第258話 ペラ改造


 機関車の試運転ついでに、冒険者学校に顔を出したらペラが俺に願いがあるという。


「ペラから俺に願いとは珍しいというか、初めてだと思うがなんだ?」


「実は、私は食事ができないので、屋敷にいた時と同じように生徒たちの食事時間には席を外すようにしているのですが、生徒たちが一緒に食事をしようと誘って来るため、自分は食事ができない体なので席を外しているのだと説明しています。何度そう説明しても生徒たちが納得しないようなので、マスターから生徒たちに説明していただけませんか?」


「わかった。アスカと対応を考えてみるから、ペラは生徒たちの訓練に戻ってくれるか」


「よろしくお願いします」


 そういって、ペラは生徒たちがランニングしている方に駆けて行った。


 これは困った。生徒たちに説明するのは簡単だが、少し違う気がする。


「俺が生徒に説明すれば済む話かもしれないが、何か違うと思うんだ。アスカ、何かいい手がないかな?」


「生徒たちにペラがしたわれているようで私はうれしいです。分かりました。対応を考えてみます。

 ……、ようは、食事が可能になることを含めて、ペラがもう少し人間らしくなればいいということでしょうから、私の機能をまねて、似たような感じに仕立ててしまいましょう。幸いペラは私を構成する生体金属せいたいきんぞくに近い生体金属製ですから、食事を摂取して排泄はいせつすることは可能でしょう。残念ながら私のように元素を分解して必要分を内部に蓄える機能をペラに付け加えることは私の能力ではできません」


「なるほど、要は食事は普通にできるようになるけれど、アスカと比べトイレに行く回数が増えるってことか?」


「結論はそうなります」


「それでも口にしたものの味は分かるんだろ?」


「それはペラに埋め込まれている各種センサーの位置と調整だけの問題なので、適切な位置に移動させ、うまく設定したあと、何か『おいしいもの』を実際に食べさせることで、味覚、嗅覚、歯ごたえ、温度、そういったものを総合して、それが『おいしい』のだという感覚を知ることができるようになると思います。

 今日の午後からは生徒たちへの鎧の受け渡しだったと思いますから、その後生徒たちには鎧に慣れさせるために自主練習をさせて、その間に夕食に間に合うよう、ペラを改造してしまいましょう」


「そんなに簡単にペラを改造できるのか?」


「だめでもともと、失敗しても相手はペラですから問題ないでしょう」


 どうもアスカ先生はペラに対してぞんざいだな。


「いえ、ペラは丈夫じょうぶ頑丈がんじょうですから」


 ちょっと違うような。




 ランニングを終え、肩で息をする生徒たちから離れて、ペラが俺たちのもとにやって来たので、


「生徒たちにペラのことを話すのも一つの手ではあるけれども、ペラも生徒たちと一緒に食事がしたいんだろ?」


「できないことを望んでも意味がありません」


「そういうことを聞いたわけじゃないんだがな。

 ペラ、昼食には間に合わないが、夕食までにアスカがおまえを改造して食事ができるようにしてくれるそうだ。嫌なら改造はしないが、どうなんだ?」


「マスター、アスカさん、お願いします」


 もちろんペラもアスカ同様無表情なのだが、喜んでいるような泣いているような複雑な表情をしているように感じてしまった。


「ペラ、任せておけ。私が確実にお前の体を食事できる体に改造してやるから安心していいぞ」


 アスカ先生は、ペラの前ではひどいことは言わないようだ。当たり前か。


「生徒たちのところへ行って、昼食は一緒にとれないが、夕食からは一緒に食事ができると伝えてこい。それと、厨房ちゅうぼうにも夕食から一人分増やしてもらうように伝えるのを忘れるなよ」


「はい!」


「まてまて、もう一点。昼からは鎧の受け渡しだろうから、生徒たちにおまえから鎧一式を渡して、その後は鎧を体になじませるため、防具一式を装備させて自主練じしゅれんでもさせておけ。その時間を使ってアスカがおまえを改造するそうだからな」


「はい」


 元気にペラが生徒たちの方に戻って行ったところで、ちょうど露天掘りのすり鉢のとうげを越えて荷馬車が坂を下ってくるのが目に入った。武器屋さんに注文していた生徒たちの防具一式だろう。


 いったん校舎というか宿舎の中に入った生徒たちが、各自のメイスを持って校庭に出てきた。次はメイスの訓練か。生徒たちよ。訓練は厳しいかもしれないが、危険を冒さず技量が上がるんだ。頑張ってペラについていけ。


 武器屋さんからの防具の受け取りは俺がした方がいいと思い、俺たちも校舎の方に向かった。生徒たちもそろそろ自分たちの防具が来るのでは期待していたようで、武器屋のしるしの入った馬車が校舎の玄関前に横付けされたところで、メイスを振っていた生徒たちの注意がそれてしまったようだ。


「こらー! ちゃんと気合を入れてメイスを振らないと危険だぞ。あまりひどい振り方をする者には防具を渡さないからな」


 ペラのその一言が効いたようで、生徒たちは真剣な顔をしてメイスを振り始めた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る