第262話 人員確保


 近々ちかぢか完成する『ボルツン・ワン』2号機のためにパイロットチームをどうせならまた孤児奴隷から養成しようと思ったのだが、ハットン商店では、適任の孤児奴隷を紹介できないということだったので、今回は商業ギルドにお願いして、普通に求人をすることにした。


 若くて覚えも良さそうな人材ならばなんとかなるだろうと商業ギルドを訪れたわけだ。今回は、珍しくギルド長のリストさんがいたので、今はリストさん、秘書のポーラさんと二階の応接室で話をしているところだ。


「了解しました。人材については全く問題ありません。面接をしていただいての採用になると思いますが、三日後の午前中にこちらにお越しください。そこで面接をしていただき、採用不採用を決めていただくということでよろしいでしょうか? 実際の訓練はいつごろから始められますか?」


「訓練の開始はおそらく二週間以上先になると思います。よろしくお願いします」


「ところで、これはフォレスタルさんから聞いた話ですが、レールを鉄で造られたとか。木を使ったレールを使用している鉱山はあるようですが摩耗まもうが激しいうえ脱線だっせんも多いと聞いたことがあります。そのレールが木材ではなく鉄で作られているとはさぞかし丈夫でしょう」


「もうご存じでしたか。露天掘り跡地まで山を上り下りしていては今後重量物を運搬するにあたって馬車だとかなり負担になりそうなので、露天掘り跡から、山を抜けるように1キロほどトンネルを掘ったんですが、どうせならと思ってレールを敷いてしまいました」


「1キロもあるトンネルを簡単に作り上げることはまさに驚きですが、そのレールも高価な鉄製のものでしょうから、かなりの出費になったんじゃないですか?」


「そういえばレールは、鉄じゃなくて鋼鉄でした。費用の方は、私たちの手間賃くらいでしょうか」


「なんと! まさか、鋼鉄を錬金術で?」


 ダンジョンでレールを作ってしまうのも術ではある。


「まあ、そんなところです」


「そのうち、そのレールとやらを見学に行ってもよろしいでしょうか?」


「いつでもいらしてください。ご案内します」


「それでしたら、三日後の午前に面接をお願いしていましたので、その後からお願いできますか?」


「構いません」


 そういうことで、飛空艇パイロット候補の面接と、リストさんのレールの視察?を三日後に行うことになった。



 商業ギルドのあと、順番は前後してしまったが、王宮に寄って騎士団に、操縦士と整備士の育成のための人員のアサインを早めにしてもらうよう、リーシュ宰相の秘書の人にことづてておいた。二、三日後には連絡が来るだろう。



 商業ギルドから屋敷に帰る道すがら、


「リストさんはレールに興味があるようだな」


「やはり商業と運送は密接な関係がありますから、これからさらに国を発展させるためにもなにか起爆剤きばくざい的なものを探しているのかもしれません」


「レールって、この国の技術レベルで実際作れるものなのかな?」


「技術的には可能だと思いますが、マスターの世界と比べ鉄や石炭などの地下資源がこの世界では手に入れにくいため容易ではないと思います」


「なるほど。俺が持っている鉄だけじゃどうにもならないしな」


「そういったこともあって、国では土魔法の術式を開発して新しい鉱山を見つけようとしているのでしょう。前回は大アリやダンジョンといった予期せぬ出来事で鉱山開発は失敗してしまいましたが、今後はそれなりに新鉱山が見つかっていくと思います」


「そうか。少しずつでも、鉄や石炭が多くれるようになればレールも少しづつ普及していくだろうし、鉄道の敷かれる日も来るかもしれないな」


「そうですね。いっそのこと、マスターがこの世界で鉄道王になりますか? キルンの迷宮に行けば、かなりのレールを作らせることができると思います」


「よしてくれよ。俺はこの世界を良くしようとは思ってはいるけれど、そこまでがむしゃらに頑張ろうとまでは思っていないからな」


「そうはいっても、マスターは結局いろいろなことに手を出しては何とかしてきていますので、今回も何とかなるような気がします」


「なればいいけどな」



 アスカとそういった話をしながら駆けていたら屋敷についてしまった。




 そして約束の三日目。


 その間、学校の様子をみて時間を潰していたのだが、ほんの数日でも素人しろうとの俺にも分かるくらいに生徒たちの動きが良くなってきている。


 騎士団の方でも操縦士と整備士の人選を終えたそうで、こちらの都合で訓練開始できるそうだ。操縦練習用コントローラーは、四人娘用のものが二セットと、予備に一セットあるので、あと二セットはアスカがそのうち作っておくと言っていた。



 商業ギルドに指定時刻にやってきた俺とアスカは、案内された二階の応接室で、リストさん、ポーラさん、そして、今回の面接相手の四名と対面している。


 例のごとく四名とも女性で年齢は16歳から18歳。四人とも冒険者を目指していたそうなのだが、両親に危険な仕事だからという理由で反対されて断念したそうだ。パイロットもそういった意味では全く安全とは言いきれないが、たとえドラゴンに襲われても、速度差から逃げ切れる可能性も高いし、魔導加速器が全て故障しても飛空艇は滑空かっくうできるので操縦さえ誤らなければまず大事故にはならないと思っている。


 四人ともアスカのOKサインのもとその場で採用を決め、来週からうちで訓練を始めるむね伝えておいた。


 採用の決まった四人はその場で解散し、俺たちは、リストさんポーラさんと四人でギルドの箱馬車に乗って、トンネル東側の出入り口に向かうことにした。







[あとがき]

この世界の現状では、鉱山の数も少なく小型のため、軌条(レール)が発達していないという設定にしています。


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拙作:『闇の眷属、俺。-進化の階梯を駆けあがれ-』が2020年9月11日完結しました。こちらも、よろしくお願いします。https://kakuyomu.jp/works/1177354054896322020 

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