第269話 鉄道ヤシマ線3


 レールを延長するにあたって、砕石さいせきが全く足りないため、アスカと二人、いつもの川の上流に向かった。川原かわらにはゴロゴロと大きな石が転がっているので普通の人なら走りにくいのだろうが、俺とアスカにとってはさしたる障害ではなく、目に付く大石はそのうち何かの役に立つだろうと収納していったので、普通に走ることができた。


 かなり上流までさかのぼってきたところ、うまいぐあい合に川の両側に迫った山が崩れて切り立った崖になっており、黒っぽい岩肌がのぞいている場所があった。これなら、崖の傾斜けいしゃを削り取ってしまっても問題なさそうだ。


「ここなら良さそうだな、ミニマップにも人はいないようだからちょうどいい」


「マスター、折角せっかくですから、崖崩れがけくずれが起きにくいよう、露天掘り跡のあの感じで、岩を切り取りましょう。私が、左の上の方から右下に向かって段ができるように岩を切り取りますから、マスターは、順次収納していってください」


「わかった」


 アスカのいう左上がどの辺りなのかはよくわからなかったのだが、ミニマップを見ると、薄赤く点滅している地形があった。便利だ。できれば、このミニマップに連動させて収納できたらさらに便利になると思うが、どうだろう。


 試しに、実際の崖の方を見ることなく、ミニマップだけを見ながら意識して収納するよう念じたら、普通に収納できた。


「アスカ、コツがわかったから、ドンドン崖を切り取っていってくれ」


「はい」


 見る見るうちに、ミニマップの中に薄赤い領域が広がって行った。それを俺がどんどん収納していく。


 崖の上の表土と、その上の立ち木なども一緒に収納することができた。根っこが地面から出た木なら切らなくてもまるごと収納できるようだ。


 崖の状態を見てみると、上の方からきれいに段ができており、これなら、崖崩れがけくずれ早々そうそう起きないだろう。


 そうやって、5分ほど岩の塊を収納していったところ、


「おそらく、ここまでで、今回必要とする砕石の3倍程度の砕石を作れる岩の量になったと思います。ここで砕石を作ってしまいたいので、先ほどの岩の塊を一個出していただけますか」


 一辺10メートルほどの立方体を斜めに潰したような形の岩の塊を一つ出してやった。


 一瞬、ふわっとアスカの銀髪が広がったと思ったら、先ほどの岩の塊がザーと音を立てて崩れて小山になった。


で砕石にしましたので、収納お願いします。そのあとまた岩の塊を出して、砕石になったら収納の繰り返しでお願いします」


乱切りらんぎり』とは一体なんなのか分からなかったが、砕石らしい小石の山が目の前にできている。最近は特にそうだが、アスカに言われたまま行動している。たしか俺はアスカのマスターだった気がするが。


 まあそんなことはどうでもいいか。


 小山は、砕石の山という認識で一度に収納できた。そのあとすぐに岩の塊を一つ出してやる。そういった作業を数十回繰り返して、岩の塊が無くなった。


「やっと、終わったな。今何時になる?」


「12時10分前です」


大分だいぶ時間をとったな。ここで、昼にしてそれからだな」


「はい」


 川原の丸石の上に二人座って、台になるような石の上に適当な料理と飲み物を並べて昼にすることにした。


 食事しながら、あたりを見回すと、段々になった斜面がそれなりに安定している。今までのいつ崩れてもおかしくないような崖が無くなったのは良いが、以前の崖を知るどこかの誰かが、この変わり果てた様子ようすを見てたまげるんだろうなと思うと何だか可笑おかしくなった。


 環境に相当優しいことをしたわけだが、同じことを元居た日本でやってしまうとそれこそ悪い意味で大ニュースだ。


 食後、飲み物を飲みながらそこでしばらく休憩して、


「そろそろ行くか」


「はい」




 川原かわらくだり、街道に出て、レールを敷きかけの路線まで戻って来た。東西に走る街道から200メートルほど南を街道にほぼ平行になるようにレールを引いていたので、見かけないものができているのを興味を持った人が、近くまで来て眺めていた。


「これは、いったい何なんですか?」


「これは、レールといって、この上にピッタリした鉄の車輪の付いた荷車を乗せると凸凹でこぼこのないぶん簡単にものが運べるようになるんです」


 俺の説明で理解できたかどうかは分からないが、その人はしきりにうなずいていたので、ある程度は理解してくれたのだろう。



 一番先端の作業個所までやって来て、少しずつ砕石を撒くように排出してゆく。


「アスカ、こんなものでいいか?」


「十分でしょう。あとは、砂虫の輪切りを転がしてならしながら転圧てんあつして、細かいところは枕木で調整しますから問題ないと思います」


 砂虫の輪切りの幅は10メートルなので、一度出したものをアスカに半分にしてもらい、一つ残して、収納した。


 残った5メートル幅の砂虫の輪切りを器用にアスカが転がしていく。少し盛り上がった砕石の上を輪切りが転がることでいい塩梅あんばいに砕石が均されて行く。


「このまま先に砕石を敷いていく方がいいんじゃないか?」


「そのようですね。向こうまでいったら折り返しでレールを敷いていきましょう」


 くいに沿って路線の表土をぎ取りながら生えていた木や草も処理し、砕石をいていく。その後をアスカが砂虫を転がして砕石をならしていく。


 杭が目に届くかぎり一度の作業で表土の剥ぎ取りはできてしまうので、作業は驚くほどのスピードで進んで行った。距離にして45キロ弱の砕石を撒く作業は結局4時間ほどで終わってしまった。


 終点はヤシマダンジョンの手前500メートルほどの空き地で、このあたりなら駅舎えきしゃの建設も簡単そうな場所だった。駅舎関連やその周辺については、レールの敷設状況を確認した商業ギルドの方で作るのだろうから立派な物ができるのだろう。


 だいぶ日も傾いてきたのだがまだ明るい。この調子でいけば、明日の朝までにはレールの敷設は一応終わりそうだ。駅舎の設計を見てから最終的な調整は必要になるのだろうが、それはまだまだ先の話だ。




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