第257話 機関車4、完成。試走。


 冒険者学校の生徒たちはペラの指導の元、順調に訓練をこなしているようだ。最初のうちはメイスを振り続けることができず、一撃いちげき、一撃も弱々しいものだったが今では安定して振り続けることができるようになったそうだ。


 投擲とうてきの方も、最初のうちは予想以上に投擲とうてき力が生徒たちになかったようで、ポールを無視しても30メートル以上訓練用の投擲とうてき弾を投げることができた者はいなかったそうだ。それでも今では誰もが30メートルは投擲とうてきできるようになったらしい。ただ、投擲とうてきをあまり無茶むちゃをするとすぐに肩を痛めるので、そのあたりはペラに注意しておいた。


 冒険者学校の方はまずまず順調のようだ。


 俺たちの方も順調で、今日の午前中、待望たいぼうの魔導加速器が屋敷に届いた。


 さっそく、造船建屋に仮に敷いていたレールの上に、機関車を収納庫から取り出し、アスカが魔導加速器の取り付け作業を行った。


「魔導加速器をこのように二台直列に接続することで圧気の圧力を上昇させます。あとは二段目からの圧気をダクトパイプを通じてバルブボックスに繋ぎます」


「ダクトパイプは、最も圧力がかかる部材になりますので、やや厚めの鋼管で作成し、中央部に安全弁となる圧力弁を取り付けるネジを切っておきます」


「圧力弁の方は昨晩作っています。10気圧で弁が開きますので管内の圧力が10気圧を越えることはありません。これを先ほど作ったダクトパイプのネジにはめ込みます。……、できました。バルブボックスやシリンダーは20気圧まで耐えるよう作っていますので、そういったものが高圧の圧気で損傷することはなくなります」


「最後に、コントローラーに魔導加速器から出ているケーブルを接続して完成です」


 ……


「これで完成しました」


 ついに、機関車も完成した。


「それじゃあ、さっそくトンネルまで行って試運転をしてみよう」


 完成した機関車を収納して、トンネルの東口まで二人で駆けていく。


 トンネル東口ではすでにフォレスタルさんに頼んでいた台車に乗せた荷箱をり上げるための建屋の建設が始まっていた。重量物を扱うため、柱はそれなりに太い。屋根もすでにかれているので、じきに完成するだろう。作業している人たちに挨拶あいさつして、さくをしたトンネルの中に入って行き、機関車をそこのレールの上に置いた。


 魔導加速機に魔石を入れて、あらかじめ用意していた魔導カンテラを機関車の前後に取りつけて、アスカと二人運転室に乗り込んだ。運転席の天井にも魔導カンテラを下げて準備完了。


 アスカが運転手なのでアスカを運転席に座らせて、俺は警笛けいてき代わりに天井からぶら下がった真鍮しんちゅうかねの下で立っている。


 手ごろなものがなかったので、アダマンタイトのハンマーで鐘をたたこうとしたらアスカに止められた。


「マスター、アダマンタイトのハンマーで真鍮しんちゅうの鐘をたたくと数回たたくだけでひびが入ってしまいますので、他の物で鐘をたたいてください」


「ちょうどいい物がどこにもないんだけど」


「それでしたら、なにか木片はありませんか? それで、小型の木づちを作ります」


 適当な木片をアスカに渡したら、子ども用のハンマーのような木づちを作ってくれた。


 カン、カン、カーン!


 おっ! いい音じゃん。


 カン、カン、カーン!  カン、カン、カーン!


「マスター、鐘を鳴らすのは一度か二度にして下さい」


 それじゃあ、最後にもう一度、


 カン、カン、カーン!


「それではマスター、発車します」


 魔導加速器が振動を始め、二本のブレーキシリンダーに圧気が入りブレーキが緩められ、その後、二本の動力シリンダーに圧気が流れていく。少しずつ機関車が前進し加速し始めた。


 最初は水平なレールだったが進むにつれて徐々に傾斜がきつくなって来た。それでもほとんど速度が落ちないのは今は何も後ろに引いていない状況なので当たり前かもしれない。


「アスカ、いま時速でいうと何キロぐらいだ?」


 機関車の横を支保しほの木材が結構な速さで流れていっているのでそれなりの速度が出ているのだろう。


「いまの時速は30キロほどです」


 思ったほど速度は出ていなかった。いつもこのトンネルの中を駆けているときより少し早い程度だ。


 結局2分ほどで出口の明かりが見えてきた。機関車の旅はたった2分で終わってしまった。もっとレールを!


 カン、カン、カーン!


 面倒なので出口の柵を機関車の中から収納してやった。アスカは機関車を露天掘りの底から一段下がった先まで乗り入れて止めた。


「意外と短かったな」


「1キロ少々ですから仕方ありません」


昨日きのうラッティーが言ってたように、セントラルからせめてキルンまでレールを伸ばしたいよな」


「キルンまでですと道なりで500キロもありますし、途中に街もかなりありますからそれなりに大変でしょう」


「それもそうか。土地のこともあるし、踏切ふみきりなんかも作らないといけなくなるもんな」


「将来、国の事業にでもなれば可能かもしれませんね。今回作ったこの機関車もそこまで複雑な作りではありませんので、時間さえかければこの国の工房でも作れると思います」


「この世界も少しづつ進歩していくんだろうけれど、だいぶ先の話になりそうだな。まあ、そこらはいいとして、せっかくここまで来たのだから冒険者学校に顔を出しておくか」


 トンネルの入り口に柵を戻しておき、一段といっても2メートルほどの段差を登って冒険者学校に向かった。まだ午前中早い時間だったので生徒たちは露天掘りの周りの段々になっている露天掘り作業用の馬車道をランニングの最中さいちゅうだった。ペラも一緒に生徒たちと走っていたのだが、何か話があるのか、俺たちを見つけてわざわざこっちに走ってやって来た。


「おはようございます、マスター。おはようございます。アスカさん」


 おっ、今日は軍隊形式じゃないみたいだ。


「おはよう、ペラ」「おはよう」


「どうした、ペラ、何かあるか?」


「はい。実は、マスターにお願いがあります」


「ペラから俺に願いとは珍しいというか、初めてだと思うがなんだ?」


「実は、……」



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