第264話 鉄道


 商業ギルドの二人とアスカをまじえ、四人で『ナイツオブダイアモンド』のレストランで昼食をとりながら、


「ヤシマダンジョンから王都の南門まで約50キロ。この間を先ほどのレールを引くことは可能でしょうか?」


「可能か不可能かでいえば可能と思います。ですが、50キロの距離ですと、直線だとしても12.5メートルレールが8000本必要となります」


「そこを、お二人の錬金術のお力でご用意できないでしょうか?」



『アスカ、どう思う?』


『いちどキルンの「深淵の迷宮」で確認してみないと分かりませんが、おそらく可能ではないでしょうか?』


『だけど機関車はアスカしか作れないんだろ?』


『いえ、設計図、部品の工作図そういったものを渡せばある程度時間はかかりますが、技術のある工房なら作ることはできると思います』



「ヤシマダンジョンから王都の南門までの荷物の運搬ですが、現状、標準の二頭立てにとうだての荷馬車の場合、ヤシマから片道三日かかって約2トンの荷を王都まで運搬し、二日かかってヤシマまで戻るというサイクルで仕事をしています。

 この間支払われる運賃は、小金貨1枚です。五日間御者一名と二頭立て荷馬車を一台拘束こうそくするわけですから妥当だとうな金額でしょう。

 この荷馬車が現在250台ほどヤシマダンジョンから王都を往復しています。要は一日当たり50台が王都に到着しているということですので、一日当たり100トン前後の荷がヤシマから王都に運ばれていることになります。

 支払われる運賃は一日当たり大金貨2枚と金貨5枚。運賃をトン当たりに直すと、小金貨2枚と大銅貨5枚になります」


 冒険者学校を始めるとき、経費分として一チーム当たり一日小金貨1枚と見積もったが、そこまでずれてはいなかったようだ。少し安心した。


「ヤシマダンジョンは一年365日稼働かどうしていますので、年間大金貨約900枚分の運賃がかかっていることになります」


 確かにかなりの金額だ。最終的には、冒険者がダンジョンから持ち帰った物の買い取り価格からこの運賃が引かれるのだろうから、運賃が下がれば、冒険者の手取りは増えるわけだ。


「厚かましいお願いですが、王都南門とヤシマダンジョン間約50キロを先ほどのレールと機関車で結んでいただけないでしょうか? 代金は今のコスト10年分の半額、大金貨4500枚。毎年大金貨450枚を10年間の年割でお願いいたします。運賃が浮いた分は冒険者からの買い取り価格を高くすることができます」



 そこまで、言われて頭を下げられた以上仕事をけたいが、うちの主力選手の意見を聞いておかないといけない。


『アスカ、どうだ?』


『少し忙しくなりますが、可能でしょう。マスターが商業ギルドに感じている借りを返すチャンスにもなりますし。機関車については最初の一両を、台車については最初に必要とされる台数をこちらで作った後は、技術移転ぎじゅついてんもありますから商業ギルドにお任せしましょう。

 それと、この鉄道事業についても、飛空艇事業と同じく商業ギルドと合弁ごうべんで会社事業にした方がわれわれの負担が減ると思います。事業自体には年間大金貨450枚も必要ないでしょうから、基金的なものを作ってもらって、運賃をトン当たり小金貨1枚にして、利益をわれわれと商業ギルドで折半すればちょうどいいんじゃないでしょうか』


 なるほど、それなら、俺たちの取り過ぎではないし、ちょうどいい。


 俺が生きているうちは、エリクシールを売りさばくだけでお金はいくらでも手に入れることができるが、俺の後のことも考えれば、こういった収益キャッシュフローはありがたい。



『それじゃあ、やる方向でいいな?』


『土地の使用許可さえあれば大丈夫です』


『わかった』



「リストさん、アスカと検討しましたがその仕事引き受けさせていただきましょう。レールはこちらで用意できますが、下に敷く木材を用意していただきたいのと、あとは、レールを敷く場所の図面と使用許可ですか」


「ありがとうございます。すぐに土地の使用許可は国と折衝せっしょうします。図面についてもギルドの測量班に行わせますからお任せください。契約書の方は後日の作成になりますがご容赦ようしゃください」


「契約については、こちらにも考えがあるんですが、……」


 ここで、先ほどアスカが言っていた合弁事業化の話をした。


「そこまでしていただくと、商業ギルドのもうけが大きくなってしまいます」


「その分は、冒険者にいくらかでも還元かんげんできるよう考えてください」


「了解しました。任せてください」


「もう一点。機関車の図面などをお渡ししますので、最初の機関車と必要な荷物用の台車はこちらで作りますが、その後はどこかの工房に作らせてください。アスカが言うにはそこまで大変ではないということなので大丈夫でしょう」


「そちらも、了解いたしました」





 その日はそのまま『ナイツオブダイアモンド』でリストさんたちとは別れ、アスカと二人屋敷に戻った。

 


 そういうことで、俺たちは鉄道を本格的に建設することになったのだが、必要なレールの量が量なので、『鉄の迷宮』ではまかないきれそうもない。そこでアスカと相談し、キルンの『深淵の迷宮』に行って、それだけの量のレールを用意できるか確認して、たとえ分量的に不足していようと、でき上った量だけでも持ち帰ろうということになった。





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