第263話 ギルド長レール視察


 リストさんたちと商業ギルドの箱馬車に乗ってトンネル東口に向かう。


「楽しみですねー」「私もです」


 ギルドの二人は相当レールについて期待しているようだ。俺から見るとそれほどではないのだが、どんなものなのだろう。


 今日はせっかくだから、機関車も出してみようか。運転室には四人乗れたかな? ちょっと狭いがアスカが運転する分には狭くても運転のじゃまにはならないだろうから何とかなるか。



 小一時間こいちじかん馬車に揺られ到着したトンネルの東口。



「ほう、この先に見えるのがトンネルの出入り口で下に敷いてあるのがレールですか?」


 リストさんが馬車を降りてずんずん進んでいく。


「思っていた以上に、レールは太くて大きな物なんですね」


「大きくて重たいレールの方が上に台車などを載せた場合、安定するらしいです。ここにあるレールは1メートルあたり37キロのもので、レール一本の長さを12.5メートルにしています」


「レールは二本一組でしょうから、それだけで一トン近い鉄が必要なわけですか。うーん」


 リストさんがなにやら考え込んじゃいました。


 何だか分からないので、とりあえず、目の前のレールの上に機関車を収納から取り出して置いてみたら、リストさんは間近で俺の収納から大きなものが出入りするところを見たのが初めてだったようでえらく驚いていた。


「話に聞いていましたショウタさまの収納をの当たりにして驚きましたが、この魔道具?機械?は一体?」


「機関車と呼んでいる魔道具と機械を組み合わせたものです。馬の代わりに荷車を引くことができます」


「これが馬の代わり?」


「人も乗れますから、どうぞ。狭くなりますが、数分で向こうの露天掘り跡まで到着しますから」



 俺が先に立って、運転室に入ったのを見て、リストさんとポーラさんが恐る恐る運転室に入って来た。最後にアスカが機関車の前後に俺が渡したカンテラを取りつけ、運転席に座った。


 カンカーン。


 軽く木づちでり鐘をたたいて、


出発しゅっぱーつ


 アスカが魔導加速器を起動しブレーキをゆるめたのを見て、


 カンカーン。


 ゆっくりと前に進み始める機関車。


「アスカ、お客さまが運転室から落っこちたらまずいから、あんまり速度は上げないようにしよう」


「了解」


 ……。


 レールのつなぎ目でゴトンゴトンと振動するもののその他はいたって静かに機関車がトンネルの坂道を登っていく。


 アスカは、機関車のスピードをだいたい人の走る速さくらいに抑えたようで、約5分。坂道のトンネルを登った機関車がトンネルの西口に到着した。


 そのまま少し進んで停車し機関車を降りる。俺とアスカは平気で飛び上がって上の段にのぼっていたため、階段を付けるのを忘れていた。屋根の下の上の舗装ほそう部分の手前を階段状に収納して簡易階段を作ってやった。


 土や水など区切りの無い物をその場で切り離して収納することはアイテムバッグではできない芸当げいとうなので、これにはリストさんもポーラさんも驚いたようだ。本当なら、アスカの髪の毛かなにかの斬撃で切れ込みを入れてもらった方が正確かつきれいに仕上がるのだが、2メートル程度のものなら直接俺が収納してしまっても、そこまで差が出ないと思う。


 その簡易階段かんいかいだんを上って、


「あれが、冒険者学校です」


 まだ昼前だったので、生徒たちはペラの指導の元、メイスを扱った訓練をしていた。素人の俺の目で見ても、生徒たちの動きが大分スムーズになってきている。と思う。


「ほう、アレが生徒さんたちですな。なかなか見事な動きに見えます。ここからでも真剣な顔つきが分かり非常にたのもしい」


 確かに真剣な顔をしているのが分かる。どういった指導を生徒たちに行っているのかは分からないが、やはりペラはただ者ではなかった。


「訓練の邪魔じゃまをしてもいけませんから、そろそろ東口まで戻りましょう」


 練習をチラ見しただけでまた一段下のレールの上の機関車に乗って、俺たちは東口に向かった。


 今度は下り坂だが、エンジンブレーキ的に速度が抑えられるのでそこまでスピードは出さなかった。それでも時速で言うと30キロ近くでていたようで、ドアの付いていない運転室に乗っていたリストさんもポーラさんも少し怖い思いをしたようだ。四人を乗せた機関車は2分ほどで東口まで到着してしまったので、そこまで怖い思いが続いたわけではないだろう。


「馬車と違って揺れないのはいいんですが、トンネルの壁というか坑木こうぼくがすごい速さで後ろに流れていくので、少し怖かったです」


 リストさんは、壁に近いところに立っていたのでやはり怖かったようだ。


「私は、ショウタさまとリストさんの間に立ってましたからそれほど怖いというほどではありませんでしたが、この機関車の速さには驚きました」


 二人とも少し興奮して感想を語ってくれた。


 そうだろう、そうだろう。この世界で俺とアスカ以外で初めて機関車に乗った二人だ。世界記録みたいなもんだから興奮するのも当然だ。


「ショウタさま、この機関車は平地ですとどれくらいのスピードが出るんですか?」


「アスカさん、どうぞ」


「うしろに、20トン程度の荷車にぐるまを引いて、40キロ程度の速度で走れます」


「20トンで時速40キロ!」


 俺も驚いた。俺自身は収納もあるし走ることだけは相当自信があるのでこの数値をそこまですごいとは思えないところもあるのだが、冷静に考えるとすごいことだ。荷物を目いっぱい二トンほど積んだの二頭立ての荷馬車は時速6キロ程度と聞く。


「それで、この機関車の運転はアスカさまがされていましたが、難しいものなのでしょうか?」


「いえ、一時間も練習すれば、何とかなるのではないでしょうか」


「一時間で。そんなに簡単なものなのですか?」


「個人差はあるでしょうがその程度で十分でしょう」


「いろいろ勉強になります」


 かなりリストさんが鉄道に興味を持って質問を続けていたが、時間が時間だったので、待たせていた商業ギルドの箱馬車に乗って、王都に帰ることにした。


 ちょうど昼どきに差し掛かったので、そのまま、四人で商業ギルドの前に建つ『ナイツオブダイアモンド』のレストランで昼食を取ることになった。








[あとがき]

JRでは、ローカル線で40キロ、ローカルの幹線で50キロ、新幹線で60キロレールを使用しているそうです。

二頭立ての荷馬車は時速6キロ程度:これは想像です。


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完結作:『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』こちらも、よろしくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020 


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