第265話 キルン、レール


 鉄道を王都とヤシマ間で敷設ふせつすることを商業ギルドのリストさんと約束した日の翌朝。


 レールの都合つごうをつけるためキルンの『深淵の迷宮』に行くことにした。久しぶりに収納庫から南の草原に『スカイ・レイ』を出して、アスカと二人乗り込んだ。整備は収納前に終わっているのでいつでも出発できるわけだ。ということで、


「『スカイ・レイ』 発進!」


「『スカイ・レイ』 発進します」



 キルンまで二時間少々の飛行で到着し、例のキルン南西の隠された迷宮出入り口近くに『スカイ・レイ』は着陸した。


 すぐに『スカイ・レイ』を収納し、ミニマップをたどって見つけたダンジョンの黒い渦の中にアスカと二人で入る。



「コア、聞こえるか?」


『はい。聞こえます。お久しぶりです。マスター』


「俺たちをコアルームに運んでくれ」


『了解しました。6秒後に最下層に転移します。 3、 2、 1、 転移!』



 コアが前回来た時と変わらず台座の上で浮いている。


「それじゃあ、さっそくなんだけど、鋼鉄でできたレールってわかるか? これなんだけどな」


 そういって一本、37キロレールをコアルームに出してやった。


『はい。確認しました』


「このレールを作ってもらいたいんだけれど、できるか?」


『問題ありません』


「マスター、出来れば25メートルものにしましょう。その方がつなぎ目が少なくなって、列車が走りやすくなりますから」


「このレールを長さ25メートルで作ってもらいたいんだが」


『何本作りますか?』


「逆に何本作れる?」


『現在のDPダンジョンポイントは約3億です。今回のレールは一本当たり120DP消費しますので、約250万本製作可能です』


 前回ここに来た時よりDPがかなり増えていた。やはり、ここはケタが違う。王都、キルン間が500キロ。何本作らせるか? ええーい。面倒だ。


「10万本作ってくれ。ついでに、連結用の金具と犬釘も必要量な。分かるだろ?」


 10万本あれば、25メートル×5万で1250キロ。これだけあれば、本当にアトレアまでレールが引けるんじゃないか? 足りなきゃまたここに来ればいいだけだし。


『問題ありません。レールの両端に連結金具用の孔も開けておきます』


 コアはレールのことについてよくわかっているようだ。俺が一々言わなくてもちゃんとしたものを作ってくれるらしい。


『コアルームでは入り切りませんので、宝物庫を拡張し、そこにレールなどを積み上げておきます。……、出来ました』


 さして時間がかからず、用意できたようだ。


 拡張されたという宝物庫に入ってみると、そこは天井が以前の三倍程度、奥行きも三倍程度に広がっていた。部屋の隅には、わずかばかりのアイテムが置かれていたが、そっちのアイテムは今は不要なのでそのままにしておいた。


 いまにも崩れそうで見ていて怖くなるほどうず高く積まれたレールの山が全部で10、それにボルトナットが付いた連結金具の文字通りの山、犬釘いぬくぎの山ができ上っていた。


 何回かに分けてレール類を収納し、ここでの作業は終了した。しかし、ここキルンの迷宮の能力はケタ外れだ。こういった産業用の資材が大量に手に入る。使い方を考えていけば、まだまだすごいことができそうだ。


「今日は、特にキルンでの用事もないから、このまま帰るとするか?」


「了解しました」


「それじゃあ、コア、1層の出口まで頼む」




 1層に転移した俺たちは、黒い渦を出て、すぐに『スカイ・レイ』を収納から出して乗り込み、王都に帰っていった。



 途中、昼食時になったので、操縦中のアスカにサンドイッチと飲み物を渡しながら、


「レールも手に入ったし、これだと、意外と簡単にレールを敷いていけそうだな」


「おそらく作業そのものは、慣れてくればマスターが歩く速さ近くまで上がっていくでしょうから、平均で時速3キロから4キロ程度で進めることができると思います。ギルドから枕木まくらぎ用の木材を途切れず供給してもらえれば、余裕を見ても三日で王都、ヤシマ間の50キロの区間のレールを敷けると思います。今後、途中に駅などを作るとなるとそこでは複線化した方が良いでしょうが、今回はただレールを敷くだけでいいでしょう」


「あとは、下に敷く砕石さいせきか。この前のトンネルで抜き取った岩盤があるからあれを使うか。レールを敷きながら、表土や中の岩なんかも削るんだろうから、足りなくなることはないんじゃないか? 足りなくなったらどっかの山にでも行って岩を削ってくればなんとでもなるだろう」


「おそらく、砕石は足りなくなると思いますが、まずはあるものだけで進めていきましょう。あと気になるのは、機関車輸送が本格化した場合、これまで馬車輸送で生計を立てていた人たちをどうするかです。保線ほせんやその他の鉄道関連業務でも、そこまで人は必要ではありませんから何か考える必要があるかもしれません」


「それは俺たちには難しい問題だな。いちおうリストさんに話しておけば何とかしてくれるとは思うけどな」


「一度の運搬量を大きくするため、今度の機関車は魔導加速器四個使用を考えていましたが、そのあたりが解決されるまでは、運搬能力を抑えた方がいいかもしれませんね」


「それは、そうだな」


 そういった話をしながら昼食を終えて、しばらく飛行を続けていたら、屋敷上空に帰り着いた。





[あとがき]

2020年9月15日、☆の数が1500に到達しました。ありがとうございます。

明日(16日)には、200万PVにも到達しそうです。これからもよろしくお願いします。

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