の方はいかがいたしますか?」


「アスカどうする?」


「私の方はどちらでも構いません」


「作業の休憩で夜食も食べてるし、俺も疲れたから、今朝けさはパスでいいか。

 ハウゼンさん、俺とアスカの今朝けさの食事はいいです」


「かしこまりました」




 風呂に入りたかったが、掃除中だったのでそれはあきらめ、屋敷の中で出会うみんなにあいさつをしながらそのまま二階に上がり、自室に戻ってベッドに直行した。



 昼前まで寝ていたら、頭もすっきりしてきたのでベッドから起き出し、顔を洗ったり身支度みじたくを整えていたら、昼食の準備ができたようなので食堂に向かう。



「ショウタさん、昨日きのうはお仕事大変だったんですね」


 斜め前に座ったラッティーが聞いてきたので、


「それなりに大変だったんだけれど、何とか仕事は終わったよ。なあアスカ?」


「はい。

 あと少し残ってはいるが、もう終わったようなものだ」


「レールを遠くまで敷いているってお話だったけれど、そんなにレールを敷くって簡単なものなんですか?」


「王都の南門の前からレールを50キロ、西にあるヤシマってところまで敷いたんだ。丸一日で敷いたということからいえば簡単に敷いたようにみえるけれど、アスカがいなければ何カ月もかかったんじゃないか」


「マスターと私の組み合わせだから丸一日で作業が終わったが、おそらく毎日数十人の作業員が働いても、半年では作業は終わらなかったろう」


 今の話を聞いて、またラッティーが目を丸くしていた。


 アスカが話をったわけではないと俺も思う。


「そうだ、今回のレールはヤシマから王都へ荷物を運ぶためのものだけど、貨物の運行が始まる前に、ラッティーを機関車に乗せてやろう。片道50キロもあればずいぶん楽しいと思うぞ」


「えー、楽しそー」


「そうだなー。シャーリーも連れて行くとして、次の日曜にでも出かけよう」


「やったー!」


「マスター、それでしたら一両だけでも客車を作りますか?」


「ほう、それもいいな。ガラスもあるから展望車ができるんじゃないか? 使うことは今後あまりないかもしれないけれど、二十人くらい乗れればいいな」


「分かりました。マスター、あとで材料を造船建屋の方へお願いします」


「了解」




 いつものように食後少し休憩して、アスカのいう材料を造船建屋に並べておいてやった。


 俺は材料を出してしまえば手伝えることは何もないので、アスカの作業をいつものように見学した。


 今回でき上がった客車は、二台の四輪の台車を少し離して鋼材の土台で繋げ、その上に客室が乗る形のものができ上った。側面のガラスは木枠ごと、下にスライドできるようになっている。客車前方はごろしの大型の窓ガラスが天井から腰の高さまで貼られて非常に見晴らしが良い。座席は長椅子形式で、車両側面に沿って左右で二列、向かい合って座れるよう作りつけられている。見晴みはらしの良い一番前だけ、四人席が前の方を向いている。


 出入り口の扉は後方左右にあり、扉の後ろが、トイレと洗面台の一角になっている。それ用の水の入ったタンクは展望車の上に二つ付いていて、ホースを使うかして水を上から注がなくてはならないのだが、そのあたりは、今のところ俺が収納を使ってごまかしている。出た方を溜めるタンクは、車両の下に設置してあり、タンクごと取り外せるようになっている。そこら辺の最終処理は、『スカイ・レイ』同様、うちの連中がなんとかしてくれるのだろう。


「なかなか、カッコいいのができたな」


「ありがとうございます」


「日曜日に、シャーリーたちと乗るのが楽しみだ。座席が木でできているから座布団ざぶとんくらいあった方がいいかもしれないけれど、まあ、往復でも座ってるのは二時間程度だからそれほど問題ないだろう」


「いまのところポイントなどもないし、レールの継ぎ目で多少振動する程度で、揺れはほとんどないと思います」


「そうだ、今思いついたんだけど、対向列車をかわせるように途中ところどころを複線にしておけば、旅客列車も走らせることができるんじゃないか? そしたら、冒険者学校から、ヤシマまで簡単に行き来できるぞ。卒業旅行にヤシマで実習を考えていたけれど、片道二日は無駄だものな」


「そうですね。いまトンネルの出口で止まっているレールを王都-ヤシマ線に繋げてもいいかもしれません」


「急ぐ必要はないけど、夢が膨らむな。王都-ヤシマ線か、なかなかいいな。いずれ、南門を通って、王宮近くまで線路が伸びれば面白いな」


「これまで、マスターが望んだことはたいてい実現していますから、いずれそうなると思います」


「そうかなー? うーん」


「あした、商業ギルドで駅について話し合いますから、向こうから旅客便りょかくびんについては要望してくる可能性もあります」


「頼まれれば対応せざるを得ないよな」


「そうやって、結局マスターは何とかしてしまう訳です」


「なるほど、アスカに言われてみれば、そうかもしれない。思い当たる節もないではないな」




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