第254話 こうなったら機関車作っちゃいますか?


「マスター、機関車の動力として魔導加速器を考えていますので、早めにボルツさんを通じて注文してしまいましょう」


 冒険者学校からの帰り道。


 機関車の話をしながら駆けている。アスカの考える機関車は、石炭を燃やす汽車きしゃではないようだが、どういったものができるのかは俺には皆目見当かいもくけんとうもつかない。それでもアスカが何とかすると言うのだから、そのうちちゃんとしたものができるのだろう。


 屋敷に帰る前に、ボルツさんの工房に寄って、アスカの指定する魔導加速器を購入してもらうように頼んでおいた。今回はボルツン3号艇用に早めに注文しているものがあるので、それを回しても問題ないということで、納期は一週間で何とかなるだろうということだった。今ボルツさんの工房では、『ボルツR2型2号艇』愛称は『ボルツン・ツー』の建造が最終段階に入っているようで、ボルツさんはじめ気合きあいを入れて頑張っていた。この2号艇のあとは、3号艇を建造する予定で、3号艇については騎士団に納入のうにゅうすることが決まっている。



 今日はそのくらいで、屋敷に戻って、夕食前に時間がまだだいぶあったのでアスカに機関車の動力部分の説明を受けた。


「基本的には蒸気でピストンを動かしてそれで動輪どうりんを動かす蒸気機関車と同じです。今回は、魔石の魔力を使い空気を二段式の魔導加速器で圧縮空気に変えて石炭と水で作り出す蒸気の代わりします」


 なるほど、アスカによると、そういうことなんだそうだ。なるほどなー。


 俺としては、材料と魔石を収納から出してやれば機関車がそのうちできるということだけは分かった。


「それでアスカ、材料は何と何が必要なんだ?」


「鋼鉄でほとんどの部品を作ってしまいますので、大型部品はスチール・ゴーレム、小型のものははがねのインゴットで作ります。そのほか若干じゃっかんの鉄と真鍮しんちゅうのインゴットでしょうか」


「どこで作る?」


造船建屋ぞうせんたてやで作りましょうか。屋根の下に簡易的かんいてきに一組12.5メートル分のレールを敷いて、その上で作っていきましょう。台車もレールの上で作れますから、ちょうどいいでしょう」



 さっそく、造船建屋にまわり、『シャーリン』用の船架せんかを一時収納して枕木まくらぎを並べ、その上にレールを二本置いておいた。アスカによってレールが犬釘いぬくぎで枕木に固定されていき、12メートルちょっとのレールが一組でき上がった。


 その日は、そのあたりでいい時間になったのでレールの脇にアスカの指定していた金物かなもの類といつもの工具類を並べて置いてやり俺たちは作業を終了した。


 夕食前に一番で風呂に入っていたら、隣の女風呂に人が入った気配がした。この時間に自由に風呂に入っているのは俺とアスカしかこの屋敷にはいないので、アスカなのだろう。


「マスター、じきに機関車が完成すると思いますが、この世界もすこしずつマスターの世界のようになっていくんでしょうか?」


「そうだなー、よくは分からないが、この世界の人たちは俺のいた世界の人たちと比べても優しい人間が多いような気がするんだ。大きな戦争だってあんまりないようだし、いま争いごとの基本は『魔界ゲート』がらみなんだろ? 技術の進歩はやっぱり野心のある連中が必死になって努力していかないと新しいものなんかは生まれにくいんじゃないか?」


「それでも、マスターのような召喚された人たちが新しい考え方や知識を少しずつでもこの世界に残していけばこの世界も少しづつ進んでいくんじゃないでしょうか?」


「それはそうだが、俺の場合はアスカがいてくれたからこそだし、他の勇者たちといった連中はそれなりに訓練なんかで忙しいんだろうからなかなか思うようにはいかないと思うぞ」


「マスターはあまり気にしてはいないようですが、『スカイ・レイ』にしても、マスターがボルツさんを援助していなければでき上らなかった物でしょうし、今回もマスターの思い付きから機関車がこの世界に登場します」


「アスカは何がいいたいんだ?」


「私が思うに、マスターは勇者召喚に巻き込まれて召喚されたということですが、実は、この世界そのものに呼ばれたのかもしれないと思いました」


「この世界そのものか。それだと、『魔界ゲート』がどうなっても俺は元の世界に戻れそうもないな。とはいっても、両親にだけは悪いとは思っているが、俺自身この世界に来て以来やっていることに不満は何もないし、このままやっていきたいとも思っているから逆に丁度いいかもな」


「マスター、これからもよろしくお願いします」


「急にどうしたんだか知らないが、俺からもよろしくな」


 アスカが良く分からないことを言っていたが、俺がこの世界そのものに呼ばれてやって来たのなら、もしかして俺が主人公? ないな。




 翌日は朝の日課を終わらせ一休みしてから、アスカの機関車製作を見学することにした。昨日きのうの夜間にかけて、たまにカンカン音がしていたので、アスカが何かをたたいて部品でも作っているんだろうなと思ったが、造船建屋に来てみると、レールの上に大型の台車が乗っかっていた。


 車輪は大型のものが左右に一個ずつ、その後ろに小型のものが左右に三個ずつ並んでいた。大型のものはおそらく機関車の動輪になるのだろう。


 その動輪の一カ所に外側に向けて円柱形の短いシャフトがくっついていて、反対側の動輪にはその180度の位置に同じシャフトが外側に向けて突き出ていた。ここに前後するピストンから伸びる、先端が輪になった大型のシャフトをはめ込んで動輪を回転させるのだと思う。


 鋼鉄製と思われる各車輪も、内側につばが張り出したいわゆる鉄道の車輪だ、車輪の踏面とうめん(レールの上面と車輪が接触する面)は外側に向かってゆるやかに削られてやや傾斜がついている。


 俺の記憶だけではここまで作れないだろうから、アスカがいろいろ考えて造ったのだと思う。


 台車の脇には、太めのシリンダーが二つと細めのシリンダーは二つ、それぞれ用にピストン。先ほどいっていた、ピストンと動輪を繋ぐ先端が輪になった大型シャフトも二本できていた。


「動力部分は、圧気あっきべん機構部きこうぶ、いわゆるバルブボックスを造ればほぼ完成です。魔導加速器が一週間後なのが待ち遠しいですね」


 知らぬ間に、機関車の大まかな部分はでき上っていたようだ。



[あとがき]

宣伝:

SF・コメディー、2020年9月4日16:18より投稿開始

『法蔵院麗華~無敵のお嬢さま~』 「宇宙船をもらった男~」の外伝に当たります。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054904992245

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る