第256話 機関車3、操作系


 ラッティーが興味深そうに見学しているなかで、アスカが機関車製作を進めていく。


「次は運転室を作りましょう。天井と囲いを作って、コントロールボックス台を備え付けます」


 アスカはそう言いながら、鉄のインゴットを平たく延ばして鉄板を何枚か作り、それを台車の上に取りつけ始めた。取り付けは今回はボルト締めではなく、リベット打ちらしい。リベットを鉄のインゴットから切り抜いて、わずかばかり径の小さい穴を台車の枠組みと鉄板双方にあけて、そこに押し込んでいく。普通ならハンマーでたたき込むような作業が組み立てキット以上の簡単さでリベットが打ち込まれていく。


「最後にコントロールボックス台の後ろに座席を設置します」


 ラッティーはアスカのあまりの作業の速さに口を半分あけたままで突っ立ている。


「運転室ができました。あとで天井にカンテラでもぶら下げればいいでしょう。そういえば、警笛代わりに鐘でもるしておきましょう」


 渡した真鍮しんちゅうのインゴットを使って20センチくらいの鐘が作られて、天井の右側に吊り下げられた。


「ペラが軽く手でたたけばそれなりの音が出るでしょう。魔導加速器は来週ですからそちらの配線は今はできませんので、次はバルブボックス操作系そうさけいを作成します。バルブボックスから操作台まで操作用のシャフトを延ばしてコントロールレバーにつなげるだけですから簡単です」


 アスカにとっては簡単なのでしょう。俺もそうなんだろうなと思う。


「このシャフトは折れたりすると困りますので、はがねをたたいて延ばして太めの針金状にします。一種のピアノ線のようなものです」


 適当にインゴットから切り取ったはがねをアダマンタイトの金床かなどこの上に置いてアダマンタイトのハンマーで線状に延ばしていく。


 そのピアノ線もどきを数本作り先端を少し加工したうえで、バルブボックスから突き出ていたレバーにつなげて、その先端にもう一本の短いピアノ線をぎ足した。そして、さらにもう一本長めのピアノ線を継ぎ足して方向を変えて、ブレーキレバーへつなげてしまった。


 ピアノ線そのものは台車の要所要所に取りつけたリングの中を通しているため変な方向に折れ曲がることなくレバーの動きをバルブボックスに伝えることができるようだ。


「ブレーキレバーを一段引いてブレーキをかけた場合、バルブボックス内の圧気が外に逃げるようになっています。これにより、ブレーキシューはスプリングを押し縮めていたブレーキ用ピストンの力が無くなりスプリングが元の長さに戻る力で車輪に押し付けられ、ブレーキが効くことになります。魔導加速器が停止した場合も同様に圧気がピストンから徐々に漏れるため、ブレーキ操作をせずともブレーキがかかります」


「ブレーキというのがこの機関車を急に止める装置なんですね?」


「その通り。ラッティー、よくわかってるじゃないか」


「それで、そのブレーキは、外から力がかかっているときは効いてなくて、その力が抜けると勝手に効くってことですね」


 なるほどね。ラッティーの今の確認でだいたい俺も理屈りくつというか方向性のようなものが分かって来た。力を入れればブレーキがかかるのではなく、力を抜けばブレーキがかかる。そういうことみたいだ。


「さらにブレーキレバーをもう一段引いた場合、ブレーキ用シリンダーの逆方向に圧気が送り込まれ、圧気とスプリングの力でブレーキシューが強く車輪に押し付けられます。これは、いわゆる急ブレーキの操作に当たります」


「ブレーキ操作した場合、いずれの場合も、動輪用のシリンダーへの圧気の供給はバルブボックスの働きによって止まります」


 何だか話が難しくなって来たのだが、いずれにせよペラがこの機関車を操縦する予定だし、俺が鉄道をこよなく愛する属性を持っているわけではないので、中身をやたら詳しく知る必要はない。ただ、ブレーキにはいろいろ工夫くふうらされているということを知っていれば十分だろう。



 地球の蒸気機関車の場合、ボイラーやら水、石炭とたくさんのものが機関車には欠かせないが、魔導加速器式機関車の場合、そういったものが魔石以外何もないのがすごいところだ。


 魔導加速器を作った人は、この世界のエジソンみたいな人だな。そういえば、ボルツさんにいつも魔導加速器を買ってもらっているけれどどこから仕入しいれているんだろう? こんなすごい魔道具が作れるならもっとすごい魔道具を作っている可能性がある。楽しみだ。


「バルブボックスには機関車の前進、後退のための逆転機能を持たせていますので、その操作用にもピアノ線を引いておきます」


 こうして、バルブボックスからコントローラーまでもう一本のピアノ線のラインがひかれた。動力シリンダーからのピストンの力を動輪に伝えるタイミングをずらすことで、機関車の前進、後退の切り替えができるそうだ。



「これで、最後に機関部に風よけと雨よけを兼ねたおおいを取り付ければ、魔導加速器部分の操作系を除いて機関車については完成です」


 その後、アスカが鉄板を数枚作り、それを使って、機関部の覆いを取り付けた。


「時間もありますから、貨物車となる台車も作ってしまいましょう。マスター、機関車の収納をお願いします」


 ほとんどでき上った機関車を収納して、作業用のレールの上を片付けた。


「機関車の能力的には余裕はありますが、連結する台車は予備も含め当面は四台もあればいいでしょう」


 そういうことなので、四台台車を作るそうだ。今回もあのローラーベアリングを使うようで、そのあたりに多少の時間はかかったが、結局30分ほどで台車も四台できてしまった。それも俺が収納して今日の作業は一応終了した。



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