第255話 機関車2、機構部


 アスカは、夜の間にトンテンカンと近所迷惑になったかもしれないが機関車用の部品をかなりの数作り上げていた。


 今日はこれからバルブボックスとブレーキ機構を作っていくそうだ。


 バルブボックスというのは、圧気をピストンの動きに合わせ左右のシリンダーに振り分ける仕組みだそうで、それなりに頑丈がんじょうかつ精度せいどをもって作る必要があるとことだった。


 バルブボックスは少し形状が複雑になるため鋳物いもののようなもので作れば容易かもしれないが、はがね程度なら切る曲げる叩く切ると何でも簡単に加工できてしまうアスカなので、魔石を抜いただけの無傷のスチール・ゴーレムの胴体を使って、要所ようしょをくり抜いたりしながら、作り上げていった。


 内部に弁の機構を組み込んで、別で作ったカバーをボルト締めして固定していた。ボルトもワッシャーも自前なら、部材のメスネジ部分も自分でその場でくり抜いてネジを切ってしまうので一点物の機械製作ならば作業効率が非常に高い。まさに機械を作り上げる工作機械マザーマシンである


 アスカ式工作機械こうさくきかいがフル稼働かどうし、みるみる機関車ができ上ってくる。魔導加速器を今回は二基直結で稼働させるということだが、その魔導加速器の設置台まででき、圧気の配管も完了したようだ。蒸気機関車の蒸気よりも魔導加速器で作り出す圧気の圧力が低いため配管の管径はかなり太くしているそうだ。


 ブレーキは動輪に対して直接制動を加えるため、踏面とうめん(車輪のレールの上面と接触する面)に対して鉄製のブレーキシューを押し当てる方式だそうだ。


 良くは分からないが、ブレーキ用シリンダーに圧気を送るとブレーキが外れ走行可能になり、圧気を抜くとスプリングでブレーキシューが踏面とうめんに押し付けられる仕組みだという。さらにシリンダーの逆方向に圧気を送るとブレーキシューが踏面とうめんに強く押し付けられるので急制動きゅうせいどうがかかる。ここらは運転手予定のペラが知っていればいい知識なので、俺はとりあえずスルーでいいだろう。


 ここまでアスカが製作したところで、昼食時になったので、屋敷に戻り手を洗って食堂に入った。



「アスカさんたち、また何か新しいものを作っているんですか?」


 ラッティーが興味ありそうに聞いてきたので、


「鉄道というものをこんど試しに作ったんだけれど、その上に走る馬なしで走る馬車みたいなものを作ってるんだ。危なくはないからラッティーも興味があるなら昼から見にくればいい」


「馬なしの馬車はただの荷車ですよね。それが勝手に動くなんて楽しみ」


 ラッティーは毎日一生懸命いっしょうけんめい勉強してるから息抜きも必要だろう。いつも息抜きばかりの俺だからこそわかる。


「実際に動くのは最後の部品が届く来週だが、形だけは今日明日きょうあしたでほとんどできてしまうぞ」


 だそうです。



 要するに、魔導加速器さえあれば、アスカにかかると三日で機関車ができてしまうのか。この調子でいけば、十日もあれば人工衛星も打ち上げられるんじゃないか?


「ロケットの先端部分を秒速8キロまで加速するだけですので、推進剤の組成そせい工夫くふうすれば、打ち上げるだけなら可能だと思います。ただ、人工衛星の中身は何もありませんのでただの空箱になります」


 だそうです。


 確かに、空っぽの箱でもこの星の周りを回れば人工衛星になるのだろうが、それは別名デブリともいう。




 食事を終えてしばらく休憩したあと、ラッティーを伴って造船建屋にやって来た。


「これが、馬なし馬車。下には鉄の棒が二本そろって並んでその上を走るんですね」


「鉄の棒をレールというんだけど、本当はこれがどこまでも続いているんだ。凸凹でこぼこがない分、上の車が速く走れるわけだな」


「へー、どのくらい速く走れるんですか?」


「アスカさん、どの程度でこれは走れるの?」


「この機関車のモデルと37キロレールの組み合わせですと、平地で空荷からになら時速50キロは出せると思います」


「だ、そうだ」


「下のレールさえ延ばせばどこでも行けるんですよね。そしたら、アトレヤまでレールを延ばせば王都からアトレアまで簡単に行けるようになりますね?」


「レールを敷いていくのはそれなりに大変だけど、ラッティーがセントラル大学を卒業するあたりにはレール伸ばしてしまいたいな」


「マスター、あまり安請やすうけ合いはいけません」


「アトレアまでは厳しいかもしれないが、そのうちキルンまでは伸ばしたいと思うんだけどな。鉄なら何とかなりそうだろ?」


「今のところは不可能ではないとだけ」


「実際のところ、俺たちだけなら『スカイ・レイ』に乗って行けば速いし簡単だけどな。そうだラッティー、お父さんに会いたくなったら早目に言えよ、連れて行ってやるからな。俺とアスカは買い物できるからラッティーのためだけじゃないので遠慮えんりょするなよ」


「ショウタさん。ありがとう」


 たまの息抜きは誰でも必要だ。


「アスカがラッティーのことを見てるから心配はしてないけれど、あんまり頑張りすぎは良くないというからほどほどにな」


「はい。ショウタさんをいつも見てますからそれだけは大丈夫です」


 さいですか。






[あとがき]

山口遊子(やまぐちゆうし)のフォロワーさんが350名を越えました。ありがとうございます。


宣伝:

SF・コメディー、

『法蔵院麗華~無敵のお嬢さま~』 

https://kakuyomu.jp/works/1177354054904992245 よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る