第252話 取りあえず順調、順調。


 アスカ製メイスを生徒たちに渡して、その後訓練をしばらく見ていたが、そろそろおいとますることにした。


 メイスの素振すぶりを続けていた生徒たちは、そのころには早くも腕がなえてきたようでつらそうな顔をしている者が数人いた。


 まあ、頑張れ。数日は筋肉痛が続くだろうが、そこを乗り切れば楽になる。可能性もある。



 カリキュラム的に言えば、まだ使用するのは先なのだが、一応、訓練用の投擲弾とうてきだん、防爆用の盾、それと予備のメイスとポーション類をそれなりの数を一階の物置の中に納めてアスカと俺はペラに後をたくし帰路についた。ポーション類は備え付けの棚の引き出しの中に並べて置いている。



 アスカとトンネルを使ってショートカットして屋敷に向かいながら、


「思った以上にペラは教官としてよくやっていたな」


 タッタッタッタッ。


「そうですね。私も安心しました」


 タッタッタッタッ。


明日あしたも、生徒たちはランニングに素振すぶりか。第一期生は失礼なヤツらばかりと思っていたが、冒険者の卵としてはなかなか優秀そうで物になりそうだな。そのうちスタープレイヤーが出てくれば面白いがな」


「どうでしょう。しかし、ペラがきたええるわけですから、そこそこの冒険者になるとは思います」


 タッタッタッタッ。


「ペラの訓練についていければ三カ月で中級なみの冒険者になると思います。ここ二週間程度で、相性あいしょうなどを見てパーティー編成を決めていきますが、どうしてもパーティーにはめ込めないものが出るでしょうから、そのあたりどう対応していくかが問題になってくると思います」


 タッタッタッタッ。


「パーティーについて言えば、最初は、特に相性が悪いなら別だが、女性四人は同じパーティーの方がいいんじゃないか?」


「そうでしょうね。たった一日しか見ていませんのでこれから先は分かりませんが、同じ部屋で寝起きしているわけですから、同じパーティーでいいとは思います」


「まあ、まだ先のことだし追々な。あの調子なら、ペラに任せておいても問題はなさそうだ」


「そうですね」


 高速で走りながらでも息が切れることもないため、普通に会話できるのはかなりすごいし、便利だと思う。


 ここまできてしまうと、元の世界に戻れたら、オリンピックでメダルがどうとかでなく、宇宙人としてどこかの組織に拉致らちされて生体解剖せいたいかいぼうされる水準かもしれない。




 翌朝。


 フォレスタルさんが、試験坑道しけんこうどう坑口こうぐちからレールを敷いたトンネル出入り口までの屋根の設計図を屋敷に持参じさんしてくれた。


 見た目は学校の渡り廊下のようなものになるらしい。路面ろめんは一応舗装ほそうしてもらうが、雨さえしのげればいい非常に簡単な作りのため、すぐに着工し来週には完成するという話だった。フォレスタルさんがいつものように見積みつもりも持参していたのでアスカのチェックを経て発注した。


 フォレスタルさんが帰ってしばらくしたら、こんどは、王宮から土地の使用許可証が届いた。


 これで気兼きがねなくトンネルの東側出入り口周辺の整備も始めることができる。どうせフォレスタルさんに頼むことになるので、さっき話だけでもしておけばよかったが、少し先でも問題はないだろう。



「ふー、なんとか落ち着いたな」


「そうですね。あとは、冒険者学校の訓練関連で投擲とうてき訓練用のポールの設置くらいです。私の方は、レールの上に乗せる台車を金物かなもので作ってしまうところが残っていますが、まだ先で大丈夫です」


「そうか。それじゃあ、昼からでも学校の方に行ってポールを立ててくるか。ダンジョンの通路の幅で二本棒を立てて、上の方に目印になる横木をダンジョンの天井てんじょうの高さに合わせて作ればいいんだろ?」


「その通りです」


「材料の木はどうする? いま俺の持っている在庫だと良さそうなものが見当みあたらないようなんだが」


「訓練用のポールですから、適当な木材でいいので、使用許可の出たトンネルの東側出入り口辺りでまっすぐな針葉樹しんようじゅでも見つけてそれを使いましょう」


「そうだな。あそこらあたりにはそれなりに木も生えていたから大丈夫だろう」




 昼食を終えて、少し休憩したあと、アスカと一緒に冒険者学校に向かう。途中、雑貨屋に寄って、ポールの横木がはっきり見えるように塗ろうと、黄色い塗料とりょう刷毛はけを買っておいた。



 王都の西門を抜けて、そのまま駆け続けて、トンネルの東口に到着。


「けっこう木が生えてるな」


 そこから少し山の斜面を登った周りにそれなりの数の直立した針葉樹が雑木ぞうきの間に生えていたのでアスカが枝を払いながら伐採ばっさいしたものを俺が順次収納していった。


「これくらいでいいんじゃないか?」


「余分に持っていれば、今後役に立つでしょうからもう少し伐採しておきましょう」


 アスカはそう言うのだが、あまり斜面の木を切り倒すとよくないと聞いたことがあったので、それから10本ほど追加で伐採しただけで作業は終わらせた。払った枝は邪魔なので俺が収納しておいた。



 その後は、トンネルの坂道を駆け上がっていく。アスカがともしたカンテラを持っているので、明かりが揺れることはなく、トンネルの坂道の中レールの脇を通って登っていった。


「ちょっと傾斜がきついから、台車を作るときにはブレーキを考えないとペラでもきついんじゃないか」


「ペラで大丈夫だとは思いますが、ペラが枕木の上などで踏ん張ふんばったりすると、枕木やレールが傷む可能性がありますから、根本的に見直す必要があるかもしれません」


「根本的?」


「はい、この際ですから機関車を作ってしまいましょう」


「機関車? 石炭で走るあの汽車きしゃか?」


「いえ、既存の魔道具を工夫くふうして魔石で動く物を考えてみます」


「それができれば、すごいことだな。この世界で産業革命が始まるんじゃないか?」


「そんなに数を揃えることはできませんし、魔石はマスターだからこそ簡単に入手できますが、一般では高価なものですのでそこまでの経済的インパクトは発生しないと思います」


 それでも、アスカが言い始めた以上、なにがしかの物は完成するのだろう。相当すごいことがこれから起きそうな気がする。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る